トゥルルルル…
トゥルルルル…
電話の呼び出し音が1回鳴るごとに、怒りで血が上った私の頭はクールダウンしていく。
いまはとにかく、落ち着かなきゃ。
「きらら?どうしたの?」
ミユキさんが電話に出た。
「ミユキさん…夜分にすみません…」
「大丈夫だよ。さっきまで一緒に仕事してたんだから。どうしたの?なんか元気ないけど」
「タカヒロ君に別れたいって言われました」
「ええ!?」
「さっき、電話で」
理由は!?
ミユキさんが声を荒げる。
「たぶん、女です」
たぶんと言ったが、私には確信があった。
「…なぜそう思うの」
「彼、電話口で妙にあせっていたんです。理由をきいても『言えない』なんて、不自然ですよね。それに電話がかかってきたとき、自分の声が妙に反響して聞こえたんです。彼の声もそうだった。それって、たぶん彼が『ハンズフリー』で話してたからだと思うんです」
私は続けた。
「つまり、彼は会話の内容を誰かに聞かせたくてそうしていた。側に別の女がいたとしか考えられません」
我ながら感心する。あの状況で、これほどの観察力。冷静さ。
いまからでも刑事になったほうがいいかしら!?
「…なるほど。そこまでわかっているなら言わなきゃ。きらら、怒らないで聞いてよ」
ミユキさんが言った。
「私の彼の友達が、タカヒロ君と同じアイスホッケーチームにいるの」
「初耳です。それ」
「うん。理由があって言えなかった。私も、それを知ったのはつい最近なんだけどね」
私はゴクン、と唾を飲み込んだ。理由ってなんだ!?
「タカヒロ君、いろんな女を日替わりでホッケーの試合に連れてきてるんだって」
「…はぁぁ~~。マジっすか~~
(T_T)」
浮気、確定……。
さようなら。短い夢でした…。
「でも、知ってたならすぐに教えてくれたら良かったのにぃ~~」
私はミユキさんに恨み事を言った。
「彼はきらら一人に絞ると思ったの。彼は結婚したがっているし、連れてきてる他の子は軽くて頭悪そうでタバコ吸ってる子ばっかりだって聞いたから、きららなら楽勝だと思ったのよ」
「………(苦笑)」
すごいこと言うな~。彼の友達さん…。
「とにかく、ここは私に任せて。彼に今後どうしたいのか聞いてみるから」
「えっ、いいですよミユキさんに迷惑かけられません」
「いいから任せて。きららは曲がったことが許せないタチだから彼をコテンパンにやっつけてしまいそうだし、そうしたらまとまるものもまとまらなくなるから」
「…わかりました」
さすがミユキさん。よくわかっていらっしゃる。
ミユキさんとの電話を終えて携帯の画面を見ると…メールが届いていた。
まさか、と思って見ると案の定タカヒロ君からのメールだった。
件名:
ごめん
本文:
本当にごめんなさい。さっきは彼女が側にいたから言いたいことが言えなかった。別れたいというのは嘘です。ちゃんと説明するから、時間をください。
…彼女って、私のことだと思ってましたけど。つい30分ほど前までは。
私はすぐさま、彼に電話をした。
「どこにいるの」
「俺の…家。いま彼女はコンビニ行ってる」
「とにかく、話をしよう。明日」
「明日はちょっと…」
彼は口ごもる。
私は瞬時に理解した。彼が休日出勤だと言っていたのは嘘だ。
週末は彼女が泊まりに来ているのだ。だから私とは会えなかったのだろう。
「アンタ」
「え?」
「アンタ、なめてんの?」
私は低く、ドスのきいた声で言った。
「いえ…なめてません」
「とにかく、明日1時に新宿に来なさい。来ないととんでもないことになるよ」
「とんでもないことって…」
「二度と会社に行けないくらいのことは覚悟しておきな」
電話を切ると、ベッドにバタン!と倒れこんだ。
ああ~~やっちまった~~
(ノ◇≦ )
これで彼との復縁はありえないだろう。
でも、いい。これでいい。
ミユキさん、すみません。私やっぱり曲がったことが嫌いです。
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