我々は原発事故にどう対処すればよいか 肥田舜太郎氏インタビュー(埼玉保険医新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、被災された皆さんにお見舞い申し上げます。

そして、1日も早い復興をお祈り致します。


それから、各団体の医療支援関連情報ページの一覧を下記にまとめておきます。


全日本民医連

東日本大震災 全日本民医連対策本部情報

http://www.min-iren.gr.jp/topics/2011/110314_01.html


日本医療労働組合連合会:お知らせ

東日本大震災≪最新≫関連情報

http://www.irouren.or.jp/jp/html/menu3/2011/20110329170510.html


日本医療福祉生活協同組合連合会

東日本大震災情報―医療福祉生協連のとりくみ

http://www.hew.coop/category/1_0/1_0_1



今日もインタビュー記事をご紹介します。

職場で配られた埼玉保険医新聞のコピーに肥田舜太郎先生のインタビューが掲載されていました。肥田舜太郎先生については、下記のエントリーを参照してください。


再度ご紹介、『内部被曝の脅威――原爆から劣化ウラン弾まで』

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10859037246.html



長い記事ですので、参考になると思われる部分を選んで引用します。引用部分は青で表記します。



我々は原発事故にどう対処すればよいか

肥田舜太郎氏インタビュー

埼玉保険医新聞  2011年4月5日発行 第462号


 原発事故の放射線被害について、今回の事態をどう見、どう考えたらよいのかが医師に問われている。六五年にわたって被爆者医療を実践し、原爆症認定集団訴訟の中心的役割を担って国と闘ってこられた肥田舜太郎医師に緊急インタビューを行った。


 放射線被害の治療について


-開業医の中では、放射線に対する治療を知れない人がたくさんいると思いますので、まず、治療について伺います。


肥田 放射性降下物による内部被ばくには治療法はまだありません。


-放射性ヨウ素をあびたり飲んだりしたときには安定ヨウ素材を投与するといわれていますが。


肥田 チェルノブイリ事故では、放射性ヨウ素がいっぱい放出した。放射性ヨウ素が先に甲状腺に取り込まれれば、後から投与しても効果がない。予期して予防する分には効果があるが、これによる副作用もある。姑息なことで対応を考えるのではなく、微量でも放射線は絶対出さないことが原則。それが不可能なので原発はすべて廃止し、無害で安全なエネルギーによる発電に変えるべきだ。

 放射能物質は何種類もあり、ストロンチウムは骨に沈着する。広島ではストロンチウムが被爆者の骨の燐を放射性燐に変え、骨髄の中へ放射線を照射して血小板貧血を起こし、多数が死んだ。

 このことを発見した東大の都築正男名誉教授は、日本を占領した連合軍総司令部に研究を中止させられ、資料は全部没収された。


(中略)


-日本の専門機関では内部被ばくの治療に取り組んでいるのでしょうか。


肥田 内部被ばくの治療法はないからやっていないと思う。内部被ばくについて本が出ているのは米国とイギリスとスイス。僕が知っているのは全部で五冊。本を書いて出すまでに内容を知っている人は少ない。書く材料があまり無い。

 チェルノブイリの時、ソ連も被害を隠し続けて、医師にも研究させなかった。しかし最近は、学問的にすごく進歩して、今までは細胞核の中にある遺伝子が傷つくと病気になり、遺伝傷害が起こるとされていたが、今は、原形質のミトコンドリアの傷害による遺伝以外の放射線被害も分かってきた。今までの医学は細胞単位の医学だったが、放射線被害は分子段階で起る。新陳代謝は体内の一〇〇〇個と少しの原子が参加する。その中で主役を勤めるのは酸素分子である。最近そのエネルギーを測定できるようになり、すべての分子が一〇〇電子ボルト以下のエネルギーであることが分かった。ところがウラニウムの分子が一つ入ったとすると、この分子は二七〇万電子ボルト。一〇〇円単価で取り引きしているところへ二七〇万円持って入ってくることになる。エネルギー単位が全く違う。それで細胞の新陳代謝がバラバラになって、動揺し、崩壊する。細胞は死ねば無害だが、悪いことにそのままの状態で生きていく。細胞は寿命が来たら死んで、自分と同じ細胞を二つ残す。放射線でめちゃくちゃになった細胞がそのまんまの姿で再生する。そして癌になる。癌細胞は人間ではない別な生き物だ。だから治せない。


-内部被ばくはメカニズムが違うということですね。


肥田 分かってみたら今までの常識の正反対だったと。例えば、外からの放射線は、強ければ強いほど大きく影響を受ける。少なければ影響も少ないというのが常識だ。ところが細胞の中で放射線が影響を与えるときは、たくさんの放射能物質があると影響が出ない。放射線が体内に入って核分裂してアルファ線とかベータ線とか出す。細胞の回りにはたくさんの酸素分子があり細胞を出入りしている。その酸素分子に放射線があたり活性酸素にかえてしまう。活性酸素になると荷電する。細胞膜はどうやって異物を中に入れないようにしているかというと、脂肪と燐が結合した燐脂質という分子が電気を持っており、放射線の分子は入れてもらえない。それが活性酸素で電気の穴が空き、その中に入ってしまう。だから、二七○万円を持ったやつが一〇〇円しか持たないものの中に入っていき、活動を始める。そこまで今の医学は分かってきた。

 そういう一番の基礎を勉強して、細胞の中で人間の命が作られ、その元をこわしてしまう、放射線はそういう人間のこわし方をするんだということをが分かれば、どんなに少なくても防がなければならないという考えが、知識人ならできる。


(後略)



肥田先生は長年被爆者医療に従事してきた方で、臨床で被ばくによる症状について経験を積んできているうえ、最新の放射線被ばくの研究についても積極的に学んでいらっしゃいます。その先生の言葉には説得力があると思います。

広島・長崎での原爆による被ばくについては、原爆投下直後の放射線による激烈な急性症状については広く知られていることですが、体内に入った放射性物質による何十年にも渡って徐々に現れる被害については、なかなか認められてきませんでした。アメリカはそうした被害について研究することを禁止してきましたし、日本政府も消極的でした。長い原爆症認定訴訟の闘いによって、少しずつ認められ、知られるようになってきました。

福島原発事故では、激烈な急性症状について心配しなければならない事態にはなっていませんが、放射性物質による内部被曝については不安な状態です。放射性物質を体内に取り込んでしまえば、たとえ微量であっても長期間放射線の影響にさらされることになります。そして、一度体内に取り込まれてしまった放射性物質を人為的に取り出す方法は確立しておらず、自然に排出されるか、放射線が出なくなるのを待つしかありません。そして、その間に細胞が放射線によって傷つけられることを防ぐ方法も今はまだありません。つまり、症状が出るのを待ってから、その症状に合わせて対処をしていくしかないということになります。その症状が、癌という深刻なものであることが多いというのが、この問題の深刻なところです。

ですから、最も重要なのは一刻早く原発を安定させ、放射性物質が漏れない状態にしていくことでしょう。そして、その間に放出される放射性物質を体内に取り込むことがないように対策を立てることが必要ですだと思います。


インタビューを読むと、『内部被曝の脅威』が書かれた頃よりは研究も進んでいるようです。

ですが、やはり分子レベルでの被害を臨床の現場で治療する方法を確立することは難しいでしょう。そうなると、内部被曝を防ぐことでしか、その被害を生じさせないようにする方法はないということになります。癌になってから治療すればいいなどとは言っていられません。

もうこのような事故が起きることがないよう、原発は廃止していくべきだと思います。