ワインと酸素 その2
ワインと酸素 その2
発酵後圧搾(プレシュラージュ~Pressurage)に於ける酸化
赤ワインの場合は葡萄の果皮や種子とともに発酵、マセラシオンが行われ、タンク下部に溜まった果皮や種等の固形物(マール)からもワインを絞ります。
一般的にヴァン・ド・グッド~Vin de goutte~又はフリーランと呼ばれるタンクから自然に流れ出すワインとヴァン・ド・プレスVin de press又はプレスワインと呼ばれる搾汁により得られるワインに大別されているようです。
タンクからフリーランを引き抜いた後もワインが流れ出しますが、直ぐに圧搾(あっさく)機に入れることはないようで、半日ほどかけて少しづつ流れ出るワインを集めます。このフリーラン引き抜き後に流れ出たワインはタンクドレインと呼ばれるようです。
さらに、圧搾機にマール(果皮や種等の沈殿物)を投入しますが、ここで流れ出るワインをプレスフリーランと呼んで区別する場合があるようです。
やがて圧搾作業に移るのですが、短時間、高圧力で絞り出すと主に種から苦みを伴うタンニンが抽出されるため、1時間から2時間かけてゆっくりと絞り出すようです。
これらの段階では発酵(少なくとも第1次発酵~アルコール発酵)、低温マセラシオンは完了しておりますのでワインと表記していますが、前記のように一定時間空気との接触があるため、酸化による変色の恐れがあります。
白ワインの場合は酸素に触れ褐色化することを特に避けたいところであり、低温で作業が行われるよう地下での作業であったり、ドライアイスによる冷却や炭酸ガスを利用して空気との接触をできるだけ避ける(圧搾されたワインの上から炭酸ガスを吹き付け、幕を作る。)手法も見受けられます。
ボルドーでの炭酸ガス利用の記述は見つけておりません(発酵前の段階ではシャトー・ラ・ヴィオレットやシャトー・ラスコンブがドライ・アイスを利用しているようです。)が、その内、炭酸ガス等が充満した空間で、酸素マスクをつけた圧搾作業が現出するのかも知れません(単なる空想)。
さて、圧縮機は時代とともに変化しているようです。昔はネジ式と呼ばれる圧縮機で人力をもって搾汁していたようであり、シャトーの展示コーナーによく飾られております。この方式は縦方向に圧力が加えられるため縦型、垂直式等と呼ばれます。
やがて、水圧(多分パスカルの原理)を利用した大型の搾汁機が現れ、圧搾時間を短縮することができるようになります。続いてバスラン型とかスクリュー式水平圧搾機と呼ばれる圧搾機が登場します。
バスラン型はドラム内部の両側から圧力が加えられ、斜めに角度をつけたステンレスの圧搾板がマールを押し、果汁は板に開けられた穴から下に流れます。
両側から挟みこんだ板が戻るときに鎖が伸びますので固まったマールが砕かれ取り除きやすくなるようです。
これら大型化した圧縮機は効率的ではあるものの、高圧力により水膨れし柔らかくなった種から苦みの強いタンニンが流出するという欠点が露呈します。
やがて、ブーハー型又はプヌマテイック式圧搾機~空気圧式膜圧搾機と呼ばれる円筒形の圧縮機が登場します。中にバルーンのように膨らむ装置があり、空気を膨らませることにより、マールが穴のあいた側板に押し付けられプレスワインが染み出る仕組みのようです。単純に加圧し続けると効率が悪いので円筒が回転し、マールが撹拌されるようです。フランスのウイルメス社の製品が有名です。ブーハー型の多くはコンピュータ管理で圧搾圧力の調整が可能です。
さらには、形状は昔ながらの垂直式ですがマールが特殊なディスクに挟まれ、マールの移動が少なく、滓が混じらない澄んだプレスワインが短時間(1回15分から25分)で得られる垂直式圧搾機が登場し、酸素との接触時間短縮に貢献しているようです。
マロラクティック発酵と酸素
葡萄は成熟により、糖、フェノール類、酸が生成されます。糖は発酵によりアルコールへ、フェノール類はマセラシオンやルモンタージュ等によりワインへの抽出が図られます。
残る酸は、酒石酸とリンゴ酸に分類されるようです。リンゴ酸は10℃以下では爽やかで美味しく感じますが、鋭角的(尖った酸味)な酸味があり、タンニンは低い温度では渋いだけと感じてしまう特性があります。
リンゴ酸とタンニンの相性は悪いと言われ、タンニンがリンゴ酸の酸味を強調してしまうようです。
そこで乳酸菌を加えて発酵(マロラクティック発酵~Fermentation Malo Lactique~フェルタシオン・マロ・ラクティック~第2次発酵とも~MLFとも)させると、リンゴ酸は乳酸と炭酸ガスに変換されるようです。
醸造所で赤ワインの樽からボコボコと凄い音が聞こえてくるビデオを見かけますが、樽内マロラクティック発酵の様子です。樽にガス抜きのガラス管(S字の)が付けられている場合もあります。
MLFとアルコール発酵を比較すると、MLFの場合は天然乳酸菌を用いることは殆どなく、発酵温度も低く、酸素を必要としないといった点が挙げられるでしょう。
乳酸菌は自然界にも多種多様あり、発酵に適した20℃から25℃で天然乳酸菌に任せると、異臭を放ったり混濁するという結果となる場合が多いようです。
そこで、10度から15℃位の低温(10℃を下回ると発酵しない)で発酵する培養酵母菌が使われるようです。また、酸素を必要としないため密閉式タンクでMLFを行う場合は、ワインの酸化防止のため炭酸ガスの注入も可能のようです。
MLFを行った場合、酸味はまろやかとなり(減酸)、香気成分が増すと言われ、独特のバターのような香りが生じるとされています。
酸素との関係については、MLFは嫌気性のため酸素は無用です。
しかし、酸化や腐敗が生じやすいワイン醸造工程は、
1.葡萄の破砕後、
2.MLF時(MLFを熟成期間として分類し、樽熟成中とする表記も)、
3.瓶詰時
とされています。単純に空気に触れることが多い行程です。
そこで、葡萄破砕後に酸化防止等対策として亜硫酸が添加されるのですが、亜硫酸濃度が高いとMLFは起こりません。ワイン醸造過程でも亜硫酸は自然に生成されるのですが、この程度の亜硫酸濃度では酸化防止効果が期待できないため、亜硫酸添加量の決定は難しいようです。
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