おひとりさま / TЯICKY | 安眠妨害水族館

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おひとりさま/TЯICKY

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1. ぶっとびメタルLOVE
2. ストレス爆弾
3. So...DEATHxxx黒歴史
4. わがまま姫を迎えに行こう
5. もやし最高
6. テクノdeポップ
7. パセリの主張
8. あいどるかつどう
9. あたしmind
10. HYPER LOVE
11. 火の車
12.

活動10周年にして、初のフルアルバムをリリースしたトリ様ことTЯICKY。
過去に12曲入りのデモCDも発表しているけれど、あくまで正式音源としては初、ということなのでしょう。

本作も編曲に栗山"HaL"ヰヱス、ギターに緇屋"YuKkE"ノラのマイナス人生オーケストラコンビが参加。
アクの強いキャラを、別のベクトルでアクの強いキワモノ界隈的なアプローチでコーティングすることで、なんとも奇妙なハマり方をしています。
"毒をもって毒を制す"とは、きっとこのことなのでしょう。

トリ様らしいアイドルポップスと、マイナス人生オーケストラお得意のセツナピコピコの融合。
10年に渡るアイドル活動の集大成ということで、新曲もあれば、初期の楽曲もあるというラインナップとなっており、音楽性の幅も広く見せることができているのかな。
過去のミニアルバムなどでは一辺倒なイメージもあった彼ですが、アルバムとしてまとめることも意識した構成になっていて、バランスは改善された印象ですね。

「ぶっとびメタルLOVE」、「ストレス爆弾」と、ライブの定番曲ながらも、正式なレコーディングには至らなかった不遇の楽曲たちをリサイクル。
ポップな雰囲気でスタートを決めました。
聴いてみたくても手に入らない、とやきもきしていたリスナーにはありがたいだろうし、過去の音源を持っていたとしても、このレベルアップ度合いだったら文句もないはず。
特に、「ストレス爆弾」は代表曲ですし、こうして現代の音質で再現されたのはありがたいです。

バンギャルの黒歴史を、GLAYにLUNA SEA、Dir en greyからのオマージュをたくさん織り交ぜたトリ様流のダークチューン「So...DEATHxxx黒歴史」や、出オチ感を与えつつ、何気に現代風のサウンドでまとめた「もやし最高」など、ネタなのかマジなのかわからないTЯICKYワールド全開な楽曲も聴き逃せない。
BUCK-TICKからの拝借もところどころ見られ、それなりにダークで世界観重視のV系サウンドが彼の原点的な音楽性だということがわかるのだけれど、どうしてアウトプットの形がアイドルという設定になってしまったのだろう。
この意味不明とも言える振り切り方が、なんだかんだ、彼の強みなのである。

地声でベタっと歌うボーカルスタイルは、好き嫌いが分かれるところ。
バンドサウンドよりもデジタル音が目立つところも、おふざけありきな歌詞も、硬派なバンドが好きなリスナーには厳しく映るところは否めないが、逆に、このオンリーワンな感覚に魅了されるオーディエンスも少なくないから面白いのかと。

ボーナストラックである「火の車」は、少し雰囲気が変わります。
というのも、ムシケラトプスの汁さんがプログラミングとギター、同じくデスエリンギことDIE吉さんがギターソロを担当していて、これは彼らの個性が前に出てきたものと思われる。
メタリックなバンドサウンドによって激しさも求めて、新たな一面も見せてくれますな。
更には、シークレットトラックとして、これまた代表曲「鳥の貴族」のライブ音源が収録。
断片的にではあるが、彼のキャラクターが垣間見えるのでは。

オリジナリティがあるとか、クオリティが高いとか、その手の褒め言葉は一切当てはまらない。
オマージュやパロディばかりだし、打ち込み主体なうえ、歌もトークも上手くないのが彼だからである。
しかしながら、この強烈な個性はヴィジュアル系シーンでは間違いなく武器。
ある意味、時代に左右されない音楽に一番近いところにいるのは、このTЯICKYだったりするのかもしれませんよ。

<過去のTЯicKYに関するレビュー>
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