Symphony of The Vampire / KAMIJO | 安眠妨害水族館

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Symphony of The Vampire(初回限定盤C[2CD])/KAMIJO
¥2,625
Amazon.co.jp
1. 第一楽章「Presto」
2. 第二楽章「Sacrifice of Allegro」
3. 第三楽章「Royal Tercet」
4. 第四楽章「Dying-Table」
5. 第五楽章「Sonata」
6. 第六楽章「満月のアダージョ」
7. 第七楽章「Throne」

LAREINE、Versailles、そしてソロと、実に3度目のメジャーデビューを果たしたKAMIJOさんの1stミニアルバム。
全7楽章からなる、長編交響曲となっています。

本作におけるテーマは、ルイ17世。
フランス革命の渦中、わずか10歳で幽閉されたまま死んだとされる人物ですが、彼の生存説からイメージを膨らませて、KAMIJOさんの耽美な世界観に落とし込んだといったところ。
影武者との入れ替わりから、自らの心臓を差し出し王になるまでを描いたコンセプチュアルな楽曲群となっています。
シングルとしてリリースされた「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」も、第三楽章と第四楽章の間に入るストーリーであるとのこと。

サウンドは、前作同様、メタル色が強いか。
ギタリストとして、摩天楼オペラのAnziさんが参加していることもあり、耽美メタルの路線は継続。
そこに、オーケストラチックなストリングスが絡まり、ある楽章では繊細に、別の楽章では壮大に、物語を彩っていきます。
Versaillesの流れで聴いても、ソロならではの部分と、変わらない部分とを両方楽しめる作品に仕上がっていると言えるでしょう。

「Presto」で、鮮やかに疾走を開始。
激しくスピード感を持った演奏と、麗しく耽美な旋律で、これぞKAMIJO節といった楽曲で幕を開けると、そのまま音を途切れさせずに、「Sacrifice of Allegro」へ。
勢いを持続したまま、スリリングでシリアスな空気を纏ったこのナンバーは、精神的に圧し掛かる重さを表現しているよう。
メロディアスでキャッチーさもあるのだけれど、低音を効かせたサウンドにより、ポップなイメージを与えすぎず、しっかりと世界観の中へ誘ってくれますね。

印象的に音が途絶えてスタートする「Royal Tercet」は、三拍子の荘厳な楽曲。
ストリングの音色が、神聖な雰囲気を醸しています。
こちらは、2分程度のアクセント。
場面が変わったことが、音を聴いているだけではっきりわかる。
本作中最も激しい「Dying-Table」の邪悪さは、この楽曲が入ることにより際立つのですよ。
それぞれ、単体では噛み合いそうもない2曲の組み合わせではあるのだけれど、こういう化学反応があるから面白い。

個人的にお気に入りなのが、「Sonata」。
歌謡曲チックな歌メロと、重くなりすぎないバンドサウンドの組み合わせは、LAREINE時代を思い起こさせるロマンティシズムが漂う1曲。
全編がサビであるかのように、ひとつひとつのメロディが立っていて、どこか切ない。
クサいギターソロも含めて、こういうのを待っていた!と興奮してしまいます。

バラードの位置づけで収録されている「満月のアダージョ」が流れ出すと、いよいよクライマックス。
淡々と歌っていたと思いきや、最後の最後で、壮大に広がる。
単発であれば、この構成から7分くらいの大作が出来上がりそうなところなのですが、これからといったところで、次のトラックへ移行します。
これが、組曲として構築したメリットというか。
あくまでストーリーをつなぐためのブリッジとして、このメロディを使ってしまえる贅沢さ。

ラストの「Throne」は、ドラマティックに演出を施して、楽章としてももっとも長い6分半。
これまでの楽曲は、ある要素に特化した構成になっていたのですが、これについては、1曲の中に、山あり谷あり、展開に工夫が見られる。
他の楽曲とリンクするフレーズも見られ、まさに、大団円といったフィナーレ。
7曲入りのミニアルバムというよりも、約28分の大長編と捉えたほうが良いかもしれません。

好きな1曲だけをリピートして聴くタイプのリスナーには、向かないかもしれない。
組曲的な構図を想定されて構築されているので、単体で聴くと、尺が足りなかったり、唐突に終わったりという印象を持ってしまうかも。
あくまで、アルバムとしての完成度を好む人向けといった仕様となっているのかと。

だけど、これこそが彼の強み。
ブツ切れではなく、ひとつのメッセージをテーマに音を紡いでいくストーリーテリング形式の作品でこそ、KAMIJOさんのナルシスティックで、やりすぎ感のある世界観は活きるのです。
全体的に内面的な重苦しさがあるので、もう少し、ポップさを入れてバランスをとっても良かったかなとは思うものの、なかなかのクオリティ。
映画を見ているような錯覚をしてしまう。

ちなみに、初回限定盤Cには、KAMIJOさんが音楽監督を担当した映画、「ヴァンパイア・ストーリーズ」のサウンドトラック盤がボーナスCDとして付属。
どこにニーズがあるのかは不明ですが、バンド以外での音楽活動が形に残るというのは、ファンにとっては嬉しかったりするのだろうか。

<過去のKAMIJOに関するレビュー>
Louis~艶血のラヴィアンローズ~