Google Translate の誤訳リスク | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

Google Translate + Patent + サイト指定検索=?で説明したように、ときに Google Translate が、翻訳作業の助けになることも。

私自身は、「訳す」あるいは「調べる」手段というより、見直し(チェック)の一工程として Google Translate を使うことが、たまにあります。
市販の機械翻訳ソフトとは異なる翻訳ロジックを使っているため、両方を併用することで、内容によっては見直し作業の負荷を大幅に軽減できるのです。

ただし、Google Translate は、かなり大胆に「誤訳」を出してくることがあるため、注意が必要です。
例をいくつか示します。

例1)
カルボキシメチルエチルセルロース → carboxymethyl cellulose

例2)
ヒドロキシエチルメチルセルロース → hydroxyethyl cellulose


上の画像で明らかなように、「メチルセルロース」という部分が「cellulose」と翻訳されています。
このcelluloseをクリックすると他に3語あり、その中に正しい訳語もあるのですが、第一訳としてあがってくるのは cellulose です。


「エチルセルロース」や「メチルセルロース」単体では、こういうことは起きず、物質名の一部になると、この誤訳が生じやすいようです。

例3)

パルドクリン → parudorin

正しくは、「pardoclin」です。
スペルミスに加えて、「ク」の音に相当する部分が、欠落しています。
セルロースの場合とは異なり、他に候補語はありません

例4)
花梗→peduncles
花柄→floral
花托→receptacle
花床→blossom end



花梗には、pedunclesの他に、「The scape」、単数の「peduncle」、無冠詞の「scape」が候補語として存在します。

花柄には、floralの他に、「floral pattern」、「floral patterns」、「floral design」があります。

花托には、receptacleの他に、「torus」、「thalamus」、「the torus」が存在します。

花床は、ひとかたまりで「blossom end」と訳されるだけで、他に候補語はありません。

ここで、『広辞苑』第5版と『大辞林』第3版から各々の語の語義を抜粋します。
 

花梗:花柄(かへい)に同じ。 『広辞苑』
    「 花柄かへい 」に同じ。 『大辞林』

花柄:花の柄。花梗(かこう) 『広辞苑』
    花序の中央の軸から分枝し,各々の花をつけている柄の部分。花梗(かこう)。 『大辞林』

花托:花床(かしょう)に同じ。 『広辞苑』
    花柄の上端にあって,花弁・めしべなどをつける部分。花床。 『大辞林』    

花床:花柄の頂端にあって花が着く部分。花托(かたく)。 『広辞苑』 ※「着く」は辞書どおり。
    「 花托かたく 」に同じ。 『大辞林』


以上のとおり、花梗と花柄、花托と花床は、同じものを示しています。
でもGoogle Translate は、完全に別のものとして出力してきました。

上記4語はカシューアップルを調べると出てくる語で、試しに実験してみたところ予想どおりというか、見事に別訳になっています。こういうことが、ままあるのです。


繰り返しますが、Google Translateは、市販の機械翻訳ソフトとは異なる仕組みを使っています。
それがメリットになる場合もあり、デメリットになる場合もあります。

ここで示した誤訳例はデメリットのほうで、検索エンジンとして抱えている玉石混交のデータをコーパス的に利用する以上、避けられないことでもあるように思います。

少し前に、特許公報を辞書代わりに使うのはやめるほうが良いという話を書きましたが、「Google Translate + Patent + サイト指定検索=?」で説明した程度の用途であれば、十分に活用できます。

これと似ていて、Google Translate を翻訳用に使うことは推奨できませんが、他の用途で使うのであれば、活用できることもあります。

重要なのは、それぞれの癖や特性を知って、上手に使い分ける必要があるということです。

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