指揮官は語る(イバン・ロドリゲス編part2)第3部 | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 この記事は続き物です。まだ第1部と第2部をお読みになっていない方は、こちらのリンクからどうぞ。第1部:http://ameblo.jp/systemr1851/entry-11978574304.html  第2部:http://ameblo.jp/systemr1851/entry-11978604565.html


(野球界の未来について)

―:ヨーロッパ野球はここ最近物凄いスピードで成長を続けていますが、依然として小さなスポーツであることに代わりはなく、まだまだクリアしなければならないことがたくさんあるように思います。ブレークスルーを果たすためにはどんなことが必要でしょうか?

ロ:世界に、スポンサーに、そして企業に対して野球がグローバルなスポーツであると示すことだ。サッカーの3部や4部のチームにさえ多額の金が投資され、それに対して野球のトップリーグがその1%程度しか資金を得られないなんて馬鹿げてるよ。仮に、ヨーロッパ野球が今サッカー界が手にしている財力の半分でも手に入れられたなら、状況は劇的に変わるはずだ。


 オランダは世界的には小さな国であり、我々はサッカーよりもいい結果を過去にも現在にも残し続けてきたにもかかわらず、その事実を知る人はまだ少ない。オランダは昨年のヨーロッパ選手権で優勝を果たしたが、その結果を報じた新聞を読んだときは悲しかった。野球オランダ代表が優勝した時、そのニュースはオランダ国内の大手の新聞に1面で取り上げられたけど、その記事は100の単語にも満たないくらいの小さなもので写真も貼ってなかった。それに対して、より多くのスペースを割いて大きな写真も掲載されたのは、(具体的にどのクラブかは忘れたけど)オランダを代表するサッカークラブがリーグ戦で負けた、という物だったんだ!!私は、オランダ野球がメディアで取り上げられる機会はどんどん増えているけれど、まだ十分ではないと思う。我々が欧州諸国でやっていることに対して、もっとリスペクトとサポートが欲しいんだよ。


―:もし、ヨーロッパに年間100試合超の試合をこなすリーグを立ち上げるとしたら、そのためにどんなものが求められるでしょうか?

ロ:ドーム球場だね。そうすればもっと長く、冬にだってプレーすることができるようになるだろう。そうでなければ実現するのは不可能だと思う。残念ながらまだこの大陸での野球はプロフェッショナルではなく、選手たちは職場や学校に通いながら週末に試合をしているんだ。選手全員が週に4試合も5試合もプレーできるような状況にはない。彼らは仕事に行ったり、また将来的に社会人としての生活を送るための準備として学校に行かなきゃならない。残念なことに、それが今の唯一のオプションなんだ。


 あるいは、各クラブがもっと大規模な財政的サポートを受けて、選手たちをプロとして雇えるようになることだね。それがプロフェッショナルたるために必要なことだ。おそらく、野球だけで生計をたてられているという選手は全体の10%にも満たないんじゃないかな?


―:ヨーロッパ中のトップクラブを集め、年間100試合以上をこなす「ユーロピアン・ユナイテッド・ベースボールリーグ(EUBL)」のようなアイデアが実現する日が、いつか来ると思いますか?

ロ:非常に素晴らしいアイデアだと思うが、その実現には多額の資金が必要だし今はそういう時期ではない。残念なことに、スポンサーが撤退して財政的に厳しい状況を向かているクラブは少なくないんだ。もちろん非常に夢のある話ではあるけれど、やはりスタジアムと資金の問題をまず解決しないといけないね。


―:現在、我々ベースボールブリッジはヨーロッパのトップ選手に対する日本球界の移籍支援事業に着手しています。これはヨーロッパ球界に対してどんな影響をもたらすと思われますか?

ロ:暗いトンネルの中にいる選手たちに対して、光をもたらしてくれることだと思う。競技人口が年々増えていることもあって、MLBでプレーするのはここ最近難しくなっているんだ。ヨーロッパ人の選手たちが夢を見る、その夢を実現するための機会を与えてくれる、とても重要な活動だと思うよ。


―:もし我々日本人がヨーロッパに飛んで、既にヨーロッパ球界で働いている人々とともにその発展のためのお手伝いをできるとしたら、どんな形での協力が考えられるでしょうか?

ロ:既に日本において野球界をサポートしている企業に、そのネットワークを生かして欧州球界に対しても投資するよう促すことだね。それと、日欧両球界を選手たちが行き来できる仕組みを作ること。これは非常に大きなステップとなるだろう。しかし、選手たちだけではなく指導者の養成も大切なんだ。もし日本人指導者をヨーロッパに招くことができれば、そこで得られた情報を選手たちに還元できるから非常に意義があることだ。同様に、ヨーロッパ人の指導者が日本に研修に行くこともとても大切なことだと思う。


―:西暦2045年におけるヨーロッパ球界をイメージしてみてください。どんな世界が見えますか?

ロ:その世界を実際に見るために、自分が地球上にまだ生きながらえていることをまず祈りたいね(笑) その時、きっと野球界は完全に国際化を成し遂げているだろう。一年中世界的な規模でリーグ戦が展開され、毎週末に世界のどこかで代表戦が繰り広げられている。W杯みたいなものだけど、それが1年間という長いスパンで行われているんだ。もちろんその頃には私は引退して、自分の息子が現役の最晩年を迎えているか、もしくは既に指導者に転身しているところを見ているだろうね。


 どちらにせよ、ファンタスティックな世界だと思うよ。小国が大国を倒すのが当たり前になっているような世界を是非見たいものだね。現在の世界ではまだ野球というスポーツをプレーしていなかったり、どんな競技か知らないような国々が、当たり前のようにW杯のような国際大会に出場して戦っているのさ!!


―:どうもありがとうございました。今シーズンの躍進をお祈りしています。


 第1部にも書きましたが、今回のインタビューはロドリゲス氏自身がわざわざ先方から要請して時間を割いてくれたものでした。そもそも、ヨーロッパの現場にいる人々にインタビューできること自体が物凄く貴重な機会なんですが、昨年こそ不調だったものの過去10シーズンで7回タイトルを獲得しているドイツの超名門チームの指揮官に、それも本人からのリクエストで取材ができたというのはなんだかもう、色々と超越しすぎてます。世間的にはなんてことない3本のブログ記事かもわかりませんが、俺個人としては本当にとてつもないことです。まずこういう機会をもらえたことに、本当に心から感謝したいと思います。Gracias, Ivan!!


 そして、1つ1つの質問に対しても非常に真摯に答えていただきました。自分としても聞きたいことが多すぎて、合計26問というかなりの質問数になってしまいましたが、返ってきたのはとても貴重な意見ばかり。1人の欧州野球ファンとして、野球の国際的発展の為に活動するNPOの代表として、学びがとても多かったと思います。これまで取り上げてきた「指揮官は語る」シリーズの中でも、今回の取材は特にやれてよかったと思える企画になりました。読者の皆さんにとっても、この3本の記事が何かしらを残してくれるものになってくれたら、心から嬉しく思います。