指揮官は語る(イバン・ロドリゲス編part2)第2部 | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 この記事は続き物です。まだ第1部をご覧になっていない方は、こちらのリンクからどうぞ。http://ameblo.jp/systemr1851/entry-11978574304.html


(外国人としてみたヨーロッパとそこで展開されている野球について)

―:あなたはご自身の母国であるベネズエラで仕事をした後、ヨーロッパに渡ってらっしゃいますね。欧州とベネズエラの野球の、最も大きな違いとはどんなことでしょう?

ロ:ヨーロッパの野球は、あまりにもアメリカ寄りになりすぎているよ!!攻撃的な走塁やスモールボール的なアプローチは、私はヨーロッパでは見たことがない。もちろん、ヨーロッパにおいても非常に素晴らしい打線を持つチームは存在するが、それらは優秀な選手を手に入れてパワフルな打線を構成できるだけの、優秀な財力を持つ限られた3つか4つのチームに限られる。もちろん、破壊力満点の打線を君が構成できる力があるならそれで全く問題はない。しかし、こうしたモンスター級のチームと対峙することになれば何か他に工夫をしなければいけないはずだが、そうしたものを私はあまり見たことがないんだ。


 ヨーロッパのチームの練習は、さながらアメリカで行われているものを見ているかのようだ。球場に来てから何球かのキャッチボールをして、打撃練習で20球打って家に帰っていくだけというルーティンには、本当に(悪い意味で)驚かされた。もちろん、幸いにもそれはここ数年変わりつつあるけれどね。私はオランダで、オランダジュニア代表の指導という仕事をすることができた。今まで自分が見ていたのとは違う練習スタイルが根付き始めていたのを見られたのは嬉しかったよ。


 それと、我々ベネズエラ人にとっては文字通り野球は全てなんだ。我々は本当に野球というスポーツに対してハングリーだし、MLB球団との契約を勝ち取るためにあらゆる手を尽くそうとする。残念ながら、ベネズエラは決して裕福な国ではないからね。ベネズエラという国において、プロ野球選手という肩書は物凄いステータスなんだよ。医者や教師、ビジネスマンであること以上にね。ここヨーロッパではしかしそうではないんだ。まず自分のキャリアを他に確保しておいて、もし選手として契約してもらえたらそっちに専念するというのが一般的な流れになっている。このスポーツをプレーしている選手の多くにとって、まだ野球はあくまでも趣味の延長線上にあるものであって、完全に仕事としては根付いていないということなのかもしれない。


―:そもそもベネズエラからオランダに渡られた理由とはなんだったのでしょうか?

ロ:主な理由は、より良い仕事の機会を探すことだった。ベネズエラは10年以上にもわたって危機的な状況にあり、そこで多くの機会がありフレンドリーな国としてオランダに照準を定めたんだ。自分にとってはとても素晴らしいキャリアを捨てて、成功するかもわからない冒険に出たようなものだったよ。幸運にも私は結婚して、今はL&Dアムステルダム・パイレーツでプレーしている息子も手に入れることができた。この国の野球はとても速いスピードで進歩を続けていて、自分も何かしらその助けになれると信じている。オランダ王立野球・ソフトボール協会のタレント発掘コーチである、マルティン・ネイホフと仕事ができているのは物凄くラッキーだよ。


―:一般的に言って、南米と欧州では生活習慣が全く異なりますよね。適応するのに難しさを感じたことはありますか?もしそうであればそれはどんな点で、どうやってそれらを克服してきたのでしょうか?

ロ:私は色々な国で生活してきたから、正直それほど難しいことではなかったよ。もちろん、言葉と食べ物には適応しなければならなかったけどね。ただ、私の妻が非常に多くのサポートをしてくれたし言葉も教えてくれた。今でもそうだよ!!フラストレーションがたまったことと言えば、例えば買い物に行って人々にオランダ語で話しかけた時、彼らが私を気遣って英語で返してくる、なんてことかな。もちろん、彼らが私を助けようとしてくれていること、そしてオランダ人が本当に英語に堪能であることはよく知っているけれど、自分にとっては決してそれがいいことというわけでもなかったんだよ。まぁ、オランダではどこに行ってもそんな感じだったけどね。


 それと面白かったのは、オランダ人たちの会話の輪に私が参加しているとき、彼らが自分たちが何をしゃべっているのか私にも理解できるように、オランダ人同士でも英語でずっと会話していた時だね!!ドイツではあまりそういうことはないんだ。ドイツ人は逆に、私が同じテーブルについていてもドイツ語で話し始めるから、そういう時はちょっと部外者みたいに感じたりすることはある。ただ、ドイツ語を学ぶ上では結果的にその方がいいのかもしれないね。今はドイツ語の勉強もはじめているんだけど、オランダ語の単語と似ている部分も結構あるんだ。ただ、チームでは基本的に英語で話しているし、オランダ人エースであるマイク・ボルセンブロークとは今でもオランダ語を練習しているよ。


―:欧州野球とかかわりを持ててよかったこととはどんな点でしょう?

ロ:「カリブ流」の指導スタイルで野球を教える機会を得られること、そしてそこに私の経験とこのゲームへの愛情を持ち込むことができることだね。


―:海外に渡航し、そこで生活を始めようと考えている読者に対して、何かアドバイスはありますか?

ロ:なるべく早い段階でヨーロッパの生活に適応すること、自分にとって居心地がいいと感じる、自分自身の母国出身者が集まるコミュニティという狭い枠の中に自分を閉じ込めないことだ。もちろん、海外にいると自分の母国から来た人々と話すのは楽しく感じられる。しかし、自分自身をその国に適応させることができれば、よりその国に対する優れた知識を手に入れることができるんだ。




(レギオネーレのスポンサーであるブッシュビンダー・オートモービル社のロゴ)


(日欧野球について)

―:この3月、侍ジャパンが欧州選抜とフレンドリーマッチを計画していますよね。これについては率直にどう思われますか?

ロ:野球というスポーツ自体にとって素晴らしい機会だ。今、野球界がグローバリゼーションの時代を迎えているということを思い出してほしい。こうしたイベントは、我々のスポーツにとって物凄く大きなものを与えてくれるだろう。今や、野球をプレーしているのはアメリカとアジアと中南米だけじゃないんだ。ヨーロッパも、オーストラリアも、アフリカも、皆この世界でベストなスポーツをプレーしているんだよ!!


―:このニュースは既に現地ではオンエアされているのですか?球界での反応はどのようなもので、この試合はどういった扱いを受けているのでしょうか?

ロ:今、それに向けて色々と動いているところだよ。既にニュース自体はコミュニティの中に広まっている。ただ、我々は現段階では連盟がオフィシャルな声明を出すのを待っているところなんだ。そうすればもっと色々と話すこともできるが、残念ながらまだその段階ではないね。


―:このイベントはヨーロッパ球界にとってどんな意味があるでしょうか?例えば、より多くのヨーロッパ人選手が日本球界でプレーできるようになるきっかけになると思いますか?

ロ:間違いなくそうなるだろう。今後はより多くのヨーロッパ人選手がアジア球界でプレーすることになるはずだ。ヨーロッパ人選手がこれまでにはなかったようなクラブからも注目してもらえるよう、いいプレーをしてくれることを祈っているよ。


―:ある日本のメディアは、「欧州選抜はレベルが低く、日本代表の選手にとっては故障のリスクがあるのでこの試合には反対だ」という立場を表明しています。あなたのオランダとドイツでの経験をもとに、是非これに対する反論を頂けますか。

ロ:メディアの連中ってのはいつもこうなんだよ!!初めてWBCが導入された時も、同じようなコメントがオンエアされて世界中を飛び回ったものさ。全てのMLB球団は大会に選手を派遣したがらない、何故なら時期が早すぎて故障のリスクがあるからだ、とね。もし選手たちに声を書けたなら、彼らは出場したいかという問いに対して間違いなくイエスと答えるよ。なぜなら、自分の国のためにプレーするのは怪我への恐怖より、はるかに大きな意味を持つことなんだからね!!


 ヨーロッパでも、実を言えば早い時期にプレーを始めるのはそう簡単なことではないんだよ。なぜならこっちにはドーム球場がないから、私たちはバスケットボールコートでインドアトレーニングをこなさなければいけないんだ。でも、我々は全てのトーナメントに参加したいと思っているし、そこで最高のプレーをするために最善を尽くしたいといつでも思っているよ。


―:今回は2試合若しくは3試合が行われると聞いています。今回のシリーズではズバリ、どんな結果を期待しますか?

ロ:率直に言って、今回は君たちの代表チームの方が実力的に遥かに格上だ。スプリングトレーニングの関係で、アメリカでプレーしている面々も参加できないだろうしね。ただ、具体的にどっちが何勝するか、結果がどうなるかという予想は立てたくないな。なぜなら、どんなことだって起こり得るんだからね。1つだけはっきり言っておくのは、我々のチームは自分たちのベストをこのシリーズで尽くして、君たち日本人が思っている以上にずっと難しい試合にするつもりだということだよ!!


―:今回は欧州側はオールスターという編成ですが、ゆくゆくは欧州の代表チームが単独で日本代表と対戦できる機会も来ると思いますか?

ロ:そういう機会をぜひ見てみたいね。ヨーロッパの代表チームが、W杯のようなイベントとは違う形式で日本代表と今後戦う機会がどんどん増えてほしい。これは我々のレベルを新たな次元に引き上げるための素晴らしい機会となるだろう。とはいえ、全ての連盟がこれを実現できるための財力を持ってるわけでもない。もし野球とソフトボールがオリンピックに戻ることができれば、欧州各国の連盟はこうしたイベントにより頻繁に参加できるだけの財力を手に入れられるだろう。そこに関しては全く疑っていないよ。