『廓文章 吉田屋』2012年12月 南座昼の部その4  | はじめての歌舞伎!byたむお

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2012年12月南座の顔見世、昼の部最後の部は、
『廓文章(くるわぶんしょう)/ 吉田屋(よしだや)』
です。

これまでの3つの演目は、東京、お江戸が舞台。

今度は関西、上方が舞台です。










紙衣、紙(かみ)の衣(ころも)で「紙衣(かみこ)」と読みます。


江戸時代の町人の着ている衣でしたら、


麻とか綿などが一般的だと思います。





しかし、すんごい貧乏で着物がつくれなくなったら?


質屋に入れた着物を、取り戻せなくなったら?





という、けっこうキツ~いシチュエーションでの


苦肉の策、「布がなかったら紙だっていいじゃないか」作戦。


これが「紙衣」です。





まず、紙なので風通しがいい、と言えば聞こえはいいが、


冬は寒い。濡れたら破れる。あんまり、いいもんじゃないですね。





ちなみに、『助六』の芝居では、助六の母が紙衣の着物を


もってきて助六に着せますね。


あれは、喧嘩をしないように(喧嘩したらすぐ破れちゃう)、


という戒め用です。





しかし、助六も今回の伊左衛門も、男前の主役ですから、


みすぼらしいという紙衣でも、本当にみすぼらしく見えるもの、


というわけにはいきません。





そこは、「嘘」、「虚飾」の世界の歌舞伎ですから、


格好良く見せないといけません。





たとえば『義経千本桜』で静御前は義経を追って


吉野の山奥まで行くわけですが、


お姫様の格好で裾を引きずって、


何十キロも山道を進んだとは思えません。


汚れるし、敵に一瞬で見つかりそうですし。


でも、そこはそれ、「きれいだから」という理由で


綺麗なお姫様の格好。





男性陣もまけて入られません。


関東のいい男の助六さんに対抗して、


関西のいい男代表として頑張ってもらいましょう。





ええとこのボンボン、藤屋伊左衛門さんです。


演じるのは、坂田藤十郎さん。





「藤屋」はすんごいお金持ちの商家。


そこの息子が伊左衛門さん。


藤屋財閥のお坊ちゃまって感じでしょうか。





当然、遊び方も半端じゃないです。


「吉田屋」は大阪の遊郭の超VIPが行くお店。


ここで、絶世の花魁、夕霧太夫のもとで、


豪快にお金を使います。





コツコツお金をためた成金タイプではなく、


苦労せずにお金をパパからもらっているので、


あんまり深いこと、細かい計算とかなしに、


あるから使っちゃうという感じでしょうか。





藤山完美さんの逸話、パーティーのとき停電が起こり、


まわりの人がロウソクを探そうとしたら、


チップ用にもっていら札束に火をつけて、


灯りに使ったとか。





伊左衛門さんも、遊びに遊んで、お金を使いまくり、


さすがにこれはアカンと思われたのか、


パパから「おまえは勘当じゃ!」となります。





というわけで、財閥のおぼっちゃまが


ビンボーモードになるわけです。


「身をやつす」といいます。
この「やつし」については、この記事も読んでいただけると
ありがたいです。





ところが、ちっとも苦労してないもんだから、


勘当されてピンチとなっても、


切羽詰ってあたふたするというより、


まあなんとかなるか(周りがなんとかしてくれるか)的な


ゆる~い雰囲気があります。





紙衣(かみこ)といえども、使うその紙は、


夕霧太夫からのラブレターです。


ここは歌舞伎の「虚飾」でなんともカッコイイ衣装。


紫の布と布のあいだのつなぎの部分が、


黒い紙になっていて、その紙に夕霧太夫からの


手紙が金や銀色の文字で書かれています。





なので、観客としては、カッコイイ衣装だなぁ、


と素直に思いながらも、頭を切り替えて、


いやぁ、あんなボロい服でかわいそうに…、


と同情しなければなりません。





さて、伊左衛門さん、そろそろお正月だなぁという、


年の暮れに『吉田屋』の前にやってきます。





昔は年末に餅つきをやって、


お正月に食べたんですね~。


阿波の国のお金持ちがお店の人たちに


餅つきをさせています。





そのバブル真っ盛り~なおっちゃんが


店の中に引っ込んだあとに、


編み笠で顔を隠した、“みすぼらしい(ということになっている)”


紙衣(かみこ)の着物に身を包んだ、


バブルはじけちゃった~な男性がひとり。





いったい誰なんでしょう?





この芝居観たことある人、


パンフレット読んでいる人、


みんな知っていますが、


ここは自分をプチ洗脳、





「なんやらしゅっとした男前っぽいけど、編み笠で顔が隠れて、誰かわからへんな~」





わからない、ということにしておきましょう。








吉田屋の店の掃除をしている人に、


「喜左衛門(お店のえら~い人)はおるか?」


と聞きますが、


「お前みたいな(みすぼらしい)ヤツの来るところちゃうで~」


と、まさに門前払い。





そこに、たまたまやってきた喜左衛門さん、


「ああ、これはこれは伊左衛門さま。お懐かしゅうございます。」


そこで、ようやく編み笠をとって観客の前に顔を見せます、


主役の藤屋伊左衛門さん。





バブルはじけて貧乏のどん底、遊ぶ金どころか


生活費もたいへんなんちゃうの~、


と、こっちが心配になるような伊左衛門さん、


吉田屋へいったい何しにやってきたの?





喜左衛門との会話によると、自分が贔屓にしていた


大阪一の花魁(おいらん)の夕霧太夫(ゆうぎりだゆう)が、


自分が来ないようになったので、気がふさいで、


体調を崩しているという噂を聞いて、


心配になって来てしまった、とのこと。





いかにものんきなボンボンの行動です。





単にほかの理由で体調崩してるかもしれないし、


お客を再び店に呼ぶための方便で、


伊左衛門が来なくなったら…と言っているだけかもしれないし、


な~んてことは一切考えず、


誰かが「伊左衛門が来なくなったら…」と言ったら、


「ああそうか、私のせいで…、心配やなぁ~」と素直に信じちゃう。





だいたい、あんた人の心配してるような情況ちゃうやろ~、


とツッコミたくなります。





にくめないキャラの伊左衛門さんに、


お寒いでしょう、中へどうぞ、


と、お金もってないのはわかっていながらも、


喜左衛門さんはお店の部屋に案内します。


しかも、自分の羽織まで貸してあげます。





いい人ばっかり。





お店の中に入ったら、夕霧太夫に会いたいなぁ~、


と思っているのですが、夕霧太夫はいま、


阿波のお金持ちのところへ行っていて、会えません。





「会いたいなぁ~」


「なんで~、すぐ会えへんの~」


「病気って聞いたのに、他の人のところに行ってるって、元気なんちゃうの?」





おい、小学生か、お前!


ってくらい単純な思考回路。


でも、ボンボンやし、男前やし、憎めへんなぁ~。





ボンボンの味方して、店の女将もうまいことはからってくれて、


夕霧太夫をお座敷から抜け出させて、


伊左衛門のもとに来れるようにしてくれます。





そしたらボンボン伊左衛門、


ボーっとしてても退屈やし、もう寝るわ~


とか言い出して、炬燵の横で寝てしまいます。





もちろん、寝たふりで本当は起きてます。





夕霧太夫が出てきたときに、


「会いたくて会いたくて思わず来ちゃいました。」


とか


「心配で心配でずっと夜も寝れませんでした。」


という表情を見せたくないのでしょうか。





別に心配で来たわけじゃないです、


ただ遊びに来ただけですよ~、


という体裁をつくろっているのでしょうか。





小学校だったら好きな女の子に


わざと好きじゃない、とかいうタイプですよね~。





夕霧のほうも、コイツ寝たふりしてるだけやなぁ、


とわかってますから、揺さぶって起こすのですが、





「他の男のもとに行きやがって~」





的な恨み言を言って起きます。





狸寝入りがばれたとかには気付かず、


一年もやってこないで、しかも突然やってきたのだから、


そりゃあ夕霧さん、当然ほかの男のお座敷に行っているはずですが、


そんなことはお構いなしです。


も~う、この人ボンボンなので、許してあげてください。





夕霧さん、ひどいこと言われて、


会えない間どんなにつらかったかということを


伊左衛門に伝えます。


どうやら本当に伊左衛門のことが気になって


病気になっちゃったみたいです。





うう、かわいそうに~。





夕霧太夫を演じるのは中村扇雀さん。


今回のために新しい衣装にも挑戦されたとか。


二つのタイプの衣装は、扇雀さんのブログにもアップされてましたね。





さらに美しく見せようと、


糖質制限ダイエットもされたとか。





そこに、登場したのは喜左衛門さん。


幕切れは突然に。


なんと、「勘当だ!」と言ってたパパが一転、勘当を解いてくれました。


しかも、夕霧太夫の身請けのお金も出してくれました。





千両箱がドン、ドン、ドンと積まれます。


めでてぇ、めでてぇ。





というわけで、伊左衛門はパパのお店の藤屋の若旦那に、


夕霧太夫は吉田屋を出て、藤屋の若女将におさまることになります。








み~んな幸せ。ハッピーエンド。


(ちょっと強引な感じもしますが、「歌舞伎」ですしね。)




お正月を迎えるにはいいお芝居ですね。


めでたし、めでたし。





WOWWOWで録画した「新春浅草歌舞伎」の『吉田屋』では


片岡愛之助さんの伊左衛門、


今回は南座で坂田藤十郎さんの伊左衛門。


そして、新しい歌舞伎座のこけら落とし公演では、


片岡仁左衛門さんの伊左衛門です。





楽しみです。









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