復刻シリーズです。
国際特許分類(IPC)第7版(2003年9月1日時点)の対訳データベースを作ったときに気づいた、日本語IPCの謎の続きです。
当時、データベースを利用する際の注意としてあげていた内容を、まずはそのまま転記します。
IPC内の語句定義と一致しないもの
国際特許分類では「in this group, the following terms are used with the meanings indicated」などの形で語句が定義されています。
少なくとも定義語句に関しては同一セクション内/他セクションからの引用を問わず訳語を統一すべきではないかと思いますが、一致していないものが信じられないほどたくさんあります。
該当する範囲 | 定義の対象となる語句 | 対応する日本語訳 | 異なる日本語があてられている分類項目 |
A01D 76/00~A01D 87/00 | hay | 乾草 | A01D 87/00 hay=牧草 (A01D 31/02 hay-harvesting machines=牧草収穫機) |
A01D 76/00~A01D 87/00 | haymakers | 牧草調製機 | A01D の注、A01D 43/04 牧草調整機 A01D 7/00 作物調製機 A01D 78/00、A01D 84/00 乾草調製機 ※ 「調整」と「調製」は他の分類項目でもごちゃごちゃです。 |
A41D | outerwear | 外着 | A41D 31/00 上着 |
B05 | other fluent materials | 他の流動性材料 | B05B 12/14 流動性材料 B05D 1/28 流動性物質 ※ other fluent materials to surfaces in general B05といった具合に他分類からB05を引用しているところまで含めると、「他の流動物質」「他の流動体」などもあります。 |
B05 | particulate materials | 粒状材料 | B05D 5/08 粒子状材料 |
B23 | metal-working | 金属加工 | B23B 39/28 加工 |
B23 | form of machine | 機械の形式 | B23Q 1/00 工作機械の形態 |
B23 | different machines | 種々の機械 | B23Q 37/00 形式の異った機械 |
B23F | gear teeth | 歯車の歯 | B23Fのあちこちで「歯」「歯車」など違う形で使われています。 |
B23F | profile | 歯形 | B23F 5/14 the tool having the same profile as a tooth or teeth of a rack = ラックカッターを用いるもの B23F 5/26 the tool having the same profile as a tooth or teeth of a rack, for making spur gears =ラック形断面形状を持つフライスを用いるもの B23F 21/14 Profile cutters of disc type =円板形の総型フライス |
B24B | polishing | 研磨 | B24B 31/00 研摩 ※ abrasive block と abrasing blockには「研磨体」と「磨」の字を使い、abrasive bodyだと「研摩体」と「摩」の字を使うといった同様のムラもあります。 |
B25 | portable | 可搬形 | B25のあちこちで「携帯用」になっています。 |
B29 | plastics | プラスチック | B29C 65/40 可塑物 |
B32 | layered product | 積層体 | B32内では統一されているようですが、他分類でB32を引用している ところで「積層品」「層状生成物」「層状製品」などさまざまです。 |
B41J | paper | 用紙 | 半分くらいは「紙」になっています。 定義がなければ別にどちらでも よいと思いますが・・・。 |
B60 | vehicle | 車両 | 「乗物」「車」などが相当数混在しています。 |
B62D | trailer | 付随車 | 「トレーラ」「トレーラー」「トレイラー」などが混在しています。 |
B65D | flexible container | 柔軟性容器 | B65D 77/06、B65D 90/20 可撓性容器 |
以上、ごく一部を拾ってみました。
【2017年の目線から】
上に示したものは本当に「ごく一部」で、実際には、この数十倍という信じられない量の不備がありました。
そして2003年9月1日時点での不備は、現在の第8版(2017年1月の最新版)でも、ほぼそのまま残っています。
このような訳語の不備が散見されたことが、IPCを訳語調べの一助とするという考えが正しくなかったと思い至った一因です。
まあ、「出願を分類する」という国際特許分類の目的に照らすと、多少の誤訳や訳語の不統一、表記揺れなどは問題にならないのかもしれません。
ただ、仮にも日本特許庁が公式に作成する分類表ですし、もう少し整えてもよいのではないかというのが、翻訳者としての率直な感想です。
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