「リアルワールドシリーズ」の実現可能性について考えてみた | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 「あと一本でラストにするよ!!」とか言っときながら、実はなかなか記事が書けずに放置してしまっていた、2041年の野球シリーズ。本当なら、昨年度中に終わらせる予定だったんですが、結局最終回を書きあげることができないまま、ここまで伸びてしまいました。


 その最終回について、何度かリクエストをいただいていたのが、いわゆる「リアルワールドシリーズ」について。各大陸のクラブ王者が雌雄を決する、文字通りのクラブ世界一決定戦で、現行のアジアシリーズよりも、一般的なファンの方々の間でも要望度が高い大会でもあります。しかしながら、実をいうとこの大会については、俺自身は全く妄想をしていませんでした。というわけで、今回はこの大会の実現可能性を考えるというテーマで、このシリーズの最終回に代えたいと思います。


1.開催時期は?

 現状としてMLBは162試合、NPBは144試合を1年の間に戦っています。特に現行のプレーオフは、日米とも10月いっぱいまでかかるので、開催時期は11月というのが妥当でしょう。


 問題は、やはりシーズンを長丁場で戦ってきた、選手たちの疲労度。現在の日本シリーズやワールドシリーズを開催しない方式にするとしても、MLBでは最高で174試合(レギュラーシーズン162+ディビジョンシリーズ5+リーグ優勝決定戦7)、NPBは同じく153試合(レギュラーシーズン144+CS1ステージ3+CSファイナルステージ6)を消化するわけで、いくら屈強なプロ野球選手と言えど、やはり体調的には限界になります。


 ちなみに、NPBを過去の妄想シリーズで書いた、JMLBに置き換えて考えてみるとすると、日本シリーズ進出までの試合数は最大で169試合(レギュラーシーズン154+プレーオフ1回戦5+2位進出だった場合のプレーオフ2回戦3+リーグ準決勝7)なので、現行のNPBよりもさらにタフということになりますね(参照:http://ameblo.jp/systemr1851/entry-10839257000.html )。


2.開催方式は?

 パターンとして考えられるのは、次の4つ。


(1)現行のワールドシリーズと日本シリーズを温存したまま、その勝者同士が一騎打ち。

(2)現行のワールドシリーズと日本シリーズを廃止し、アメリカン、ナショナル、セントラル、パシフィックの4リーグの勝者が、アジアシリーズ方式で戦う。

(3)(1)の方式に、ヨーロッパ、アジア(日本除く)、アフリカ、オセアニアの各大陸王者1チームを加える。

(4)(2)の方式に、ヨーロッパ、アジア(日本除く)、アフリカ、オセアニアの各大陸王者1or2チームを加える。


 ここでは、(3)と(4)の方式について考えてみます。NPBとMLB以外からも大陸王者が参加する方式にする場合、それぞれの大陸ごとにクラブ王者決定戦を行う必要性が出てきます。ここで問題になるのが、すでにヨーロッパカップが実施されているヨーロッパ以外の大陸。現状では、アフリカとオセアニアでのクラブ選手権は行われていないうえ、アジアシリーズがあるアジア地区でも、参加しているのは日本、韓国、台湾、中国だけ(今年度の大会では、中国に代わってオーストラリアが参戦するようですが)。フィリピン、パキスタン、香港、インドネシアといった国々が参加しておらず、真のアジアクラブ王者決定戦とはなっていない現状があります。


 俺の妄想通りであれば、2041年時点ではこれらの地域にもプロないしはセミプロのリーグ戦が整備されており、日々熱戦が繰り広げられていることになっています。現段階では、アジアシリーズやヨーロッパカップに相当する大会がないような地域にも、こうした「大陸クラブ王者決定戦」を新たに創設する必要がありそうです。


3.試合数の兼ね合いはどうするか?

 おそらく、最も重要な問題になりそうなのが、地域ごとのレギュラーシーズンの試合数の差です。リアルワールドシリーズという大会を考えた時、その先輩格としての大会には、サッカーのFIFAクラブワールドカップがあります。サッカーの場合、基本的にどの国であっても、レギュラーシーズンは毎週1試合であり、それほど国によって試合数に差が出るわけではありません。もちろん、これ以外にも国内のカップ戦や、欧州CLやアジアチャンピオンズリーグのような、クラブの国際公式戦等もありますが、クラブW杯に出場するような強豪チームにとっては、これらの試合は必ず通らなければならない道。やはり、大会出場までにかかる負担はある程度イコールだと考えられます。


 しかし、これが野球の場合となると、話は大きく変わってきます。というのも、現状ではMLBの162試合、NPBの144試合に対して、例えばヨーロッパでは最大でも、42試合しかレギュラーシーズンの試合がありません。これが例えばフィリピンなどになると、1チーム10試合程度の、超短期リーグになっているケースもざらにあります。もちろんスポーツ文化の違いや財政的な問題から、現段階では1チーム当たり、100試合を超える規模のリーグ戦が行えないということもあるでしょうが、やはり不公平な印象は否めません。


 また、試合数の少なさと冷涼な気候ゆえに、ヨーロッパのシーズンは環太平洋地域よりも、かなり早い段階でシーズンが終了します。イタリアなども、ポストシーズンの最終戦であるイタリアシリーズを行うのは8月下旬。前述のとおり、11月にリアルワールドシリーズを戦うとなると、それまで2か月は時間が空くことになります。この間の空白を埋めるのは、協会が強権発動して、選手を召集できる代表戦ならともかく、外国籍選手の帰郷などが絡むクラブでは、おそらく簡単なことではないと思います。MLB以外の国のリーグも巻き込むのであれば、こうした不公平感を解消するためにも、新たに日米に匹敵する規模のリーグを、各国に創設する必要があるかもしれません。


4.クラブ国際公式戦に対する意識の問題

 「リアルワールドシリーズ」を開催してもらいたいという、日本の野球ファンたちの思いの背景には、「アメリカだけの内輪の王者決定戦を、ワールドシリーズと呼ぶなよ」という、漠然とした反感があるような気がします。いくらMLBが多国籍リーグとはいえ、「ワールド」と呼ぶからには、やはりアメリカだけではなく、他の国にも門戸を開くべきだ、と。その気持ちは確かに理解できますし、俺自身もどちらかというと、その立場に近い人間です。


 しかし一方で思うのは、「MLB王者にNPB王者が挑戦することを求めるのなら、同様に他の国のクラブが、NPBのチームに挑むことも受け入れろよ」ということ。少なくとも、「リアルワールドシリーズやれよ。おう早くしろよ」と片方では言っておきながら、一方で「アジアシリーズ?そんな罰ゲームなんかいるかバーカ」などと言っているような状態では、本当にこの構想が大会として成り立つとは、俺には正直思えません。


 というのも、野球の世界は何も、日本とアメリカだけで回っているわけではないからです。MLBのバド・セリグコミッショナーは、IBAFのリカルド・フラッカリ会長と会談した際、このリアルワールドシリーズに関する構想を提案したそうです。とすれば、この大会が具現化に向けて動き出せば、当然ヨーロッパ勢も黙ってはいないでしょう。それを見た、アフリカや南米やオセアニアの球界関係者も、「ヨーロッパ勢混ぜるんなら俺らも参加させろよ」となるはず。そうなった時に、果たしてこの大会の実現を望む日本の野球ファンが、大会としてきちんと受け入れられるのか。罰ゲームなどと思わず、日米対決以外のカードもきちんと楽しむことができるのか?


 単なるいちゃもんに聞こえるかもしれませんが、このファンの関心や注目度こそが、プロスポーツビジネスにおける最大の肝なんですから、これは非常に重要な問題だと断言できます。貴重な時間とお金を使って、見たくもないようなカードの試合に観戦に行き、欲しくもないようなグッズを買う人はいないでしょう。あるいは、見たくもない試合にわざわざ、テレビのチャンネルを合わせる人だっていないはずです。


 もし日米対決以外のカードが、事実上ビジネスとして成立しないのであれば、わざわざ高いお金を払って、他の大陸からチームを呼ぶ意味はないと思います。しかしこの大会が、結果として単なる日米対決に成り下がってしまうのであれば、それこそ「ワールド」と名付ける意味は半減するんじゃないでしょうか。ちょうど今の日本人が、MLBのチャンピオンシップに感じているのと同じやっかみを、日米以外のファンは感じることになるはずです。「リアルワールドシリーズ」という名称の意味を、日本のファンはもう一度考え直すべきだと思います。


 以上のことから考えると、俺自身はリアルワールドシリーズの開催について、現段階では否定的な立場です。もしかすれば、この先実現する可能性はあるかもしれませんが、そうすぐにとはいかないのではないかと。皆さんはこのテーマについて、どう思われますか?