シリア前回 のつづき)


アラブ世界とイランとの間に相互の影響を見る視点から、アラブの春がイランに跳ね返り、現体制を揺さぶるのではないかと期待している向きもある。またイランの体制は、それを懸念しているだろう。


こうした解釈が妥当であるかは別として、アラブの春はイランの外交関係に具体的な形で影響を与えている。 この現象によってアメリカが受けたマイナスの側面は、イランにとってのプラスである。例えばエジプトである。ムバラク後の新しい政権は直ちにイランとの国交回復へと動き始めた。かつて王制の時代は、イランのシャー(国王)とエジプトのサダト大統領は親密な関係を維持していた。革命後の1980年に亡命先で死亡したシャーがカイロのアルリファーイ・モスクに葬られたのは、象徴的である。シャーのイランとエジプトの関係が良好であったということは、シャーの体制を打倒して成立したイランの革命政権とエジプトの関係がよいはずはなかった。革命の起こった1979年にイランとエジプトは国交を断絶し、現在に至っている。エジプトの方向転換はイランにとってのプラスである。


しかしイランにとっても、アラブの春は手放しで喜べる状況ではない。それは民主化要求がイランの同盟国のシリアに波及したからである。シリアの動揺はイランにとっての大きなマイナスである。もしシリアのアラウィー派の支配体制が倒れるような事態になれば、イランは同盟国を失う。それはシリア経由でイランが支援を与えてきたレバノンのシーア派組織ヘズボッラーにとっても、またパレスチナのハマスにとっても重大な事態である。シリア経由では、もはやイランからの支援が届かなくなるからである。それは、シリア以東のイラン同盟者たちが壊死してしまう可能性すら意味している。


>>次回 につづく


※『石油・天然ガスレビュー』2012年1月号に掲載されたものです。


イスラエル・パレスチナ 平和への架け橋
高橋 真樹
高文研
売り上げランキング: 105043