今日は、日本人女性のクリエイティビティについての考察です。「日本人は猿真似ばかりで創造力がない」というGHQの流れを汲む洗脳を解くためのエピソードの一つをどうぞ。

 

現在、「重要無形文化財」に指定されている日本の伝統工芸の一つに綿織り物の久留米絣(かすり)があります。久留米絣を発明した日本人女性は、井上伝(いのうえ・でん、1789〜1869)という米屋に生まれた娘でした。

 

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1700年代と言えば、マリー・アントワネット(1755〜1793)が生きた時代です。この時代に経済的な基盤を持つ男性による様々な発明が西欧でなされましたが、貴族でもない貧しい女性が画期的な発明をして名前を挙げたという例はほとんどありませんでした。

 

世界的な視野で見ると、この時代に貴族でもない貧しい家の娘がたった一人でイノベーションを行って発明をして、それを広めたということ自体が、当時の日本の社会に実は女性が活躍する土壌がすであったことを示しています。また、貧しく身分が低い女性でも優れた技術を持つ者をサポートした先見の明のある人々が当時の日本にいたということです。

 

また、藍染めの綿織り物というのは、当時の庶民が普段着に使う布でした。これが、殿様などに献上する絹織物におけるイノベーションではなく、庶民の普段着をよりオシャレにするというイノベーションであったことも注目に値します。これは、当時の日本社会が成熟してきており、庶民に余裕があったことを表しています。もしも、「庶民が食うだけでやっと」というような状況に置かれていたら、オシャレ目的の柄物を楽しむ余裕はなかったはずなのです。 

 

伝統的な日本文化の特徴は、古事記の時代から神々も稲作をしたり、養蚕をしたり機織をしてきたため、「働く」ということが苦痛ではありませんでした。日本人にとって、働くことは、むしろ尊い「神事」であり、自分を磨く方法でもあり、家族を助ける方便でもあり、自分の働きによって人に喜んでもらうという社会貢献でもありました。西欧の精神文化の根底にあるのは「聖書」ですが、旧約聖書の創世記によると、人類の祖であるアダムとイブが「神」の命令に背いて「生命の実」を食べたために、神罰として「労働」(苦役)というものを課せられました。

 

西欧の労働観と日本人の考え方は全く違うため、日本人は男も女も仕事を通じて「工夫」したり、最低限以上の仕事をする、一生懸命やる、ということを「損」とか「苦痛」と捉えませんでしたが、それゆえに自分たちのための自発的なイノベーションを起こすことができたのです。

 

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井上伝の話は、戦前の尋常小学校の「修身」の高学年用の教科書にも掲載されており、戦前はほぼ100パーセントの日本人がその名前と功績を知っていました。

 

江戸時代の久留米藩の城下にある通外町に生まれた井上伝(いのうえでん)は、米屋の家庭に生まれましたが、決して豊かではありませんでした。伝は7~8才頃から、木綿織りの稽古を始め、12才頃には大人にも勝るほどに木綿織りが上達しており、白木綿や縞を織ったものを売っていたといいます。

 

伝はある日、着古した藍染めが擦れて模様のように白くなっているのを見て、それをほぐして糸の状態に戻してみました。すると、藍色の糸がところどころ白くなっているのがわかりました。そこで、「それなら、まだらに染めた糸で織れば、面白い模様ができるのではないか」と考えました。そこで、白い糸をところどころくくって藍の染色液に漬け込み、まだらに染めたものを使って織ってみると、絣(かすり)模様が現れたのです。そこから、改良を加えて白い斑紋模様で有名になった織物を発明しました。

 

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そして、ここからのサクセスストーリーも、当時の日本には決して「女性差別」というものがなかったことを物語っています。

 

伝は、作った織物を「加寿利」と名付けて売ったところ、城下で評判となり、15才の時にはすでに20名もの弟子が集まり、40才の頃には弟子が1000人にもなっていたといいます。そして、400人もの弟子が日本各地に散らばって、機業を開業したというのですから、全国規模の一大産業を確立したことになります。伝は晩年まで織物の指導に従事しつづけ、弟子の数は合計数千人にも登ったといいます。

 

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1700年代に井上伝が見せた創意工夫と活躍は、昔から日本人が創造性を発揮していたことと、当時の庶民にはオシャレを楽しむ余裕がある豊かな社会であったこと、そして日本女性の才能の開花を社会が支えていたことの証明でもあります。

 

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