岐阜県総合医療センターが受け入れ中止 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 ご存じの方も少なくないと思いますが、岐阜県総合医療センターがMRSAの院内感染で新生児が死亡した事例を受けてNICUへの新生児の新規受け入れを中止しました。

 これに関連したニュースを転載しておきます。

 まず一つ目、
 岐阜県総合医療センター(岐阜市)は、生後間もない男児が今年8月にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の院内感染で死亡したと11日発表した。感染が広がる恐れがあるため、早産による未熟児らを治療するNICU(新生児集中治療室)や、妊婦搬送の受け入れを中止した。

 同センターによると、男児は8月6日、体重661グラムの超低出生体重児として生まれ、NICUに入ったが、肺炎を発症。同24日、男児の口につないだチューブからMRSAが検出され、抗生物質を投与したが、同28日、死亡した。死因は、病理解剖の結果、MRSA肺炎と断定された。

 NICU内では、ほかの新生児への感染もわかり、このうち2人が先月発症したが、いずれも回復したという。

 記者会見した渡辺佐知郎理事長兼院長は、「主治医の処置に問題はなく、感染防止に何らかの不備があったと考えている」と謝罪し、再発防止を徹底するとした。

 同センターでは、今月6日に新生児の新たな受け入れを停止し、岐阜大病院や大垣市民病院など県内5か所の主要病院に収容を依頼している。

 一方、岐阜市保健所は8日、同センターの立ち入り調査を行い、感染経路の特定を急いでいる。



 そして二つ目、
 岐阜県総合医療センター(岐阜市)は11日、新生児集中治療室(NICU)に入院していた生後約2週間の男児が8月下旬、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に院内感染して肺炎を発症し死亡したと発表した。センターは男児の死亡から2カ月以上経過した今月6日、新生児の新規入院を中止した。

 また、男児死亡後に新規入院した新生児2人も10月、MRSAによる肺炎を発症。いずれも快方に向かっている。現在はこの2人を含む28人の新生児が入院中で、2人以外の保菌者は10人に上るが、肺炎などの発症はないという。

 センターによると、死亡した男児はセンター産婦人科で8月上旬、妊娠約24週で帝王切開により生まれた。体重661グラムと小さく、直後からNICUで治療を受けていたが、同28日に死亡が確認された。

 男児の死亡から新規入院の中止まで2カ月以上かかったことについて、センターは病理解剖に時間がかかったためと説明している。

 渡辺佐知郎(わたなべ・さちろう)理事長兼院長は記者会見で「MRSA感染が疑われた時点で公表し、新生児の新規入院を中止すべきだった。情報伝達が遅く、認識が甘かった。その後の2人の肺炎の発症も防げていた可能性がある」と謝罪した。



 以下は私のコメントです。

 岐阜県総合医療センターは私の病院を含め、近隣の周産期医療施設に相談や連絡なく突然NICUへの新生児の新規受け入れを中止しました。県内唯一の総合周産期センターが突然前触れもなくNICUへの新生児の新規受け入れを中止するということの重大性を認識した上で行ってもらいたいものです。つまり中止したあとの受け入れ先を先に確保してからNICUへの新生児の新規受け入れを中止するのが筋でしょう。

 私自身が正式に岐阜県総合医療センターのNICUへの新生児の新規受け入れを中止を聞かされる前に、そのあおりを受けて普段ではありえないような母体搬送がありました。受け入れが中止されてから5日間で24週と22週の極めて早期の早産例が通常の診療圏以外の地域から立て続けに搬送されています。私は緊急対応(手術)で過労気味になっています。

 もう一つですが、MRSAによる院内感染は大きな問題なのでしょうが、もしMRSA感染で新生児が1例でも死亡したらNICU閉鎖という展開がスタンダードになってしまうと、1000g以下の未熟な赤ちゃんが多いNICUにおいてはかなりの確率でNICU閉鎖に追い込まれてしまうことでしょう。MRSA自体はどうしても日常的に存在しうるわけであり、1000以下の未熟な赤ちゃんは感染に弱いわけであり、つまり感染による死亡例をゼロにすることは不可能で永遠の課題であるわけですので、院内感染にいたる明らかな原因・過失が解明され、NICU閉鎖によって改善が見込める場合にもの閉鎖にしないと、他の周産期施設に負担がかかりすぎ周産期医療が崩壊してしまうことになりかねません。

 何が言いたいかというと、今回の場合のそうですが、NICU閉鎖によるメリットがNICU閉鎖のデメリットを本当に上回っているのかということなのです。閉鎖した側の当事者でないのでメリットは分かりかねますが、私たちにとってはデメリットも大きいと感じています。

 ところで、MRSA感染によるNICUの閉鎖の基準も統一したものがないのが実情であり(閉鎖したあとの再開の基準もそうでしょう)、今後の大切な課題となってくることでしょう。そうしないと周産期医療全体が疲弊してしまいますし、よりよいものにもならないでしょう。


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