第5実験室 / cali≠gari | 安眠妨害水族館

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第5実験室/cali≠gari
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1.「第5実験室」入口

2.ゼリー

3.歪んだ鏡

4.カラス

5.ドラマ「せんちめんたる」

6.せんちめんたる

7.はにかみ屋の僕

8.月夜の遊歩道

9.37564。

10.弱虫毛虫

11.冬の日

12.「依存」と言う名の病気を治療する病院

13.「第5実験室」出口


カリガリにとって、秀児さんがVoだった時代の、最後のフルアルバム。

期間的にも、作品数的にも、秀仁さんが加入してからのほうがメインといったところなのですが、個人的には、この時期のカリガリが、もっとも音楽的に想像するカリガリらしさを含んでいると思うのです。


お決まりのSEやドラマを除く全10曲において、半数が青さん、残りの半分を他のメンバーが作詞・作曲を担当していて、バランス的にも、バラエティ的にも、偏ることなく、良い塩梅。

どの曲にも、「奇形メルヘン音楽隊」という当時のコンセプトが、しっかりと反映されていて、ニューウェイブ色が強くなる秀仁さん加入後と比較して、モノクロ感、アングラ感が色濃く漂っているのではないかと。


言葉遊びと、ジャジーな曲調。後のお洒落系ブームを先取りしたようなスウィングリズムの「ゼリー」。

閉鎖的でドロドロした「歪んだ鏡」。

夕焼けの赤さと、鴉の黒さ。なんだか不気味でおどろおどろしい色彩を音楽で表現したような「カラス」。

前半で、これぞ密室系と言わんばかりの、アングラドロドロの展開を見せつけると、ドラマを挟んでのキラーチューン、「せんちめんたる」。


この曲は、疾走感のあるヴィジュアル系的構成と、風景描写を事細かにしているわけでもないのに、昭和的な風景と、気が狂った主人公が放火に魅了される様が、ありありと想起される歌詞世界が、多くのファンを虜にしました。

秀仁さんバージョンでも再録されますが、狂気を表現することにおいては、秀児さんのほうが優れていましたね。

歌の上手さ、テクニックで言えば、断然秀仁さんのほうが上ですが、ボーカリストに大切なのは、それだけではないというのが、これを聴けばわかるかと。

(叙情的な曲は秀仁さんのほうが沁みると思うし、決してアンチ秀仁ではありませんので。念のため。)

ちなみに、この曲と「月夜の遊歩道」は、先行シングルで発表されていたため、ドラムは前任の克弥さんが叩いています。


中盤以降もインパクトのある曲が続く続く。

「はにかみ屋の僕」は、なんとハンドクラップとボーカルのみというアカペラ。

とてもアカペラが映える曲ではないのに、これを採用してしまうあたり、最高です。

秀児さんが突っ走って、手拍子がズレていくんですが、これはこれで、周囲のあれこれが耳に届かない、まさに狂気の中にいるのだと捉えるべきか(笑)


そして、後に発表される「夏の日」に、大サビのメロディが転用された「月夜の遊歩道」をアクセントとして挿入すると、より一層狂気を増した楽曲、「37564。」が。

明るくあっけらかんとしたメロディと、そこで歌われている危険思想的な歌詞のギャップが、狂気を通り越して、もはや電波的。

これこそ、奇形メルヘン音楽隊時代のカリガリの醍醐味ですね。


後半は、精神的にずっしり重みを与える歌モノを固めています。

秀児さん作詞・作曲であるため、その後の作品に再収録されませんでしたが、本作一の力作との呼び声が高い「弱虫毛虫」。

病的でありながら、メッセージ性が強く、心の闇を深く抉ります。

「冬の日」、「『依存』と言う名の病気を治療する病院」という、青さん史上のトップクラスの切なさを誇るナンバー2曲も、忘れてはいけない、忘れることができない。

アプローチはそれぞれ違いますが、ノスタルジックで淡い、幼い頃~青春時代の甘酸っぱい記憶を摘むような歌詞は、とても曲とマッチしていて、人恋しくなってしまうほど。

この人の歌詞は、本当に奥深い。正確には伝わっていないのかもしれないけれど、ダイレクトに胸を打つんです。


冒頭で、この作品はカリガリらしさをもっとも含んでいる、と書いたのですが、その理由は、秀児さんが得意としていた狂気、電波的な表現のパワーというのも、もちろんあるのですけれど、やっぱり歌詞と曲とのシンクロ性なんだろうなと考えます。

秀仁さんは、歌詞に意味を持たせず、メロディを邪魔しないように言葉を乗せるタイプの作詞家ですが、秀児さん、青さんの両作詞家は、どちらも、歌詞の意味、深さを追及するタイプだった。

曲は馬鹿みたいに狂っているのに、なんだ、それでも泣けてしまうほどの歌詞の重みは。

そういった驚きこそが、カリガリっぽさであると、僕は認識していたのかな、と。


秀仁さん加入後にも、もちろん深みのある歌詞、泣ける楽曲は数多く存在しますが、密度という意味では、この作品は半端じゃなく濃い。

まさに、密室系の極みというべき一枚です。

この音楽性のままだったら、メジャーに進出するだなんて、誰も思わなかっただろうなぁ。


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