一刀三礼。。第38期棋王戦5番勝負/第1局を振り返ろう
初防衛を目指す郷田真隆棋王に
渡辺明竜王が挑戦する、第38期棋王戦5番勝負。
注目の開幕戦/第1局が、昨日
長野県長野市「長野ホテル犀北館」にて行われました。
2手目△8四歩。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: なし
△渡辺竜王: なし
振り駒の結果、先手は郷田棋王。
初手▲2六歩に対し、渡辺竜王は2手目△8四歩と返し
対局がスタート。。
個人的には
開幕戦でこの手番となった場合
▲2六歩~△3四歩の出だしから「横歩取り」へと進行し
特に先週の金曜日にA級順位戦の大一番・羽生三冠戦で敗れた
渡辺竜王の連投 を見たかったのですが。。
すでにこの段階で、その可能性はほぼ消滅。。
対局に臨むにあたってはとにかく合理的で
余計なこと、あるいは無駄なことを一切しない渡辺竜王らしく
負けた直後に同じ戦型をもう一度試す気はないという
意思表示にも思えた、「いつも通り」の△8四歩となりました。
こうなると両者お得意の
「角換わり」か「矢倉」への進行が本線かと思われましたが
郷田棋王は3手目に飛車先を決める▲2五歩として
やや意外な「相掛かり」を目指します。。
26手目△8八角成。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 歩
△渡辺竜王: 角、歩
渡辺竜王も先手に追随
互いに飛車先の歩を切り、戦型は「相掛かり」となりました。
ちなみに「相掛かり」は
渡辺竜王が佐藤康光王将に挑戦中の第62期王将戦の開幕戦 でも
渡辺竜王が後手番で採用されました。
「羽生世代」の
対渡辺竜王包囲網に何かがひっかっているのでしょうか。。
渡辺竜王の飛車の引き場所は8四の位置(22手目)
郷田棋王は居玉のまま、右の銀を戦場へと繰り上げ
おもむろに角道をあけた(25手目▲7六歩)、次の瞬間
渡辺竜王から角の交換が成されました。
46手目△3一玉。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 角、歩
△渡辺竜王: 角、歩
互いに飛車先が軽い状態で駒組みが着々と進行。
「角換わり」の将棋のような模様が描き出されます。。
(実際、角は交換しているわけですが)
先手は「矢倉」囲い、後手は「銀冠」の完成が
間近に迫った上図から、次に。。。
47手目▲4六角。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 歩
△渡辺竜王: 角、歩
郷田棋王は交換した角を先に盤上へと投入。
自陣付近に打ち込み、後手の「銀冠」と飛車のコビンを
ワイドにけん制。。
53手目▲4八飛。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 歩
△渡辺竜王: 角、歩
玉の堅さを重んじる渡辺竜王は
怯むことなく玉を入城させ、その頭上に銀の冠を施します。
さらに金も密着させ、万全の囲いが完成。
郷田棋王も二枚矢倉に玉をおさめ
飛車を4筋へと振った上図53手目の局面で、お昼休憩突入。。
【 お昼のメニュー 】
郷田棋王: そば定食(おやき付き)
渡辺竜王: 季節のお弁当
60手目△9二飛。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 歩
△渡辺竜王: 歩
午後開始の一手は
渡辺竜王の54手目△6四銀。
しかし、郷田棋王が繰り出してきたこの銀を
すぐに歩を突き立てて追い返し(55手目▲6五歩~△7三銀)
午後の対局がスタート。。
渡辺竜王も自陣へと角を投入し
飛車を9筋へと移動させ、角の当りを避けると同時に
端攻めへの手筈を整えます。。
70手目△9五歩。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 桂、歩
△渡辺竜王: 桂、歩
郷田棋王は飛車を渡辺玉が居を構える2筋へと振り直し
まずは桂馬の交換から。。
一気に火柱を上げるのかと思われた局面で
格調高く「矢倉囲い」を完成させて手を渡し(69手目▲6七金右)
渡辺竜王の端攻めを呼び込みます。。
そう来るならばと渡辺竜王、一歩引かずに
飛車と香車の2段ロケットが構える9筋の歩を突きあわせますが。。
71手目▲8三桂。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 歩
△渡辺竜王: 桂、歩
郷田棋王は同歩とは応じず
8筋で桂馬を投入し、裏を取ります。。
午後開始直後から、いや対局開始からすでに一貫して感じられる
郷田棋王の迷いのなさ、そして格調高さ。。
その様はまさに、一刀三礼。
仏像師が仏像を彫るとき
一刀を振るう前に三 度の祈りを捧げて彫るが如し。。
101手目▲3三歩成。
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 金、歩
△渡辺竜王: 香2、歩5
将棋への忠誠心と自らの野心、そして勝利をその一手に託し
まじりっけなしの迫力に満ち溢れる郷田棋王。
対照的に渡辺竜王は精彩を欠き
これまでことごとく強敵をノックアウトしてきた端攻めも不発。。
盤上の動き以上に
形勢は静かに、そして大きく開き始めます。
【 投了図・125手目▲3三金 】
上図での持ち駒
▲郷田棋王: 角、金、桂
△渡辺竜王: 金、銀、歩7
やはり過密日程の疲労もあるのか
渡辺竜王らしからぬ形作りのような粘りを欠いた終盤戦となり
上図125手までで、投了。。
棋風そのままの剛直な指し回しで
色気たっぷりの将棋をおさめた郷田棋王が、初防衛にむけ
力強いスタートをきりました。