夢の浮橋~夢と現世の狭間~

夢の浮橋~夢と現世の狭間~

気の向くままに書いているので、時と共に、主に書いているテーマが変わります。

更新休止中。
小説はpixivにて一部更新しています。

https://www.pixiv.net/users/5742786

アメンバー記事だったものも一部ですがこちらには出ていますので、よかったら

Amebaでブログを始めよう!
別ログの転載。
随分前に書いた『一場の桜夢』の少し前の起点になる話です。
ブログの表示変わってるからどうかと思いこっちでも一個出してみた。
この話は完結しています。
続きはアメブロではなくpixiv内に全てあります。
pixivのページへは下記からご興味あるかたはそちらからお願いします。
(久しぶり過ぎてリンクの張り方忘れたのです😓)

これであっているのか謎だもの
(検索するとページには飛べるんだけど)















宿屋の二階の軒に座り、風間は煙管片手に通りを見下ろす。
祭りで人通りの多い通りをただ、無感情に見下ろす。風間の意識はどこか遠く、ここではない場所にあった。手にした煙管も、ただそこにあるだけで火は既になくなりかけていた。
「……………風間、聞いていますか?」
不意に、天霧の声に気づいて、風間は目を軽く伏せ、煙管を含み、静かに煙を吐き出す。風間はほとんど天霧の話を聞いていなくてとんと何の話だかとんと検討がつかなかった。
「………………………何の話だ?」
天霧はため息をついて、事態を少しかいつまんで再び口にした。要は、断ることの多い飲みの席に付き合えと言いたいらしい。風間はあからさまに嫌そうに、顔をしかめる。正直、風間は志士気取りの薩摩の人間と酒を酌み交わすのは、あまり好いてはいなかった。多少の護衛や密偵紛いの仕事は受けたが、酒宴は気が向かない時は断ることもあった。
「………くだらないな」
「また顔を出さない気ですか?」
風間は深いため息一つつくとまた露骨に顔をしかめる。
「出ないとは一言も言ってはいない。だが、池田屋の一件で、奴らも少々焦ったと見えるな」
口元に浮かぶ、冷たい笑み。池田屋と聞いて風間の頭の中に、ふと池田屋で会った女鬼の姿が浮かぶ。
「……………」
そう、風間に釘をさす天霧を風間は心ここに在らずといった視線を無言のまま向ける。
「行くところがあるので、私は出ます。風間、夕刻には戻りますので、くれぐれもここにお戻りいただきますよう」
天霧は、風間の言葉を待たず、姿を消した。
風間は、天霧の消えた方向を一瞥し、既にいない天霧に返事がわりに長いため息をついた。
何もする気がなくて手持ちぶさたさに階下の通りを眺めていた。
少し奥、あさぎ色の羽織が見え、彼らは近づいてくる町の人間はそれを見て、通りの脇に下がる。池田屋のあと、少しずつではあるが、新選組に対する評価は少々上がった印象はあるがまだまだ、新選組はよそ者扱いされている呈があるようだ。
部屋に感じる一つの気配、宿の中にいる浪士の状況を探っていた不知火が戻ってきたのだと風間は気づく。不知火は風間の隣に並び、階下を眺める。不知火の視線の先には槍を持つ最後尾の新選組の隊士だ。風間の知らない男だった。
「………あれ……あいつ」
「………なんだ?」
「池田屋で会った奴だ。人間にしては骨のある奴だったぜ」
「…………所詮は人間だ。関わるだけ無駄、だな」
暇潰しを見つけた子供のような、不知火の瞳に、風間はただ冷めた視線を投げただけだった。
「…………まぁ……そうなんだけどな。久しぶりに楽しく思ったのは確かだな。
………風間?………新選組っていうのは男所帯じゃあ、なかったのか?」
「……そう聞いていたが。どういう意味だ?」
不知火が原田と並んで歩く羽織を一人の中性的な一人の青年とおぼしき人間に視線を送る。
「あの青い羽織を着てない奴だ。どっかで見た気がするんだよなぁ………」
風間は視線の焦点をそこにあわせて、見覚えのある姿を見つけて、しばらく黙る。
(あの女鬼だ…………)
「風間………?おい、どうしたんだ?」
「………あれは」
「風間は知ってるのか?俺には、女に見えるんだよな?しかも、どっかで会った気がしてな」
「池田屋にいたな」
「……へぇ、で何者だ?」
「………………あの娘は鬼だ」
「は?………むすめ?」
「何を驚く。疑っていたんだろう」
風間は瞠目する不知火の反応が謎だった。
「………それはそうだが。本当に女………とは驚きだな」
「…………たぶん、な」
実際に確かめたわけではないためそれは風間の見た目による判断でしかない。
「風間、お前適当に言うなよ。鬼ってのも適当じゃあねぇよな」
「それは、確かだ。白銀の髪に金の瞳、あいつの頬は切れたはずだが、その場で治る奴だからな」
「……へぇ…………それはそれは」
何やら含み笑いの、不知火が風間には癪に触る。
「何がおかしい?」
「お前が、他人に興味持つなんて珍しいな。しかも、女に」
「………………」
話している間にもあの娘は近づいてきて、落ち着きなく辺りを見回す娘の瞳と、宿屋から階下を見下ろす風間の赤い瞳とが一瞬交差する。
それは、短くも、長い時間で、一瞬時が止まった錯覚に風間は陥る。鬼化した姿が、娘の姿とだぶり、冷徹と言われる風間のその鼓動が一瞬にして僅かだが乱れた。娘から、瞳を反らせなくて、思わず見つめてしまう。
風間は、はっ、と我に返り、ごまかすかのように、既に火のなくなった煙管を口にする。
だが、不知火の注意は風間にはなく、あの娘にあった。風間はそれに安堵した。
「…………なんであの娘には俺らが見えてるんだ?」
「なぜだろうな」
「お前、いつものように部屋の気を消してんたろう」
「ああ。そうだか」
風間は幼い頃の経験からか、人里に降りている際は目立たぬように人間とは一線を引く意味も込めて自身や部屋自体に結界を張ることが癖になっていた。今も、部屋全体に結界を張っていたから、本来であれば風間を見上げる者などいるずないと踏んでいた。それをあの娘は視線に気付き、風間を見つけてきた。
「………」
「…………ただ者ではないと、言うことなんだろうな」
ただ者じゃないと言われた娘は、どこか怯えたように挙動不審に辺りを見回したためか、隣の男にえらく心配されていた。
じっと、娘を眺めていた、不知火が謎が解けたのか声が上がる。
「……………あ……わかったぜ。あの娘、あいつに似てるんだ」
「思い出したか」
「お前も知っているはずだなんだけどな。
風間、南雲家を乗っ取り当主になった奴覚えてないか?南雲の当主をうまく懐柔してさ」
「南雲、だと?」
南雲家の事情は聞いていて、確か南雲の年若い当主に会ったこともあるはずなのだが、風間には顔の記憶がなかった。南雲の異能者は去年代替わりしたての齢六つの女鬼だ。能力は、稔動力。風間はその子どもの顔はかろうじて覚えてはいたのだが。
「そうだよ。あそこは直系の男の後継ぎがいないからな。南雲家は珍しい女鬼の家系だな」
「………南雲、薫だったか?」
「何でお前は名前が出て、顔出ないかねぇ」
「興味ないからな。名前さえわかっていれば支障はない」
「てめえ、それでも西の鬼の頭領かよ」
「不知火。欲しいなら頭領の地位、お前に今すぐにでもくれてやる」
不知火はあからさまに顔をしかめた。
「そんな重荷いらねぇよ。めんどくさいだけだ。てめえが持っとけよ」
「…………ふん。お前もいい身分だな」
南雲薫といえば、東の鬼雪村家の生き残りだ。顔を覚えていないだけで、風間は事情は把握していた。
風間は数年前から会っていない数少ない親友を思い浮かべる。
(雪村…………)
南雲薫の似た人物となると心当たりは一人しかいない。南雲薫は雪村家がなくなり、直系の男鬼のいない南雲家に養子に入った。もう一人いた妹の女鬼は綱道が引き取ったと聞く。似ているとすればあの娘は雪村の生き残りの片割れなのではないだろうか。
『生きてたら必ず会いに来る。もし帰らなかったら、残された二人の兄妹を見守っていてくれないか』
知己は、別れ際笑ってそう言った。風間の脳裏にはその笑顔が今も残る。
親友とした約束は、今まで守れないままだった。もうそれぞれの道を歩いている。親友がそこまでの責任を持つ必要がない気がして、敢えて探さなかった。南雲薫の居場所はわかっていたが、綱道が預かったという雪村千鶴の行方は全くわからなかったが、探さず今日に至る。
ところが、どうだ、偶然にも雪村の兄妹の片割れを見つけたかもしれない。ある意味それは風間には好機な気がしてきた。
「風間。……もう火ねぇじゃねぇか。お前らしくねぇ……」
今はうまく他人の言葉が入ってこない。風間は、気づくと何か考え混んでいる状態だった。
だがそれを他人に指摘されるのは風間は好きではない。
「…………………不知火、少しは黙ったらどうだ」
「へいへい」
わざとらしく、顔をしかめる不知火を睨むように一瞥したものの、風間の意識はまた思案の奥に落ちて行った。
あの娘と話がしてみたいと、風間は思った。















1



ルトムント国の国境沿いにある街クロット。
隣国ヴェリーネ国との間に先々代アンリ国王の御代に不可侵同盟が結ばれ、長かった領地争いに幕を閉じた。その名残に残る、高い要塞の塀は今でも土地の記憶を伝え続けている。
今では、両国の間の地に互いの特産物を扱う市場が定期的にたっている。クロットで一番賑やかな場所といっても過言ではない場所だ。その分、大小様々な問題も抱えているのも事実だった。
クロットの街の北に隣接するフォルティア伯爵領、南に隣接するのがラグレーン子爵領。主に、この両家が中心となり役人の手の届きにくいとされるクロットの治安を維持していた。
クロットと他の街との間には2つの大きな山脈が横たわっており、山脈の山中には山賊が住むとさえ言われ、クロットはいわば陸の孤島、忘れ去られた街と揶揄するものも多かった。


そんなクロットに住む少女、ラシェル。
これでもフォルティア伯爵家の長子、ヨアンの息女で、18歳になる。母親譲りのプラチナブロンドの長い髪に翡翠色の瞳、整った顔だちは街に出ると人目を引くのだが困ったことに、本人はあまり気にはしていないのだった。


 
今日は、市場の立つ日、フォルティア伯爵家当主である父、ヨアンの仕事の手伝いでラシェルは市場に出かける。ヴェリーネ国に駐在するヨアンの知人に会いに。彼は市場の立つ日にやってくる。ラシェルが出向くのは彼の指名で、手紙を複数預かるだけの仕事。その中身はラシェルは知らない。
長い、薄汚れた外套を纒い、いつも出入りする食堂で昼食を軽く取る。街の人も普通に食べにくる場所柄、ラシェルは多少浮いて見えるのだが、幼なじみと小さい頃から出入りしているため落ち着く場所の一つ。ラシェルを知るものも少なくなく普通に挨拶してゆく人もいる。そんな場所。
市場が立つ日なのか今日は客はいつもより多い。
その客の中に、ラシェルの目をひく男が一人。横掛けのカバンから覗くお金の入った袋。ここでそれはスリの餌になる意味を示す。
視線だけで周りを見回すと複数のスリがそのカバンを狙う。
(だよねぇ……仕方ない助けるか)
ラシェルはフードを被ると男の横に掛ける。
「お兄さん、そんなんじゃお金なくなるよ」
「……えっ……」
突然、ラシェルに話かけられたことに男は驚く。薄汚い店にはそぐわない美少女。なのに場馴れしているという矛盾。
「周り、スリに囲まれてるよ。いいの?」
男は我にかえり、カバンを手元に引き寄せる。
「だめです。これは……大事な……」
「大事なら、場所考えることね。じゃあね。クロットではね、お金は身につけて持つものよ。さよなら」
「まっ……待って、まだお礼を………………」
男は咄嗟にラシェルの外套を捕まえた。反動でラシェルのフードが外れてしまう。
「…………あ………何してくれんのよ。あんた」
ラシェルが軽く睨むと、男はすくむ。
「ごめんなさい、ごめんなさい。わざとじゃ、なくて」
「もういいわよ。どうせ、みんな私だって知ってるし。離して。お礼とか、いらないから。」
「ごめんなさい。ありがとう」
男の手が外套から離れる。
「どういたしまして。買い物楽しんでね。じゃあね」
ラシェルは、仕事をすべく、店を後にした。


乗ってきた愛馬は、知り合いの所に預けたままに、ラシェルは市場の開かれている、城門の前まで徒歩で移動する。10分ほど歩くと高い城壁が見えてくる。中に入るには、複数の武装した門番の立つ門をくぐらないといけない。
ある間隔ごとにある城壁、その前に立つ門兵の横を通り過ぎてそこは、ルトムントとヴェリーネのあいなかに存在する自治領。
ここでは独自の法律が適応されるため、注意が必要となる。
ラシェルは、慣れた様子で門の奥へと躊躇なく歩いてゆく。歩く度カチャカチャと腰に下げた長剣が音を立てる。
天幕いっぱいに両国の商人がいろんなしなを並べている。ルトムントの言葉もヴェリーネの言葉も混じり合う、異質な空間だ。
ラシェルの目的は決まっているが、それだと怪しまれるから、他の店を見ながら移動した。それを見て、盛大にため息をつくラシェル。
(安くて相場の2倍なんて、アホらし。買う気がしない)
結局、何も買うことなく、目的の天幕へと行き着く。
『こんにちは』
ラシェルは少しだけ外套のフードを持ち上げた。天幕の奥の彼、サクラも日焼けした顔に笑顔を浮かべる。ラシェルが話しているのはルトムント語ではなく、ヴェリーネ語だ。
『相変わらず、アコギな商売してるわね。こんなに法外の値段ふっかけられて買う人いるの』
『ひどいな。このじゅうたんは一級品なんだよ。これ以上は安くできないよ。これだから、価値のわからないルトムント人は困るよ』
サクラはあからさまに嫌な顔をする。サクラの指の先、光に反射して銀細工の髪飾りが光る。髪止めだと思う。
『指の先の髪飾りはいくら?』
『200だよ』
『100にまけて』
『150』
『50』
『……何でまた減らすの、お嬢さん。無理だよ。せめて100が限界だよ』
『80』
しばらく値切り交渉は続き。結局サクラが折れる。
『もういいよ50で。ただし、次も来るから来てよね』
サクラは髪飾りを紙袋に突っ込み、ラシェルの渡した硬貨と交換する。
『うん。またくる』
わずかに笑みを浮かべる。
『君には負けたよ。約束だからね。君に会えるの楽しみにしてるよ』
渡された、紙袋は髪飾りだけ入っているにしてはやけに四角に固かった。手紙が入っているのだ。ラシェルは3通の手紙と髪飾りを確認すると、外套の下のカバンにしまう。
『中身は間違いないかい?』
サクラはラシェルを意味あり気に見て、問うてくる。
ラシェルも正面から見返して、笑顔を作った。
『うん。あってる。ありがとうまた今度』
『……ああ』
周りには、手紙の交換は見られてはいけない。あくまでも自然にしないといけないと、言われていた。
(……やっと終わった。帰ろう。長居は無用だ)




「……おや、ラシェル?また、派手に値切り交渉してたね」
通りすがりにラシェルは、露店の店主に話かけられる。外套であまり顔は見えないはずだが、何故わかるのか、ラシェルはいぶかしむ。フードは外した記憶はなかった。
「うん、見られてた?」
とはいえ、すぐに笑顔を形作ると、ラシェルは人当たりのいい笑顔を店主に向ける。
「あそこの店はあまりお薦めしないけどね。ぼったくりに合わなかったかい?」 
「………あそこ、確かにぼったくりだけどたまに掘り出し物あるのよね」
「それはわかるけどねぇ……お気をつけよ。」
「おばさん、心配してくれてありがとう」
「それはそうと聞いたかい?明後日、王都の視察団が来るそうだよ。何十年ぶりかね、正式な視察なんて」
「うん、知ってるよ。父様、それでてんやわんやだもん」
「ごめんよ。聞く相手間違えたね。
次期伯爵様になるんだ、知ってて、当然だよね」
「………」
その一言にラシェルは頭が真っ白になる。
(……私が………?)
他人に言われて気づく、自分の立ち位置。ラシェルは正直深く考えたことはない。
「違っていたらごめんよ。でもね、私は役人の左遷の場でしかなかった不遇な街がヨアン様が来たことによって、過ごしやすくなったんだよ。クロットの街をろくに知らない役人よりあんたか継いでくれた方があたしらとしては嬉しいけどね」
「……私は……そんなに偉くはないよ。父様みたいには………なれない」
そんな感傷に浸るラシェルの気をそぐ、怒鳴り声にラシェルは我にかえった。
目の前の天幕ではヴェリーネ人の女店主が、客を怒鳴り散らすという光景がひろがっている。まぁ、自治領内ではめずらくはなかった。ラシェルのように、外国人相手に同等にやりあえる人物は少ない。
ラシェル達からは相手が外套を羽織っているため女店主が誰に怒っているのかはこちらからは見えない。
「かわいそうにね。スーマンは近くにいないわね」
「そうみたいね」
店主の言うスーマンは街の人の格好をして街を護っている警備の役人のことで、市場にも紛れ喧嘩の仲裁や通訳、あらゆることを総合的にこなすプロ集団だったのだが、この周囲にはいないようだ。 
その間も目の前の騒動は終息を知らず、怒鳴る露店主に、あたふたとルトムント語をぶつぶつとつぶやく男(らしい)の2つの声が響くだけだ。
騒ぎの周りには小さな人だかり。傍観を決め込む街の住人。ラシェルには見慣れた光景だ。ラシェルも傍観者の一人ではあるのだが。渦中の男が不憫に見えて、ラシェルは溜め息ついて近寄る事にした。
「あんたが無理して出る必要もないはずだよ。これだけの騒ぎだし、じきにスーマンが来るよ」
店主のが心配そうにラシェルに静止の声をかけるが、もうラシェルには聞こえていなかった。
彼らに近付くと、ラシェルは露店主に問う。
『どうかしたの?通訳しようか?』 
『あんたいい子だね。頼むよ。言っとくれよ、この優男に。ばばあだと思って舐めとる。値切りには応じんと。ヘラヘラしおって腹が立つたらありゃしないよ』
『伝えるね』
どっちが悪いなんて、ラシェルにはわからない。ただ、言葉が通じなくて起きてるトラブルらしいことはわかる。ラシェルは優男と呼ばれた男性に視線を向ける。
紫の瞳、綺麗な顔立ちの若者だった。諦め悪いからラシェルはもっとおじさんかと思っていた。男も、ラシェルを見て一瞬固まるもすぐに笑顔になる。
「彼女は、値切りしようとしたから、怒ってるだけだと。値切りには応じないそうよ」
「私は、ただ値段聞いているだけですよ。そしたら、彼女が怒りだして、意味わかりませんよ」
「………はい………?」
「値切りなんて高度な技出来ませんよ。ましてや、ヴェリーネ語話せませんしね」
「だったら、どうして話通じないって、諦めて店から離れないのかな」
「あれがほしくて」
男の指す先には、楕円の翡翠の飾りだった。服につける物だろうか、男物なのか女物なのかすら、ラシェルにはわからない。
「わかったから少し待ってて」とラシェルは店主を見やる。
『おばさん、その翡翠の飾りいくら?』
『銀貨で100だよ』
すぐに女主人はなぜだかまくし立てる。全く周りが見えていないらしい。しかも、喧嘩ごしだし。
『なんだい、値切りには応じないよ』
『聞いただけでしょ』
何でもかんでも喧嘩越しにこられたのでは迷惑以外の何物でもない。だが、この前この婆さん見たことある気がしてラシェルは思わず凝視する。既視感に記憶を辿る。
そして思い出す。この前も1人捕まえていちゃもんつけていた。あまりに何回もスーマンの厄介になるから最後通告を出されたおばさんだ。ぎゃあぎゃあと騒いでたから覚えていた。まあ、余罪は山ほどありそうだが、不確定のため起訴できないだろう。確か……名前は………。
いくらぼったくりが横行している市場でも、限度はある。
ラシェルはその瞳に色を混ぜると別のスイッチが入る。
『買うのかい?』
『私じゃないよ。でも、いいのかな。あなた、あと1回騒動起こしたら、出入り禁止なんじゃなかったかしら。カミーラ=バズさん。これも、1としてカウントするのよね』
とたんに、店主の顔が青くなる。ビンゴだったらしい。
『あんた……スーマンなのかい?』
『違うけど………似たようなもん、かな』
『お金はいい……いいからさ。譲るから。見逃してくれないかい。足りないなら………』
明らかに今までの勝ち気な態度が一転し女主人が動揺している。
カミーラは品物見渡し、翡翠の飾りの綺麗な首飾りを焦った様子で手に取る。翡翠の飾りと首飾りを丁寧に紙の袋へ詰める。
『………』
『これもつけるからさ……それとも他のがいいなら選んでくれていいよ。出入り禁止だけは………頼むよ』
カミーラは、ラシェルには紙袋を押し付けるように渡す。思わず、手に取ってしまい困る。
『……確かに、私はスーマンじゃないしね。』
『……話のわかるお嬢さんで助かったよ』
カミーラは終わりとばかりに、奥に引っ込む。
そこに、本物の商人の格好のスーマンがやっと来て、ラシェルを認め、目線をラシェルにあわせて伏せ、目立たぬように少し頭を下げるようにする。
商人らしからぬ威圧感からラシェルは武官だとすぐ気づく。
「何かありましたか?」
天幕の奥に冷や汗かきながらカミーラがラシェルの言葉を待つのがわかる。
「いいえ。何もありませんよ。値切ってて……。お恥ずかしい所見られてしまいましたね」
「いえ……よい、お買い物を楽しみください」
スーマンは、何事もなかったかのように去る。カミーラ深いため息が聞こえた気がする。
ラシェルは、いまだに呆然とする元凶の男の腕を掴むと、市場の外に連れ出した。無言で男はついて来る。
ラシェルは、門をでて、高い城壁沿いに歩いて、街の外れの路地に入り、しばらく歩きやっとラシェルは止まる。周りは日中もあまり日がささないのか、どこかしら薄暗い。
「あなたはどこまでゆくつもりですか?」
「人気のないところまでよ」
「散々目立っといてそれはないでしょ。元が綺麗なんだから十分目立ちますよ」
「同じ台詞返すわ。あんたも充分目立つわよ」
寡黙な男かと思えば、そうではなかったらしい。露店での態度と今との雰囲気の差にラシェルは違和感を感じる。今は露店で見たしおらしさは全くなく、我の主張のしっかりできる男という印象がある。
「それはどうも」
男は、ラシェルの外套のフードを唐突に外す。男が被っていたフードは天幕を走る途中で外れたためラシェルは既に男の顔を見ていた。
「何するのよ!」
睨むラシェルに、ただ男は笑顔を崩さない。
(なんか、むかつくわ。この男)
「私だけあなたの顔見れないんじゃ、不公平でしょう」
ラシェルは外套のポケットから、さっきの紙袋を出すと、男の胸に押し付け、すぐに手を離してしまう。
「あなたのよ。」
男は落ちそうになった紙袋をすんでで拾う。
「あなたのも入ってるでしょう。首飾りなんて、私は着けませんよ」
あんなじゃらじゃらした飾りなんてラシェルは欲しくなかった。多分、安い物ではないのは宝石に詳しくないラシェルにもわかる。中心を陣取るひときは大きな翡翠一つで高額なのに、周りには翡翠と水晶なのか交互についているのだ、安くはないはずだ。だけどそんな高価な宝石もラシェルには興味が全くない。
「奥さんにでもあげれば?私はそんなじゃらじゃらしたのはいらない。売るなり、捨てるなりお好きにどうぞ。次にあなたがぼったくりにあっていても絶対に助けないから。じゃあね。もう、行く」
男は、ラシェルの手をつかもうとしたが、ラシェルは軽々とその手を避けた。
「……ちょっ……なんなんだよ。あれ………ちょっと…待って」
そのまま後ろ振り向かず、ラシェルは歩き出す。
お互いに名前聞かなかったことに気づいたのはずいぶん後になってのことだった。






途中までですが、つづきはこちらにあります。
下記の一覧から出ます。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11229897


プロローグ


ラシェルが10歳になったある日それは突然にもたらされた。
10歳の子供が背負うには重い重い真実。
「ラシェル、あなたに大切な話があるの」と、いつにない真面目な顔で母親であるエマはラシェルを子供部屋から連れ出す。
行き先は、父のいる執務室。
ただならぬ雰囲気を、ラシェルは子供ながらに感じて、黙りこんでいた。
「ラシェル、今からする話は決して誰にも話してはいけないよ。」
ラシェルは父、ヨアンの瞳を真っ向から見返し無言のままうなずく。
「気づいてるかもしれないが、私とラシェルは血がつながっていないんだよ」
あまりにも衝撃過ぎて、ラシェルにはその辺の記憶は飛んでいた。ただ、その場に居たくなくて逃げたのだけは覚えている。どうやって、ヨアンと仲直りしたとか、細かい記憶はなかった。
何故、誰にも話してはいけないのかとか、言われた気がするのだが、わからなくなっていた。だけど他人にこの事実を話す気はさらさらなく、8年経った今でも誰にも話したことはない。話せば、今の生活が壊れる気がして、口には出したくなかった。
6年前に血の繋がった母を病気で亡くした後も、ヨアンの態度は変わらず、悪いことすれば当然怒るのだが、基本的には優しく見守っていてくれた。
血が繋がってなくても、父様は父様だと。いつからかそのことにきがついた。
ラシェルにとってはそれだけで充分だった。



















ブログ最終更新……数年前とか……( *´艸`)
もう平成終わるっちゅうにね
飽きっぽいわな。





久しぶりに読んだ本の感想文書きたくなった。
タイムリーではないので…語る相手も他愛ない一人言です。
不意にネタバレしてるかもしれません。
そこはご了承を。


彩雲国物語読み終わり。

もともと興味があって、何年経つかは知らないけど(笑)
書店で平積みになっていたこの本を手に買うか悩んだのを覚えてる。迷った挙げ句この時買ったのは[十二国記]シリーズ

アニメサイトで動画見つけて、案の定面白くて、今になり全巻制覇。
アニメの声でキャラクター動いて……よかったよかった

読み出す前は悪役にあたる旺季、悠舜、晏樹3人のネタバレみてたから、読みきれるか不安があった。なんか絶対悪みたいな印象受けたからさ。

アニメの印象からして悠舜はとりあえずおいといて、他の2人は完全に悪役としての扱いだと思うわ。最後まで読むと彼らの印象はかなり変わる。意外に晏樹様と朔洵嫌いじゃないのよ。他も柳志美と州伊君の紅州コンビとか、慧茄ちゃんとか実は凄い茗才とか……もっといっぱい。
(↑すでにアニメには出てこぬキャラがいるが)

アニメは物語の中腹……後半にかかると前で終わっている。籃州から帰るまでの話。
物語全体からすれば比較的穏やかな部分なのかもね。
あの後から、更に話は泥沼化し、関連する人々の関係性はラストまで目まぐるしく感情が幾重にも交差している。
しかも、明るいラストとは言いがたい物悲しい雰囲気ときたら……あれはあれでいいと思うんだけどね。
アニメ化しないのはわかるような気がする。原作通りのラストじゃアニメ映えしないし、他の明るいラストは描けなかったんだろうね。




うーん……漢字変換めんどい((T_T))
恐るべし………中華風ファンタジー
それはおいといて


アニメに関わらず、ドラマも然り。
原作とは違う結末だったりするのは仕方ない。大人の事情ってやつだから。


ひとまとめに書こうかともおもったけど書きたいことばかりでまとまらず……


そうだな
結末は一応納得。
八仙の一人(たぶん藍仙)が秀麗の短命さに触れてるけどそれはそれだからいいと言う、いたずらに彼女の寿命伸ばした所でこの話が円満におさまるものでないことはなんだか理解出来るのだよね。
短いけど価値のある中身。

そして……もうひとつの意外なオチ
いらない気もするけど、当人にとっては重要……か?
劉輝に関することなのだが……最後まで本人真実知らないからね。
悠舜に絳攸よどうせなら救えよって突っ込んだ(笑)
たぶん、そこは劉輝にとっても重要なターニングポイントな気がするけど……

話の続きみたい気もするものの、それは次元のずれた別の話になるのは必死。
私の頭の中で動く主人公も、本編の主人公の娘…本編のキャラではないしね(´-ω-`;)ゞ
……残念


途中何度か読むの投げたけど、おもしろかった。
しばらくこの世界観にいます^^
キャラに分けて思い残したいけど、残す自信はないな

明けましておめでとうございます♪

仕事混じりの正月であまり実感ないけど…

抱負はね


『当たり前のことを頑張る!』




(*´・ω・`)bよ



一年早いねぇ。