爪ケア事件、逆転無罪判決!(毎日新聞などより) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

昨日もお知らせしましたが、北九州市の爪ケア事件について、9月16日に福岡高裁において逆転無罪判決が出されました。

まずは、上田看護師の主張が認められ、当時の爪ケアが正当な看護行為であることが認められたことを、多くの看護・介護職員、そして爪ケアを必要としている患者さん・利用者さんたちのためにも喜びたいと思います。


この事件について新聞報道は、いち早く友好ブログ「ガン闘病記~骨肉腫になって~+α」のaozora様がご紹介くださっているので、リンクをはらせていただきます。



つめ切り傷害:逆転無罪「正当な看護行為」 福岡高裁判決

「ガン闘病記~骨肉腫になって~+α」

http://ameblo.jp/shiratasan-daisuki/entry-10650176319.html



さて。いつの間にかこの事件が全国規模になっていて、昨日も今日も多くの新聞やテレビのニュースなどで取り上げられているのを見て軽い驚きを感じたのですが、この事件が多くの医療・看護関係者に知られるようになり、支援が広がり、今回の無罪判決に至ったことをうれしく思います。日本看護協会が本件は看護行為であるという見解を表明したり、看護管理学会が看護の専門家の立場から意見書を提出していましたし、日本医労連も署名集めなどで応援しました。



看護管理学会の意見書については、下記のエントリーでご紹介しています。



爪ケア事件、看護管理学会が意見書提出(CBニュースより)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10445937693.html



日本医労連関連の取り組みについては、下記のエントリーでご紹介しています。


緊急報告「爪ケアを考える北九州の会」からのアピール

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10310539150.html



また、「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様からは控訴審についての新聞記事をご紹介していただきました。



毎日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5054.html



朝日新聞の記事

http://fukuokaunion.blog7.fc2.com/blog-entry-5058.html



当ブログでは、2010年6月24日に結審した際のasahi.comの記事をご紹介しています。



福岡爪ケア事件控訴審、6月24日結審(asahi.comより)

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10572938282.html



また、事件の経過と裁判の意義についてまとめた下記エントリーも参考になさってください。


爪ケア事件を看護・介護労働者が考える意義

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10595936190.html




一夜明けまして、本日9月17日にも毎日新聞はこの事件についての追加記事を掲載しています。紙面で読んだ際、厚生労働省郵政不正疑惑の村木さんの件とも関連付けられていて、供述調書の信用性が否定されたことは密室での捜査のあり方に裁判所が警鐘を鳴らしているのだと指摘したことは意義深いと思いました。ですが、サイトの方で再確認しましたら、昨日は「つめ切り傷害」としていた事件の呼称が、「北九州八幡東病院の高齢者虐待」となっていまして、少し違和感を覚えました。

この事件が刑事事件にまで発展してしまったのは、病院や市が十分な調査もなく虐待事件であると断定してしまったことに問題があったと考えていますので、その問題点を指摘するためにあえて「高齢者虐待」という言葉を使うならばともかく、そうではないのに「つめ切り傷害」ではなくあえてこの言葉を見出しに使う意義が見出せません。報道がこの事件を刑事事件とすることに加担したと言えなくはないと思いますので、その点の反省もしてほしいと思います。

ですが、記事自体はよく問題を指摘していると思いますので、引用してご紹介します。引用部分は青で表記します。



北九州八幡東病院の高齢者虐待:逆転無罪 福岡高裁「供述誘導」指摘

毎日新聞  2010年9月17日東京朝刊

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100917ddm041040145000c.html


 ◇はがれたつめ、傷害罪当たらず


 認知症の入院患者2人のつめを切り出血させたとして、傷害罪に問われた元北九州八幡東病院看護課長、上田里美被告(44)に無罪を言い渡した福岡高裁の控訴審判決は、「つめをはがした」とする捜査段階の看護師の供述調書の信用性を否定し、調書作成に、警察や検察の「押しつけ」や「誘導」があった可能性を強く指摘した。供述調書の信用性が争点になり、無罪に至った基本的な構図は、村木厚子・厚生労働省元局長に無罪判決が言い渡された障害者団体割引制度を悪用した郵便不正事件と同様で、密室での強引な取り調べや調書作成に改めて裁判所が警鐘を鳴らしたと言える。取り調べ可視化への流れが加速しそうだ。

 看護師は07年6月(1)当時70歳の女性の右足親指のつめをつめ切りニッパーではく離(2)右足中指に巻いてあったばんそうこうをはがしてつめをはく離(3)当時89歳の女性の右足親指のつめをニッパーではく離--させたとして起訴された。

 控訴審は、(2)はばんそうこうをはがした際につめがとれてしまっただけで傷害罪の構成要件に該当しないと判断。(1)と(3)は、ニッパーで指先よりも深くつめを切除したとして傷害罪の構成要件には該当するものの、つめ切り行為を「看護目的」として「正当業務行為として違法性が阻却される」と認定した。

 更に「警察官からつめのはく離行為であると決めつけられ、供述を押しつけられ、これを認める供述をしたという疑いをいれざるを得ない」「検察官に対する供述も、前のつめのはく離行為を認める供述に沿って誘導されたものと疑わざるを得ない」と指摘し、事実上、捜査の見直しを迫った。【岸達也】



警察が作成した調査が裁判において採用されるに値するものではないというならば、警察官が行なっている調書づくりは徒労、無意味な行為だということになります。しかも、結果として冤罪を生じさせ、関係者には無用の苦痛を与え、裁判所にも余計な仕事をさせることになってしまいます。取り調べの可視化はそうした観点からも早急な実現が望ましいものだと思います。



また、日本看護協会が逆転無罪判決に対する談話を発表しています。


「爪のケア」に関する刑事裁判の高裁判決について(日本看護協会の談話)

http://www.nurse.or.jp/home/opinion/newsrelease/2010pdf/20100916.pdf



上記URLのページから、日本看護協会が2007年10月4日に発表した事件への見解もリンクされています。

日本看護協会が指摘しているのは、本件で問題とされている行為は看護協会の調査によると正当な看護行為であるということ、爪ケアを含むフットケアは高齢者看護の領域では技術の向上と普及が進められている重要なケアであるということです。また、看護ケアの向上のためにはチーム内での共通認識、患者さんやご家族の理解が必要であるということも指摘しています。

今回の件でも、患者さんやご家族への説明における問題、チーム内での相互理解の不足などが絡んできていることが報道から受け取れますが、それらは看護現場や病院全体の努力によって解決すべき問題であって、刑事罰によって左右されるような問題ではないと私は考えます。

今回の事件をきっかけに、チーム医療のあり方や患者さんやご家族との関係づくりについて、それぞれの現場で話し合いが進められていけば望ましいと思います。