IPCキーワード検索 WIPO vs. 日本特許庁 | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

国際特許分類には、いくつかのキーワード検索システムが存在します。

日本特許庁のシステムは、特許情報プラットフォームの「パテントマップガイダンス→「キーワード」タブで、WIPOのシステムは、International Patent Classificationの左側「Search」メニューの「Terms」で、キーワードから検索できます。

IPCのキーワード検索が役立つのは、たとえば

 ・技術内容からIPCを知りたい場合
 ・特許情報プラットフォームの「公報テキスト検索」やesp@cenetなどに蓄積されていない公報を、コンコーダンス検索で拾いたいとき

などです。
そこで、JPOとWIPOのシステムを、比較してみました。
※コンコーダンスについては、「逆引き」パテントファミリー検索を参照してください。

■キーワード 日本語:「塗料」 英語:paint
日本特許庁 23件(IPC第8版);147件(FIハンドブック)
WIPO  69件


抽出されたIPCを比較してみると、サブクラスまでの範囲でみれば両方で取得できているものもありますが、たとえばWIPOにある「A45D 40/26」と「A45D 40/28」は、「A45D」そのものが日本での結果には含まれません。

FIハンドブックの検索結果147件も、本文中を含めた「どこにも」上記2つの分類は出ていないのです。
理由は、「翻訳」にあります。

  A45D 40/26 練り状ペイントを塗布する器具,例.ローラを使うもの,ボールを使うもの
  A45D 40/28 すでに塗布されたペイントを押すための器具

英語のpaintに相当する部分が「塗料」ではなく「ペイント」になっているため、この2つは含まれてきませんでした。

以前に、自社サーバー上で無料のIPC英日対訳全文検索システムを運営していたことがあるのですが、そのデータを用意するにあたって、この類の翻訳揺れには数多く触れてきました。

具体的な内容は別の機会に譲るとして、日本語のIPCには、英語で全く同じものを示す語に対する表記揺れや翻訳揺れ(ときには誤訳)が相当数で混じっているため、キーワード検索をすると、結果がかなり違ってきます。

もちろん、substrate=基質、基板など、英語は同じでも分野によって日本語が違う語もあります。
そういうものを除外しても揺れが多いのです。

表記揺れなどは、特許出願の実務上は問題にならないでしょうし、揺れがあるからどうというわけでもないのですが、キーワード検索の際には英語を使うほうが安心だと思います。

もうひとつ比較します。今度は複合検索です。

■キーワード 日本語:「塗料 縮合物」 英語:「paint condensate」
日本特許庁 0件(IPC第8版);0件(FIハンドブック)
WIPO  27件


日本特許庁では、複数のキーワードを並べてAND検索することができません。
WIPOでは、複数のキーワードのAND検索が可能です。

日本が複数のキーワードを検索できないわけではなく、ただ単に該当するものがないだけではないかという反論もあるかと思います。
これについては、たとえば「A45D 40/26 練り状ペイント」にある「練り状」と「ペイント」で検索しても結果は0件となり、AND検索が働いていないことがわかります。

ちなみに、この分類に対応する英語は
Appliances specially adapted for applying pasty paint, e.g. using roller, using a ball
ですので、WIPOでどうなるかを実験してみました。

■キーワード pasty paint

A45D 40/26、A45D 40/28、B65D 85/72の3件ヒット

■キーワード paint pasty (順序を逆にして並べました)

A45D 40/26、A45D 40/28、B65D 85/72の3件ヒット

■キーワード "pasty paint" (フレーズ扱いにしました)
A45D 40/26、A45D 40/28、B65D 85/72の3件ヒット

語順などに関係なく、同じ結果になります。

この点から考えても、IPCのキーワード検索には、WIPO提供の英語版のほうが便利です。
少なくとも翻訳者が使うには、英語版のほうが圧倒的に使いやすいと思います。

かつて英日対訳のIPC全文検索システムを構築したときには、まだ現在のようなWIPOのシステムは存在していなかったのですが、その当時も今も私自身はずっと英語版ユーザーです。

上ではシンプルな例を示しましたが、いろいろなキーワードで試してみるとなおさら、翻訳者にとっては英語版という理由が、よくわかるのではないかと思います。

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