ゴムカタパルト用フックの変遷 | 北アルプスのほとりからですが、何か?

北アルプスのほとりからですが、何か?

仕事の都合で、群馬から長野は信濃大町に居を移すことになりました。

ということで、やっぱりネタに尽きると紙飛行機に戻ってきてしまう訳で・・・・。(笑)

実は、機体の型紙を集めていると、「あれ?これ同じ機体じゃないかな?」などと思うものがいくつか出てきます。一応機体に機種別の通し番号がふってあるのですが、違う番号なのに胴体や主翼を重ね合わせるとピッタリ重なるものがあったりします。集めている最中、ダブってしまうものが出ているのは当然なのですが、通し番号が違うのに同じ大きさと形状?何だかなーなんて思うこともあります。

ただ、すぐにそれは私の早とちりだということが判明しました。二宮先生は私が生まれる以前から紙飛行機を設計されてきました。子供の科学への紙飛行機型紙連載を開始して46年。私と同い年ほど紙飛行機を設計し続けているということになります。となると、同じ機体をより性能の妨げにならないように、かつより安全にという方向に変更に変更を重ねていた、ということです。

具体的には、「ゴムカタパルト用のフック」の材質及び形状変更ということになります。

初期(疾風)のフック

上の写真は、比較的初期に設計された機体のフックです。胴体を貼り合わせた後、クリップを折り曲げて作成したフックを取付けるための穴にフックを差し込み、上から紙片を接着し固定するという方法を取っています。これならば、胴体をきちんと製作したのちにフックを正しい位置に取付けることができ、かつ破損の際にも紙片を取り除きフックを交換、再度新しい紙片を貼付固定する方法で容易に補修が可能という利点があります。ただ、この時点ではクリップの危険性はあまり認識されていなかったようで、実際報告された事故もなかったと推測されます。

そして、しばらくすると発展形が登場します。

中期(ホワイトウィングス)のフック

よくご覧いただけるとわかるのですが、同じ金属フックを使用しながら、固定用の紙片を内側に埋め込むようになっています。胴体を貼り合わせる過程で、一番外側の2枚を貼り合わせる前にフックを取付け紙片を接着してしまうというものです。今まで紙片は胴体上の突起であって障害物という扱いを受けたため、空気抵抗の原因とされてしまった訳です。ならばその原因を内側に埋め込んでしまえ、という発想なわけですね。確かに飛行性能は若干向上したのでしょうが、フックという金属製のものとケント紙という材質との強度差を考えると、長い間飛ばしているうちに紙の方へのダメージが大きくなってきたりするのです。そうすると、性能云々よりも、手早く交換できた方がいいに決まっています。一見改善と思われることが、実は改悪ではないかと思えてならないものとなりました。ただその後、劇的にこのような問題を解決するに至りました。

後期(垂直上昇型)のフック

結局、縦方向の力をどう受け止めるかという基本に立ち返った時、別の材質をわざわざ使う必要などない、という至極当然の答えが出た、ということになります。最初からカギ状の出っ張りを胴体にデザイン、複数枚ケント紙を貼り合わせることで十分な強度を持たせることができれば問題ないという結論、という訳です。これなら、金属製部品によるひっかき傷等怪我を防止するばかりでなく、部品の強度差による破損等も劇的に減る訳で、コロンブスの卵的というか、棚からぼた餅的というか、とにかく目からうろこの会心作でした。

蛇足ながら、フック以外にも改良点はありました。その1例は重心調整用の「おもり」でしょう。初期の機体では、胴体デザインの自由度を上げるため前後の重さにあまり配慮していないため、組立後に重心調整を行わなくてはいけない機種がほとんどでした。その際、主に使われたのは、釣り用の板鉛でした。釣具屋さんで簡単に入手でき、かつ切断も容易であることから重心調整もしやすい素材でしたが、さすがに子供向けの雑誌に掲載していることもあり、鉛中毒の危険性を指摘されるとこのおもりについても改善せざるを得なくなりました。

当然胴体のデザインそのものを変更し、貼り合わせるだけで重心を合わせるようにしたものもありますが、貼り合わせる部品の数を増やすことで重心を合わせるタイプもありました。通常なら、最も厚さのある機首部分でも7枚程度の貼り合わせなのですが、中には「スピリッツオブセントルイス号」のように、機首部分の貼り合わせが13枚と通常の倍近くになるものもあります。

スピリッツオブセントルイス号機首

ここまで貼り合わせてしまうと、接着剤との相乗効果で、素手で曲げることすら難しいほどの強度が出ています。当たったら怪我をしますので、そのあたりスポンジを取付ける、人に向けて射出しないなど基本的な危険回避の必要性をなおさら感じます。通常の競技用機と比較して、どれほど厚さに差があるかご覧いただけると思います。

機首の厚さ比較