「抗不安薬」  の続き



■気分安定化薬


しかし基本は、扱い壊さない、ちゃんとした治療。それはどういうふうにするかと言うと、まず気分安定化薬を選定します。


気分安定化薬はご存知のように炭酸リチウムがありますが、リチウムがだいたい6割りの人に有効だと思います。面白いのはね、だんだんガチャガチャしてたのが落ち着いてきますと、ようやくリチウムが効くようになる人があるんです。そうすると65%ぐらいですね。だけど初めは、だいたい6割ぐらいです。


あとで質問の中にも出てきますが、リチウムが適応になる人は「一緒に飲みに行きたいな」とか、「今後とも遊び友達として付き合いたいな」とか、「しかし一緒に仕事をしたら、収支決算が合わなかったりするかもしれんから、仕事仲間としてはちょっとどうかな」というような、よい人。「好人物なだけが取り得」とかいうような、お人好しの感じの人は、たいていリチウムですね。


そして残りの4割のうちの半分ぐらいが、バルプロ酸です。バルプロ酸はなんていうかな、神経症的な症状がメインの部分として出てくる人に、バルプロ酸がいいようですね。こないだK先生が「アメリカではディスフォリアと言う」って。それはいい言葉だなと思った。ご機嫌が悪くなるような症状が、常にそうじゃなくて、ときどき不機嫌が出てくるような人。話しかけるときに、ちょっとこっちが気を使わんといかんような状態が出てくるような人には、いいようですね。


それから残りの2割のうちの半分ぐらい、つまり全体の1割ぐらいはテグレトール(カルバマゼピン)ですね。テグレトールは簡単に言いますと、とても躁うつの症状とは思えないような、つまり昔、非定型精神病と呼んでたような、あるいは分裂情動型とか言っていたような人にいい。ある極期には非常に激しい症状で、「絶対、保護室が必要」となったりするような人。「これが躁うつ病というのは、ひどい誤診じゃないか」とかいうような状態がある時期、出てくるような人がテグレトールの適応のようです。


そしてその残りの1割の半分くらいがリボトリール(クロナゼパム)なんです。あんまりリボトリールをみんな言わないけど、たまにリボトリールが効く人がいます。いちばん多いのは1.5~2ミリぐらいまでです。これはね、なかなか難しいんですが、極期に意識障害が出てくる人に比較的効く。意識障害が、ということは後で健忘が残ってくるような人にいいような気がします。そして良い状態のときの基本人格が、意欲の高い人がリボトリールの適応のようです。


私はOリングやなんかをやっていまして、今はにらむだけで、薬の量を決めるという変なことをやっていますので、それをみなさんに言うと顰蹙(ひんしゅく)を買いますから言いませんが、それができる人はそれでやってください。これはね、面白いの。患者さんに薬を見せると、「先生、これがいい」とか言う人がいて、飲ませてみるとそれが効きますからね。患者はわかるんですよ、分かる人は。


それで気分安定化薬を増やしたりして工夫してみてください。そしてイライラや不眠に、今のところ私がいちばんよく使うのはセロクエル(クエチアピン)です。セロクエルの25ミリを寝る前に1錠ないし2錠というのがいちばん多いのですが、イライラがひどい人には朝昼晩セロクエル25ミリを出します。そしてイライラの頓服にはレボメプロマジンを出すようにしています。


リチウムとバルプロ酸が併用になる場合もいくらかあります、なかなかコントロールできない人にね。この間送ってきた双極性障害の研究会のパンフレットには、リチウムとバルプロ酸とテグレトールとリボトリール、4つを併用してようやく鎮静した双極性障害の一例とかいうのがあったけど、そういうのもあるんでしょうけれど、私は知りません。私は2つまでですね。


それで、「今度、この薬をこういう目的で使うんだけど、どうだろうね」と本人と相談します。なにしろ協力する人たちですから、自分の飲んでいる薬を「これはよさそうだ」とか、「飲んだらこうだった」とかいうような作業に協力させれば、一生懸命にやってくれます。


まずこっちに協力するのが好きということと、それに自分が楽になるために努力するのは誰でも好きだから、2つの理由でうまくいきます。そうすれば、とても治療しやすいですよ。



(つづく)






◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。