ワインと酸素 その3 | ろくでなしチャンのブログ

ワインと酸素 その3

               ワインと酸素 その3

 

 

 お話を進めるにあたり、醸造行程は異なった表記がいくつかありますので補足説明として、

 

赤ワインの醸造行程

 

  収 穫矢印 除 梗 矢印 選 果 矢印 破 砕 矢印 発 酵 矢印 圧 搾 矢印 

  樽熟成矢印 滓引き 矢印 清 澄 矢印 濾 過 矢印 瓶 詰

 

● 除梗、選果、破砕に付いては一括記載のもの、選果を先に記述するも

 の、除梗・破砕を一括記載するもの等が見受けられます。

 

● 発酵については、アルコール発酵を発酵槽に於ける発酵と、圧搾後の 

 残糖分の発酵を「後発酵」として区分しているもの、マロラクテイック発酵 

 を含めて発酵とするもの、樽内マロラクテイック発酵の場合は樽熟成の一 

 部として表記するものもあるようです。区分に付いてはアルコール発酵を 

 第1次発酵、マロラクテイック発酵を第2次発酵としているものもあります。

 

● 滓引きに付いては、圧搾後のワイン貯蔵タンクに於ける滓(沈殿物)の

 分離作業として説明するもの、樽熟成中の滓引きについて説明するもの

 があるようです。おそらく樽熟成期間の短いものは前者の説明となり、樽

 熟成期間の長いものは後者の説明が的を得ているものと思われます。

 

 

樽熟成と酸素

 

 オーク材は、タンニンの含有量が多く、微生物等に強く、乾燥にも強く、液漏れしにくいといった特性からワイン用樽材として使われ続けています。

 オーク樽には微量の酸素が進入し、ワインの色素を安定させ、タンニンの苦みや渋みを和らげる作用に貢献します。結果としてバニラ等の香りやタンニンなどワインに複雑味を与えるとされています。

 

 理論的には、樽の中のタンニン同士がアセドアルデヒドを介して結びつき(重合)、タンニンは非常にまろやかとなり、滓にもなりにくく安定する。

 さらに色の元であるアントシアニンも同様にアセドアルデヒドを介して重合し、きれいな色が保てるとされています。

 しかし、酸素不足となるとタンニンとタンニンが直接結合して滓となる、又は、粗いタンニンになるとされています。

 

 樽に於ける空気(酸素約21%)の透過率については、厚さ3cm(樽材は長さ1m、幅10㎝、厚さ3㎝で作られる~完成された樽は厚さ14mm、輸送用24mmが一般的)のワイン樽で1㍑当たり年間2cc~5cc程度(2cc~4

ccの記述も)とされています。これが厚さ5cmの大樽となると殆ど空気を通さなくなるようです。

 熟成中のワインの変化につては、酸素が介在する酸化反応と酸素が介在しない反応の双方が起こるようであり、未解明な部分も多くあるようです。

 

 明確な資料を見付けられないのですが、どうやらボルドーのAOCを得るためには法定の樽熟成期間、(瓶)熟成期間が定められているようです。
 AOCにより、全てのワインを長期間樽熟成が必要なケースや、樽熟成期間が短い場合は全熟成期間の内一部分だけ樽熟成(残りはタンクで熟成)のケースがあるように思われます。

 これらの点から、醸造過程における樽熟成については、アルコール発酵、マセラシオン後直ちに樽でのマロラクティック発酵へと進む場合や、ステンレスタンクで熟成を行い、年明けに樽での熟成へと進む場合もあるようです。

 

 熟成期間中の樽の選択や樽熟成期間はシャトーにより異なりますが、力強いワイン(タンニンの抽出を高めにした。)を求めるシャトーでは、酸化熟成を長めに行う必要があるようです。

 なんとなく、ネット通販の宣伝文句に踊らされて、長期樽熟成100%、フランス産高級新樽100%使用のワインは高級ワインと思いがちですが、新樽の強い香りを嫌い、1年落ちの樽を使ったり、一部アメリカン・オークの樽を使っているシャトーもあり、樽の使用状況だけでワインをはかれるものではないようです。

 

 

ミクロ・オキシジェナション

 

 微量酸化技術と訳され、1990年代初頭から実用化された技術であり、醗酵中(発酵終了間際)、又は、貯蔵中の赤ワインにセラミック製筒を通して微量の酸素を吹き込み(微小な泡が生じる)、ポリフェノールの酸化、重合を促進する手法とされています。
 発酵中、ワインに酸素を泡で吹き込むニューマタージュと似ているのですが、ニューマタージュは
果帽を壊すほど強力ですが、ミクロ・オキシジェナションは微量の酸素をワインに吹き込みワイン中に酸素を溶け込ます技術(適度に酸素を加えながらバランスのとれたワインに仕上げる~酸化的熟成)ですので、タンクの上部まで泡が上がり破裂といったことはなく、完全に酸素がワインに溶け込むよう調整されるようです。

 

 元々は、高級ワイン用の技術ではなく、むしろ樽熟成に代わる技術として開発されたようです。樽熟成はゆったりとした酸化作用ですので、微量酸素を気泡によってワインに溶け込ませ、ゆったりとした酸化作用を目指した技術のようです。

 ミクロ・オキシジェナションは、口当たりが柔らかく、色を安定させ、まろやかなワインになると言われ、更にオーク・チップを漬け込んでオークの香りを付けたワインが多く造られているようです。

 

 ミクロ・オキシジェナションは、ピーマン香を和らげたり、粗いタンニンに丸みを持たせるとも言われるのですが、品種の個性が薄れるためメルローもカベルネも同じような味わいとなりアベラシオンの個性が失われるとも、長期熟成を目的とするワインには不適当との記述も見受けられるのですが、高級ワインの樽熟成中のワインにも数多く導入されおり、醗酵中あるいは貯蔵タンクへの酸素吹き込みをマクロ・オキシデーションと呼び、樽の中への酸素吹き込みをクリカージュ又はミクロ・オキシデーションと区別して呼ばれることもあるようです。

 ミクロ・オキシジェナシオンは樽中の澱を酸素の泡で循環させて、澱の有効成分をワインに溶けこませる技術ですので、スティラージュを行わずに使用される技術との記述も見られますが、スティラージュについて見てみましょう。

 

 

スティラージュ~soutirage

 

 英語ではラッキング、滓引き(おりびき)と訳されているようです。発酵が終わったワインはそれぞれ(品種毎、区画毎、フリーラン、プレスワイン毎に発酵された)ワイン樽に移し替えられますが、発酵が終ったばかりのワインは酵母の残骸(酵母の たんぱく質が分解して固まったもの)や酒石酸塩が浮遊し混濁しています。一週間位で大きな澱は沈殿しますので、別の樽に移し替えられます。その後3ケ月に1度位の割合でステイラージュを繰り返すようです。

 かのシュヴァル・ブランに於ける樽熟成期間は18ケ月で、3ケ月毎のステイラージュを5回行い、更にコラージュを行い、熟成18ケ月目に6回目の

ステイラージュを行っているようです。

 

 滓は、プレス・ワインよりも色は濃く、ドロドロとした感じですがドロのような重さまではないと言われます。新樽の注ぎ口辺りの3分の1程度がワイン色に染まっている樽の写真を目にしますが、ワインが吹きこぼれ雑菌が繁殖するのを抑えるため色付けしているのですが原料は滓と言われています。

 発酵終了後のワインをステンレスタンク等で熟成させる場合は、上澄みを別のタンクに移し、滓を取り除いているようですが、この作業もスティラージュであり、冬から春の間に数回繰り返し、濁のないワインを造り上げていくようです。

 

 近年はステイラージュと反するように、細かな滓に触れたまま熟成させる手法も採りいれられており、シャトー・キノ・ランクロでは8ケ月間は滓に触れたまま熟成され、滓との接触を増やすため樽の回転装置まであると言われ、同様の回転装置はシャトー・メイヌ・ブランでも使われているようです。
 

 

ウィヤージュ~Ouillage

 

 補填、補酒と訳されており、シャトー・オーブリオンにおいてアルノー3世・ド・ポンタックの時代に始められたとされていますので、ボルドーでは少なくとも同氏が承継した1649年以降からの作業になるのでしょう。

 新樽に入れられたワインは樽材に吸収され、蒸発し目減りすると言われます。新樽は3%から5%位が失われるとされ、1年落ちや2年落ちの場合は樽内側に酒石酸等がこびり付き蒸発量が減少(香味成分等の抽出も減少~使用後洗浄するものの)するようです。減少量は1%程度と言われますので、ウィスキーのエンジェル・シェアと同程度の数字となります。

 ワインが樽の中で目減りすると樽の中に空気が入り込むため、ワインを注ぎ足して満杯状態にし、酸素との接触を避ける手法です。

 ウィヤージュは樽にワインが入れられた最初の週は2回程度、その後毎週1回(2回のシャトーも)程度行われ、半年間位続けられると言われます。

 半年ほど経つと目減り量が減少するようで、水平に保たれていた樽を30℃位の傾斜を付けて保管するとされ、この保管方法をボンド・コテ~Bonde Cotesと呼ぶようです。おそらく滓を底部に集めるための作業と思われます。

 ところで、補填するワインはどうするのかとなると勿論、他の樽に入れられたワインですが、この補填用のワインはウィヤージュ出来ませんので減少する都度、より小さな樽に移し替えられ、酸素との接触を避けるそうです。

 

 

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