第71期A級順位戦/8回戦「羽生三冠-渡辺竜王のその時、何が起こったか」
74手目△3六歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 金、桂、歩3
△渡辺竜王: 飛、香、歩
昨日行われました
第71期A級順位戦/8回戦・一斉対局。
名人挑戦権の行方を占う大一番「羽生三冠-渡辺竜王」は
上図74手目の局面で羽生三冠が長考に入り、そのまま夕食休憩に。。
「羽生ゾーン」とも呼ばれる、盤面向かって左側の敵陣付近に
羽生三冠が桂馬を投入した、にも関わらず(73手目▲7四桂)
渡辺竜王は「怖くない」と言わんばかりに手抜いたばかりか
羽生三冠の右側の桂馬に歩を突き立て「こっちも跳ねて来い」と
挑発的な強手を投入。。
これまで幾度と無く大一番で披露され
羽生三冠自身も辛酸を舐めさせられてきた、渡辺竜王の豪腕閃光。。
現在の将棋界最高のカードは
ギリギリの均衡を保ちながら、いよいよスリリングな終盤戦への
突入を待ちます。。
75手目▲8三金。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 桂、歩3
△渡辺竜王: 飛、香、歩
夕食休憩を挟んで2時間近くの長考を経て
羽生三冠がひねり出した注目の一手は、▲8三金でした。
遠見の角が利いており
△同飛車とすれば、次の瞬間に桂馬が飛び込み
銀をゲットした上で王手・飛車取りがかかる、指されてみれば
なるほどと、思わず唸るさすがの切りかえし。。
78手目△3七歩成。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 歩3
△渡辺竜王: 飛、桂、香、歩
渡辺竜王が飛車を9筋へと逃がすと(76手目△9四飛)
羽生三冠はさらに手持ちの桂馬を投入し渡辺飛車を押さえ込みます。
(77手目▲8六桂)
しかし、次の瞬間
渡辺竜王は3筋に突き立てていた歩で桂馬をゲット。
反転攻勢に出て、寄せへの下準備へととりかかりました。
83手目▲9四桂。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 飛、歩4
△渡辺竜王: 飛、桂、香
渡辺竜王は桂馬に続いて銀を剥がしにかかりますが(82手目△3六歩)
羽生三冠はかまわず、押さえ込んでいた渡辺飛車を桂馬でゲット。。
以下、△3七歩成~▲6二桂成~△同金~▲7三銀~
さすが最高峰の戦いだけに
目まぐるしく攻守が入替わり、双方力強くアクセルを踏み込みます。。
90手目△4二銀。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 歩4
△渡辺竜王: 飛、桂2、香
先に寄せに出たのは、羽生三冠。
渡辺玉の右側を封鎖してから、手にした飛車を投入。。
(89手目▲2二飛)
渡辺竜王は、銀で合い駒。
以下、▲2四飛成~△4七「と」金~と進行し
羽生三冠は銀を、渡辺竜王は角を手に入れてから
下図93手目▲3三歩成で、後手玉には「詰めろ」がかかります。
93手目▲3三歩成。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀、歩4
△渡辺竜王: 飛、角、桂2、香
▲4二と~△同玉~▲3三銀~△5一玉~▲2一龍~△4一飛~
▲同龍~△同玉~▲4二銀打~△5二玉~▲5一飛~△同 金~
▲同銀成~△同玉~▲4二金~△6一玉まで
の、「詰めろ」が後手玉にはかかりましたが
現実的には次の5六桂の王手から、形勢は後手・渡辺竜王有利と
みられていました。。
102手目△7六歩。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀、桂、歩4
△渡辺竜王: 飛、銀、桂、香、歩2
渡辺竜王はじわじわと羽生玉を追い詰めます。。
上図から次に▲同玉と歩を払えば、2筋の馬のラインに入り
△5四馬が王手となり、攻めの切り札である2四の龍を
手放すはめになりかねず、取るに取れず。
かといって▲6七玉や▲7八玉、▲8六玉では
いずれも苦しいとみられていましたが。。。
しかし、羽生三冠はその中でも一番厳しいと見られていた
5九角のラインに乗ったままとなる▲8六玉を選択。。
この時、時刻はまもなく午前0時に差し掛かり
持ち時間も残り少なく、両者の疲労はピークをむかえます。。
105手目▲7七銀。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀、桂、歩4
△渡辺竜王: 飛、金、銀、桂、香、歩2
△6八角成の王手に対し
羽生三冠の合駒は、▲7七歩ではなく8八にいた銀の受け。
これでは次に△同歩成からの「詰めろ」がかかってしまいますが。。
実はこの局面で
羽生三冠、渡辺竜王ともに後手玉に詰みが発生している
つまり後手玉にこそ「詰めろ」がかかっているとの錯覚が生じており
(この局面では後手玉に詰みなし)
盤をはさんで追い詰められていたのは
羽生三冠ではなく、渡辺竜王の側であったことが
終局後の感想戦で明らかとなりました。。
109手目▲3三龍。
上図での持ち駒
▲羽生三冠: 銀、歩4
△渡辺竜王: 飛、金、銀、桂、香、歩
ということで
渡辺竜王は同歩成とは指さずに、まさかの2三歩(106手目)
以下、▲3四桂~△5二玉~▲3三龍と進行し、はっきりと形勢逆転。
後手玉に正真正銘の詰めろがかかりました。。
【 投了図・121手目▲3五龍 】
投了図での持ち駒
▲羽生三冠: 角、歩4
△渡辺竜王: 飛、金2、桂、香、歩
渡辺竜王は玉を上部に脱出させ
必死の粘りをみせましたが、羽生三冠は腰を落として寄せにはいり
上図121手目までで、羽生三冠が大逆転勝利をおさめました。。
息詰まる大熱戦でしたが、極限状態の中で勝敗を分けたのが
まさかの、しかも両者ともにしていたという、錯覚になろうとは。。
まさに将棋は人間ドラマ。
また一つ、将棋史に伝説の1ページが書き加えられました。。
□ 第71期A級順位戦対戦表 (成績順) □
この結果
羽生三冠は2年連続名人挑戦までマジック1。
3月1日に行われる最終戦で橋本祟載八段に勝利すれば
その時点で順位戦優勝が決まり、地力での挑戦権獲得。
敗れても、星一つの差で追う
三浦弘行八段が高橋道雄九段に敗れれば挑戦権獲得。
羽生三冠が敗れて、三浦八段が勝利した場合のみ
プレーオフがおこなわれるという、圧倒的優位な立場で
最終戦を迎えます。
一方、残留争いに目を移すと
昨日、単独最下位だった橋本八段が谷川浩司九段に勝利し
高橋道雄九段を加えた3名の棋士が2勝6敗で並ぶ展開となりました。
さらに3勝5敗の成績ながら
番付最下位の深浦康市九段も含めた4名が最終戦で
2つの残留枠をあらそいます。