プロローグ
ラシェルが10歳になったある日それは突然にもたらされた。
10歳の子供が背負うには重い重い真実。
「ラシェル、あなたに大切な話があるの」と、いつにない真面目な顔で母親であるエマはラシェルを子供部屋から連れ出す。
行き先は、父のいる執務室。
ただならぬ雰囲気を、ラシェルは子供ながらに感じて、黙りこんでいた。
「ラシェル、今からする話は決して誰にも話してはいけないよ。」
ラシェルは父、ヨアンの瞳を真っ向から見返し無言のままうなずく。
「気づいてるかもしれないが、私とラシェルは血がつながっていないんだよ」
あまりにも衝撃過ぎて、ラシェルにはその辺の記憶は飛んでいた。ただ、その場に居たくなくて逃げたのだけは覚えている。どうやって、ヨアンと仲直りしたとか、細かい記憶はなかった。
何故、誰にも話してはいけないのかとか、言われた気がするのだが、わからなくなっていた。だけど他人にこの事実を話す気はさらさらなく、8年経った今でも誰にも話したことはない。話せば、今の生活が壊れる気がして、口には出したくなかった。
6年前に血の繋がった母を病気で亡くした後も、ヨアンの態度は変わらず、悪いことすれば当然怒るのだが、基本的には優しく見守っていてくれた。
血が繋がってなくても、父様は父様だと。いつからかそのことにきがついた。
ラシェルにとってはそれだけで充分だった。