端緒 | 夢の浮橋~夢と現世の狭間~

夢の浮橋~夢と現世の狭間~

気の向くままに書いているので、時と共に、主に書いているテーマが変わります。

更新休止中。
小説はpixivにて一部更新しています。

https://www.pixiv.net/users/5742786

アメンバー記事だったものも一部ですがこちらには出ていますので、よかったら

別ログの転載。
随分前に書いた『一場の桜夢』の少し前の起点になる話です。
ブログの表示変わってるからどうかと思いこっちでも一個出してみた。
この話は完結しています。
続きはアメブロではなくpixiv内に全てあります。
pixivのページへは下記からご興味あるかたはそちらからお願いします。
(久しぶり過ぎてリンクの張り方忘れたのです😓)

これであっているのか謎だもの
(検索するとページには飛べるんだけど)















宿屋の二階の軒に座り、風間は煙管片手に通りを見下ろす。
祭りで人通りの多い通りをただ、無感情に見下ろす。風間の意識はどこか遠く、ここではない場所にあった。手にした煙管も、ただそこにあるだけで火は既になくなりかけていた。
「……………風間、聞いていますか?」
不意に、天霧の声に気づいて、風間は目を軽く伏せ、煙管を含み、静かに煙を吐き出す。風間はほとんど天霧の話を聞いていなくてとんと何の話だかとんと検討がつかなかった。
「………………………何の話だ?」
天霧はため息をついて、事態を少しかいつまんで再び口にした。要は、断ることの多い飲みの席に付き合えと言いたいらしい。風間はあからさまに嫌そうに、顔をしかめる。正直、風間は志士気取りの薩摩の人間と酒を酌み交わすのは、あまり好いてはいなかった。多少の護衛や密偵紛いの仕事は受けたが、酒宴は気が向かない時は断ることもあった。
「………くだらないな」
「また顔を出さない気ですか?」
風間は深いため息一つつくとまた露骨に顔をしかめる。
「出ないとは一言も言ってはいない。だが、池田屋の一件で、奴らも少々焦ったと見えるな」
口元に浮かぶ、冷たい笑み。池田屋と聞いて風間の頭の中に、ふと池田屋で会った女鬼の姿が浮かぶ。
「……………」
そう、風間に釘をさす天霧を風間は心ここに在らずといった視線を無言のまま向ける。
「行くところがあるので、私は出ます。風間、夕刻には戻りますので、くれぐれもここにお戻りいただきますよう」
天霧は、風間の言葉を待たず、姿を消した。
風間は、天霧の消えた方向を一瞥し、既にいない天霧に返事がわりに長いため息をついた。
何もする気がなくて手持ちぶさたさに階下の通りを眺めていた。
少し奥、あさぎ色の羽織が見え、彼らは近づいてくる町の人間はそれを見て、通りの脇に下がる。池田屋のあと、少しずつではあるが、新選組に対する評価は少々上がった印象はあるがまだまだ、新選組はよそ者扱いされている呈があるようだ。
部屋に感じる一つの気配、宿の中にいる浪士の状況を探っていた不知火が戻ってきたのだと風間は気づく。不知火は風間の隣に並び、階下を眺める。不知火の視線の先には槍を持つ最後尾の新選組の隊士だ。風間の知らない男だった。
「………あれ……あいつ」
「………なんだ?」
「池田屋で会った奴だ。人間にしては骨のある奴だったぜ」
「…………所詮は人間だ。関わるだけ無駄、だな」
暇潰しを見つけた子供のような、不知火の瞳に、風間はただ冷めた視線を投げただけだった。
「…………まぁ……そうなんだけどな。久しぶりに楽しく思ったのは確かだな。
………風間?………新選組っていうのは男所帯じゃあ、なかったのか?」
「……そう聞いていたが。どういう意味だ?」
不知火が原田と並んで歩く羽織を一人の中性的な一人の青年とおぼしき人間に視線を送る。
「あの青い羽織を着てない奴だ。どっかで見た気がするんだよなぁ………」
風間は視線の焦点をそこにあわせて、見覚えのある姿を見つけて、しばらく黙る。
(あの女鬼だ…………)
「風間………?おい、どうしたんだ?」
「………あれは」
「風間は知ってるのか?俺には、女に見えるんだよな?しかも、どっかで会った気がしてな」
「池田屋にいたな」
「……へぇ、で何者だ?」
「………………あの娘は鬼だ」
「は?………むすめ?」
「何を驚く。疑っていたんだろう」
風間は瞠目する不知火の反応が謎だった。
「………それはそうだが。本当に女………とは驚きだな」
「…………たぶん、な」
実際に確かめたわけではないためそれは風間の見た目による判断でしかない。
「風間、お前適当に言うなよ。鬼ってのも適当じゃあねぇよな」
「それは、確かだ。白銀の髪に金の瞳、あいつの頬は切れたはずだが、その場で治る奴だからな」
「……へぇ…………それはそれは」
何やら含み笑いの、不知火が風間には癪に触る。
「何がおかしい?」
「お前が、他人に興味持つなんて珍しいな。しかも、女に」
「………………」
話している間にもあの娘は近づいてきて、落ち着きなく辺りを見回す娘の瞳と、宿屋から階下を見下ろす風間の赤い瞳とが一瞬交差する。
それは、短くも、長い時間で、一瞬時が止まった錯覚に風間は陥る。鬼化した姿が、娘の姿とだぶり、冷徹と言われる風間のその鼓動が一瞬にして僅かだが乱れた。娘から、瞳を反らせなくて、思わず見つめてしまう。
風間は、はっ、と我に返り、ごまかすかのように、既に火のなくなった煙管を口にする。
だが、不知火の注意は風間にはなく、あの娘にあった。風間はそれに安堵した。
「…………なんであの娘には俺らが見えてるんだ?」
「なぜだろうな」
「お前、いつものように部屋の気を消してんたろう」
「ああ。そうだか」
風間は幼い頃の経験からか、人里に降りている際は目立たぬように人間とは一線を引く意味も込めて自身や部屋自体に結界を張ることが癖になっていた。今も、部屋全体に結界を張っていたから、本来であれば風間を見上げる者などいるずないと踏んでいた。それをあの娘は視線に気付き、風間を見つけてきた。
「………」
「…………ただ者ではないと、言うことなんだろうな」
ただ者じゃないと言われた娘は、どこか怯えたように挙動不審に辺りを見回したためか、隣の男にえらく心配されていた。
じっと、娘を眺めていた、不知火が謎が解けたのか声が上がる。
「……………あ……わかったぜ。あの娘、あいつに似てるんだ」
「思い出したか」
「お前も知っているはずだなんだけどな。
風間、南雲家を乗っ取り当主になった奴覚えてないか?南雲の当主をうまく懐柔してさ」
「南雲、だと?」
南雲家の事情は聞いていて、確か南雲の年若い当主に会ったこともあるはずなのだが、風間には顔の記憶がなかった。南雲の異能者は去年代替わりしたての齢六つの女鬼だ。能力は、稔動力。風間はその子どもの顔はかろうじて覚えてはいたのだが。
「そうだよ。あそこは直系の男の後継ぎがいないからな。南雲家は珍しい女鬼の家系だな」
「………南雲、薫だったか?」
「何でお前は名前が出て、顔出ないかねぇ」
「興味ないからな。名前さえわかっていれば支障はない」
「てめえ、それでも西の鬼の頭領かよ」
「不知火。欲しいなら頭領の地位、お前に今すぐにでもくれてやる」
不知火はあからさまに顔をしかめた。
「そんな重荷いらねぇよ。めんどくさいだけだ。てめえが持っとけよ」
「…………ふん。お前もいい身分だな」
南雲薫といえば、東の鬼雪村家の生き残りだ。顔を覚えていないだけで、風間は事情は把握していた。
風間は数年前から会っていない数少ない親友を思い浮かべる。
(雪村…………)
南雲薫の似た人物となると心当たりは一人しかいない。南雲薫は雪村家がなくなり、直系の男鬼のいない南雲家に養子に入った。もう一人いた妹の女鬼は綱道が引き取ったと聞く。似ているとすればあの娘は雪村の生き残りの片割れなのではないだろうか。
『生きてたら必ず会いに来る。もし帰らなかったら、残された二人の兄妹を見守っていてくれないか』
知己は、別れ際笑ってそう言った。風間の脳裏にはその笑顔が今も残る。
親友とした約束は、今まで守れないままだった。もうそれぞれの道を歩いている。親友がそこまでの責任を持つ必要がない気がして、敢えて探さなかった。南雲薫の居場所はわかっていたが、綱道が預かったという雪村千鶴の行方は全くわからなかったが、探さず今日に至る。
ところが、どうだ、偶然にも雪村の兄妹の片割れを見つけたかもしれない。ある意味それは風間には好機な気がしてきた。
「風間。……もう火ねぇじゃねぇか。お前らしくねぇ……」
今はうまく他人の言葉が入ってこない。風間は、気づくと何か考え混んでいる状態だった。
だがそれを他人に指摘されるのは風間は好きではない。
「…………………不知火、少しは黙ったらどうだ」
「へいへい」
わざとらしく、顔をしかめる不知火を睨むように一瞥したものの、風間の意識はまた思案の奥に落ちて行った。
あの娘と話がしてみたいと、風間は思った。