難病患者からのiPS細胞樹立 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

難病患者からのiPS細胞樹立

iPS細胞は再生医療への応用だけでなく、患者自身の細胞からiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞を体外で多量に増やし、特定の細胞へ分化誘導することで、従来は採取が困難であった組織の細胞を多量に得ることができることから、今まで治療法のなかった難病に対して、その病因・発症メカニズムを研究したり、患者自身の細胞を用いて、薬剤の効果・毒性を評価することに非常に有用であると考えられており、これらの病因解明・創薬への応用は、再生医療への応用よりも早くに実用化されるだろうと考えられています。

今回紹介するのは
ALS患者の細胞からiPS細胞作製、米大学チームが成功
難病患者からiPS細胞作製 米大チーム、病態解明に光
および
難病患者の細胞からiPS細胞、原因解明に期待…米研究チーム」
iPS細胞:10難病患者の細胞から作成…ハーバード大」
10種の遺伝疾患患者からiPS細胞 米大など
で紹介した、ハーバード大学のKevin EgganらのグループによるALS患者からのiPS細胞樹立に関する論文と、同じくハーバード大学のGeorge Q. Daleyらのグループによる10種類の難病患者からのiPS細胞樹立に関する論文です。

Science. 2008 Jul 31. [Epub ahead of print]
Induced Pluripotent Stem Cells Generated from Patients with ALS Can Be Differentiated into Motor Neurons.
Dimos JT, Rodolfa KT, Niakan KK, Weisenthal LM, Mitsumoto H, Chung W, Croft GF, Saphier G, Leibel R, Goland R, Wichterle H, Henderson CE, Eggan K.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18669821?ordinalpos=7&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum

Cell. 2008 Aug 6. [Epub ahead of print]
Disease-Specific Induced Pluripotent Stem Cells.
Park IH, Arora N, Huo H, Maherali N, Ahfeldt T, Shimamura A, Lensch MW, Cowan C, Hochedlinger K, Daley GQ.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18691744?ordinalpos=7&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum

Egganらは、まず、家族性ALS(amyotrophic lateral sclerosis、筋萎縮性側索硬化症)の原因遺伝子の一つであるSOD1に関して、優性変異をヘテロで持つ82歳と89歳の女性姉妹(患者A29, 患者A30)に注目しました。
患者A29は明らかなALSの症状が見られましたが、患者A30は兆候があるものの臨床的には無症候性であり、彼女らはSOD1に変異を持つ患者の中で最高齢でした。
バイオプシーで採取した初代培養皮膚細胞に、VSVgでシュードタイピングしたレトロウイルスを用いてOCT4, SOX2, KLF4, c-MYCの4遺伝子を導入(72時間以上、2回)し、4日間通常培地で培養した後、フィーダー細胞上にまきなおし、ES細胞培地で培養しました。
従来の報告のように、1週間以内にES細胞様の形態ではない粒々のコロニーが数百現れ、2週間後、ES細胞様のコロニーが少数現れました。
これらのすべてをピックアップし(患者A29から12個、患者A30から3個)、それぞれ7個、1個の細胞株を樹立しました。
以後、患者A由来のラインA29a, A29b, A29cについて詳しく解析しています。
これらはDNAフィンガープリンティング、多型解析により確かに患者A由来であることが確認され、正常核型であり、ES細胞様の増殖能、ES細胞マーカーの発現(アルカリフォスファターゼ(AP), SSEA-3, SSEA-4, TRA1-60, TRA1-81, NANOG, REX1/ZFP42, FOXD3, TERT, NANOG, CRIPTO/TDGF1, SOX2, OCT4)が確認されました。
導入遺伝子由来のSOX2, KLF4はほぼ完全にサイレンシングされていましたが、OCT4, c-MYCは少しの発現が見られました。
また、胚様体形成により三胚葉分化能を持つことが確認されました。
ALSは、細胞自律性、非細胞自律性の両因子が病気の進行に寄与しており、グリア細胞が運動ニューロンに毒性のある因子を産生することもあることが示されており、そのメカニズムの解明のためには、運動ニューロンとグリア細胞の両方を作製する必要があります。
そこで、マウスやヒトのES細胞を用いて開発された手法を用いて、これらの分化誘導を行い、樹立したiPS細胞からの脊髄運動ニューロンとグリア細胞の作製に成功しました。
これにより、例え高齢の患者であっても、患者特異的多能性幹細胞を作製でき、患者と同じ遺伝子型を持つ分化細胞を無限に供給できうることが示されました。
この論文では家族性のALSに着目していますが、ALSの90%を占める弧発性ALSに関しても、その個々の患者から患者特異的iPS細胞を樹立し、個々の病状と関連する遺伝情報を収集・解析することで、メカニズムの解明に貢献できるのではとディスカッションしています。

Daleyらは、アデノシンデアミナーゼ欠損による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)、Shwachman-Bodian-Diamond症候群(SBDS)、3型ゴーシェ病(GD)、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、若年性1型糖尿病(JDM)、ダウン症/21番染色体トリソミー(DS)、レッシュ・ナイハン症候群(キャリアの状態)(LNSc)の10種類の難病患者からのiPS細胞樹立を試みました。
SBDSの患者は骨髄間葉系細胞、それ以外の患者は皮膚線維芽細胞に、OCT4, SOX2, KLF4, c-MYCの4遺伝子もしくはc-MYCを除いた3遺伝子を導入しました。
この際、LNSc以外はVSVgでシュードタイピングしたレトロウイルスを用い、LNScに関してはリバーステトラサイクリントランスアクチベーターを恒常的に発現するレンチウイルスとともにOCT4, SOX2, KLF4, c-MYCにNANOGを加えた5遺伝子をドキシサイクリン誘導レンチウイルスベクターで導入して30日間ドキシサイクリンを添加しています。
ヒトES細胞培養のコンディションで2~3週間後にES細胞様のコロニーが現れ始めました。
次に、これらのコロニーからiPS細胞を樹立し、それぞれの特徴を確認しています。
DSは核型解析により21番染色体のトリソミーを確認、ADA-SCID, SBDS, GDはそれぞれの原因遺伝子の配列解析により点変異を確認、LNScはHPRT欠損がヘテロであることを確認、DMDはMultiplex PCRによりdystrophin遺伝子中のエキソン欠損を確認(BMDでは確認できず)、HDはhuntingtin遺伝子中の(CAG)nを確認しています。
樹立したiPS細胞は、すべてES細胞様の形態を示し、多能性細胞マーカー(AP, Tra-1-81, Tra-1-60, OCT4, NANOG, SSEA3, SSEA4, OCT4, SOX2, NANOG, REX1, GDF3, hTERT)を発現しており、導入遺伝子のサイレンシングも大部分で見られました。
また、DNAフィンガープリンティングによりそれぞれの由来を確認し、核型解析により核型も正常であることを確認しました。
最後に、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を確認しています。




iPS細胞の病因解明・創薬への応用は、近い将来の実用化が期待される非常に重要なテーマですので、同様の研究が今後も続々と続くと思われます。
日本はこの分野で遅れをとっていますが、今後の巻き返しに期待しましょう。




(12月30日追加)
続いて、「脊髄性筋萎縮症男児からiPS=運動神経細胞死を再現-米大学」および「万能細胞で病気再現に初成功 新薬開発などに期待」で紹介したように、ウィスコンシン大学のJames A. Thomsonらのグループによって、遺伝性の重症型脊髄性筋萎縮症(SMA)の男児の皮膚からiPS細胞を作製し、運動神経に分化させた後に培養を続け、その細胞死を再現したという報告がなされました。

Nature 457, 277-280 (15 January 2009)
Induced pluripotent stem cells from a spinal muscular atrophy patient
Allison D. Ebert, Junying Yu, Ferrill F. Rose, Jr, Virginia B. Mattis, Christian L. Lorson, James A. Thomson & Clive N. Svendsen
http://www.nature.com/nature/journal/v457/n7227/full/nature07677.html

iPS細胞を用いて難病の病態の一部を体外で再現した初めての例であり、iPS細胞の病因解明・創薬への応用に向けた大きな一歩と言えます。




(09年3月7日追加)
ポリシストロニックレンチウイルスとCre/loxPシステムを組み合わせたiPS細胞の樹立法」で紹介したような手法(今回はポリシストロニックベクターは使っていません。今回用いたような系だとウイルスの挿入数が少なくて済むので、別々に入れてもなんとかなるみたいです。)を用い、パーキンソン病の患者さんから、導入リプログラミング因子挿入のないiPS細胞を作製したという論文が、マサチューセッツ工科大学(MIT)のRudolf Jaenischらのグループにより報告されました。

Cell, Volume 136, Issue 5, 964-977, 6 March 2009
Parkinson's Disease Patient-Derived Induced Pluripotent Stem Cells Free of Viral Reprogramming Factors
Frank Soldner, Dirk Hockemeyer, Caroline Beard, Qing Gao, George W. Bell, Elizabeth G. Cook, Gunnar Hargus, Alexandra Blak, Oliver Cooper, Maisam Mitalipova, Ole Isacson, Rudolf Jaenisch
http://www.cell.com/abstract/S0092-8674(09)00151-2

パーキンソン病は、遺伝的要因が分かっているものもありますが、大部分が弧発性であり、遺伝的な要因と環境要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
パーキンソン病の病態の解明が進んでいない主な要因の一つは、ヒトの病気の特徴の全てを再現できるような信頼し得る実験モデルが欠如していることと言え、患者さん由来のiPS細胞を樹立してドーパミン産生ニューロンに分化させ、病態を再現することができれば大きな進展が期待できます。
しかし、従来のウイルスベクターを用いた手法で作製されたiPS細胞は、染色体に外来遺伝子が挿入されており、それ由来の遺伝子発現により、ES細胞とは違った挙動を示してしまい、病態の再現に影響を及ぼす可能性も考えられます。
よって、より正確に病態を再現するためには、外来遺伝子の挿入がないiPS細胞を作製することが必要になるのです。

Jaenischらはまず、原因不明の弧発性パーキンソン病の5人の患者さんおよび異なる病気の2人の患者さん由来の皮膚線維芽細胞に、ドキシサイクリン誘導レンチウイルスベクターを用いてOCT4, SOX2, KLF4, c-MYCの4遺伝子もしくはc-MYCを除いた3遺伝子を導入し、それぞれiPS細胞を樹立しました。
作製したiPS細胞はすべて、Tra-1-60, SSEA4, OCT4, SOX2, NANOGタンパクおよびヒトES細胞と同レベルの内因性OCT4, SOX2, NANOGの発現、OCT4プロモーター領域の脱メチル化、テラトーマ形成により三胚葉分化能を確認しています。
また、サザンブロッティングによりトータル3~10コピーのウイルス挿入が見られることも確認しました。
なかでも、3遺伝子を用いた場合だと、13ラインのうち8ラインでトータル3~5コピーのみしかウイルス挿入が見られないことが分かりました。
また、d20におけるTra-1-60およびNANOGポジティブな細胞数を計測することにより、リプログラミング効率を調べたところ、3遺伝子を用いた場合は約0.005%、4遺伝子を用いた場合は約0.01%であり、d24におけるヒトiPS細胞コロニーの出現に必要な外来遺伝子の発現誘導時間を調べたところ、3遺伝子の場合は最低12日間、4遺伝子の場合は最低8日間必要なことが分かりました。

次に、胚様体形成後、fibronectinを含むITS培地で神経前駆細胞を選択し、FGF2, FGF8, SHH存在下で培養する手法を用いて、作製したiPS細胞およびES細胞からドーパミン産生ニューロンを分化誘導したところ、パーキンソン病の患者さん由来であるかどうかに関係なく、分化誘導できることが分かりました。
また、MS5間質細胞とNogginとの組み合わせによる手法を用いても、同様の結果が得られることも確認しました。

次に、3’LTRにloxP配列を持つレンチウイルスベクターに、上記のベクターのプロモーターとOCT4, KLF4, SOX2をそれぞれサブクロしたベクターを用いてiPS細胞の樹立を行いました。
このベクターを用いても、上記の実験と似た機序・効率でiPS細胞を樹立でき、サザンブロッティングの結果、12ラインのiPS細胞のうち、4ラインで5~7コピーのみのウイルス挿入しか持たないことが分かりました。
これらのiPS細胞は、それぞれTra-1-60, SSEA4, OCT4, SOX2, NANOGタンパクおよび内因性OCT4, SOX2, NANOGが再発現しており、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが確認されました。
ここで、5コピーを持つライン(PDB 2lox -21)と7コピーを持つライン(PDB 2lox -17)の2つのラインに焦点を絞り、①Creとpuromycin耐性遺伝子をコードする発現ベクター(pCre-PAC)をエレクトロポーレーションによりトランスフェクションし、puromycinで48時間選抜をかける、②CreとEGFPの発現ベクターをコトランスフェクションし、60時間後にFACSによりEGFPポジティブ細胞を選抜する、という2種類の方法を用いて、Creの一時的発現処理を行いました。
すると、トータル180クローンのうち、48クローンがKLF4の挿入が見られず、そのうち、PDB 2lox -21由来の7クローン、PDB 2lox -17由来の9クローンにおいて、すべてのリプログラミング因子の挿入が見られませんでした。

Cre処理後のリプログラミング因子が除去されたiPS細胞は、正常核型を示し、ヒトES細胞様の形態を保ったまま15回以上継代でき、Tra-1-60, SSEA4, OCT4, SOX2, NANOGタンパクおよびヒトES細胞やCre処理前のヒトiPS細胞と同レベルの内因性OCT4, SOX2, NANOGを再発現しており、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つことが確認されました
また、上記の胚様体形成を介した手法によりドーパミン産生ニューロンへの分化能も確認されました。

最後に、Cre処理前のウイルス挿入のあるiPS細胞とCre処理後のリプログラミング因子が除去されたiPS細胞の遺伝子発現をES細胞と比べました。
まず、Cre処理前は、すべてのラインにおいて導入遺伝子発現の残存が見られたのに対し、Cre処理後では見られなくなることを確認しました。
次に、ゲノムワイドな遺伝子発現を調べたところ、iPS細胞の遺伝子発現は、線維芽細胞と比べると、Cre処理前後に関わらず、ES細胞に類似しているが、Cre処理前後で比べると、Cre処理後の方がES細胞により近くなるということが分かりました。
また、ウイルス挿入のあるiPS細胞では271個の遺伝子がES細胞と有意に異なる発現を示すのに対し、リプログラミング因子を除去したiPS細胞では48個しか有意差を示さないことも示しました。




Cre処理後のiPS細胞でも少数の遺伝子においてES細胞との発現差が見られたことに関しては、それらの遺伝的バックグラウンドの違いによるものか、トランスアクチベーターの発現によるものか(ややこしくなるので本文では省略しましたが、一緒に導入しているrtTAのウイルス挿入の除去については、この論文では行っていません。)、由来となった体細胞の遺伝的メモリーによるものではないかと考察していますが、ここらへんが一番おもしろいところだと思います。
c-Mycも使うともっと良くなるのかとか、何を指標にいいラインと悪いラインを区別すればいいのかとか。




(09年6月1日追加)
遺伝子治療を加えたファンコニー貧血の患者さんの細胞からiPS細胞を作製し、造血前駆細胞を分化誘導したという論文が、ソーク研究所のJuan Carlos Izpisúa Belmonteらのグループにより報告されました。

Nature advance online publication 31 May 2009
Disease-corrected haematopoietic progenitors from Fanconi anaemia induced pluripotent stem cells
Ángel Raya, Ignasi Rodríguez-Pizà, Guillermo Guenechea, Rita Vassena, Susana Navarro, María José Barrero, Antonella Consiglio, Maria Castellà, Paula Río, Eduard Sleep, Federico González, Gustavo Tiscornia, Elena Garreta, Trond Aasen, Anna Veiga, Inder M. Verma, Jordi Surrallés, Juan Bueren & Juan Carlos Izpisúa Belmonte
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08129.html

ファンコニー貧血患者由来iPS細胞からの遺伝子治療した造血前駆細胞」および
将来の再生医療-遺伝子治療との融合-」をご参照下さい。




(09年6月7日追加)
カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のYuet Wai Kanらのグループにより、β-サラセミア患者由来の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、造血系細胞へ分化誘導させたのに加え、出生前診断を遺伝病治療に応用できるよう、羊水検査や絨毛検査で得られた細胞からiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 May 29. [Epub ahead of print]
Induced pluripotent stem cells offer new approach to therapy in thalassemia and sickle cell anemia and option in prenatal diagnosis in genetic diseases.
Ye L, Chang JC, Lin C, Sun X, Yu J, Kan YW.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19482945?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

サラセミアおよび鎌状赤血球貧血治療や遺伝病の出生前診断へのiPS細胞の応用」をご参照下さい。





(09年8月24日追加)
中国国立生物科学研究所(NIBS)のShaorong Gaoらのグループによって、β-サラセミアの患者さん由来の細胞からiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

Cell Res. 2009 Aug 18. [Epub ahead of print]
Generation of induced pluripotent stem cells from human beta-thalassemia fibroblast cells.
Wang Y, Jiang Y, Liu S, Sun X, Gao S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19690515?ordinalpos=8&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

β-サラセミアのヒト線維芽細胞からのiPS細胞の樹立」をご参照下さい。




(09年8月24日追加)

スローンケタリング研究所のLorenz Studerらのグループによって、家族性自律神経失調症(Familial dysautonomia, FD)の患者さん由来の細胞からiPS細胞を樹立し、それから末梢神経を含む様々な組織を分化誘導し、IKBKAP遺伝子の組織特異的なミススプライシングを再現し、神経堤前駆細胞での正常IKBKAP転写産物の著しい減少および神経分化と遊走行動の異常を示した上、異常なスプライシングを直し、神経分化と遊走を回復させる候補薬剤をスクリーニングしたという論文が発表されました。

Nature. 2009 Aug 19. [Epub ahead of print]
Modelling pathogenesis and treatment of familial dysautonomia using patient-specific iPSCs.
Lee G, Papapetrou EP, Kim H, Chambers SM, Tomishima MJ, Fasano CA, Ganat YM, Menon J, Shimizu F, Viale A, Tabar V, Sadelain M, Studer L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19693009?ordinalpos=7&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

患者特異的iPS細胞を用いた家族性自律神経失調症の病変形成モデリングと治療」をご参照下さい。




(09年9月4日追加)
ハーバード大学のDouglas A. Meltonらのグループによって、1型糖尿病の患者さん由来の細胞からiPS細胞を樹立し、それからインスリンを分泌するβ細胞を分化誘導したという論文が発表されました。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Aug 31. [Epub ahead of print]
Generation of pluripotent stem cells from patients with type 1 diabetes.
Maehr R, Chen S, Snitow M, Ludwig T, Yagasaki L, Goland R, Leibel RL, Melton DA.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19720998?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

1型糖尿病患者からのiPS細胞樹立」をご参照下さい。




(09年10月5日追加)
ジョンズ・ホプキンス大学のLinzhao Chengらのグループにより、健康なドナーの凍結臍帯血および成人CD34陽性細胞からiPS細胞を樹立した後、再度造血系に分化させ、また、JAK2-V617F体細胞変異を持つ骨髄増殖性疾患患者の末梢血由来CD34陽性細胞からもiPS細胞を樹立し、造血系に分化させて、CD34陽性CD45陽性の造血前駆細胞において赤血球新生が増加すること、特定遺伝子が発現することを確認し、病態を再現したという論文が発表されました。

Blood. 2009 Oct 1. [Epub ahead of print]
Human induced pluripotent stem cells from blood cells of healthy donors and patients with acquired blood disorders.
Ye Z, Zhan H, Mali P, Dowey S, Williams DM, Jang YY, Dang CV, Spivak JL, Moliterno AR, Cheng L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19797525?ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum

健康なドナーおよび血液疾患患者の血液細胞からのヒトiPS細胞樹立 」をご参照下さい。




(09年12月12日追加)
鳥取大学の押村光雄先生らのグループにより、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)モデルマウス(mdxマウス)由来のiPS細胞に、ヒト人工染色体(HAC)を用いてジストロフィン遺伝子を導入して遺伝子治療、もしくはDMDの患者さん由来の細胞に、先にHACを用いてジストロフィン遺伝子を導入して遺伝子治療してから正常なiPS細胞を樹立し、それら由来のテラトーマ中の筋肉様組織においてヒトジストロフィンの発現を確認、また、mdx由来iPS細胞に関してはキメラの全身への寄与および組織特異的なジストロフィンの発現も確認したという論文が発表されました。

Mol Ther. 2009 Dec 8. [Epub ahead of print]
Complete Genetic Correction of iPS Cells From Duchenne Muscular Dystrophy.
Kazuki Y, Hiratsuka M, Takiguchi M, Osaki M, Kajitani N, Hoshiya H, Hiramatsu K, Yoshino T, Kazuki K, Ishihara C, Takehara S, Higaki K, Nakagawa M, Takahashi K, Yamanaka S, Oshimura M.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19997091?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=3

デュシェンヌ型筋ジストロフィー由来iPS細胞の完全な遺伝子治療」をご参照下さい。




(10年2月18日追加)
ハーバード大学のGeorge Q. Daleyらのグループにより、先天性角化異常症の患者さん由来のiPS細胞において遺伝子異常がある状態でもテロメア伸張が起こることを示した論文が発表されました。

Nature advance online publication 17 February 2010
Telomere elongation in induced pluripotent stem cells from dyskeratosis congenita patients
Suneet Agarwal, Yuin-Han Loh, Erin M. McLoughlin, Junjiu Huang, In-Hyun Park, Justine D. Miller, Hongguang Huo, Maja Okuka, Rosana Maria dos Reis, Sabine Loewer, Huck-Hui Ng, David L. Keefe, Frederick D. Goldman, Aloysius J. Klingelhutz, Lin Liu & George Q. Daley
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08792.html

先天性角化異常症患者由来のiPS細胞におけるテロメア伸張」をご参照下さい。




(10年6月26日追加)
マウントサイナイ医科大学のIhor R. Lemischka、Xonia Carvajal-Vergaraらのグループにより、レオパード症候群の患者さんからiPS細胞を樹立し、心筋に分化誘導して病態を再現したという論文が発表されました。

Nature. 2010 Jun 10;465(7299):808-12.
Patient-specific induced pluripotent stem-cell-derived models of LEOPARD syndrome.
Carvajal-Vergara X, Sevilla A, D'Souza SL, Ang YS, Schaniel C, Lee DF, Yang L, Kaplan AD, Adler ED, Rozov R, Ge Y, Cohen N, Edelmann LJ, Chang B, Waghray A, Su J, Pardo S, Lichtenbelt KD, Tartaglia M, Gelb BD, Lemischka IR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20535210?dopt=Abstract

患者特異的iPS細胞由来のレオパード症候群モデル」をご参照下さい。




(10年8月19日追加)
ミュンヘン工科大学のKarl-Ludwig Laugwitzらのグループにより、1型QT延長症候群の患者さんの細胞から患者特異的iPS細胞モデルを作製したという論文が発表されました。

N Engl J Med. 2010 Jul 21. [Epub ahead of print]
Patient-Specific Induced Pluripotent Stem-Cell Models for Long-QT Syndrome.
Moretti A, Bellin M, Welling A, Jung CB, Lam JT, Bott-Flügel L, Dorn T, Goedel A, Höhnke C, Hofmann F, Seyfarth M, Sinnecker D, Schömig A, Laugwitz KL.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20660394?dopt=Abstract

QT延長症候群のための患者特異的iPS細胞モデル」をご参照下さい。




(10年9月24日追加)
ボストン大学のDarrell N. Kotton、Gustavo Mostoslavskyらのグループにより、STEM-Cell CAssette(STEMCCA)を持ちCre/loxPシステムで除去可能な単一レンチウイルスベクター(「単一ベクターによるiPS細胞樹立
」をご参照下さい。)を用いて、嚢胞性線維症、α1-アンチトリプシン欠損症関連気腫、強皮症、鎌状赤血球症を含む肺の上皮、内皮、間質区画に影響する様々な疾患を持つ個人から100以上の肺疾患特異的iPS細胞株を樹立し、さらに、それらのヒトiPS細胞を胚体内胚葉、肺上皮の発生学的前駆組織にin vitroで分化誘導したという論文が発表されました。

Stem Cells. 2010 Aug 16. [Epub ahead of print]
Generation of Transgene-Free Lung Disease-Specific Human iPS Cells Using a Single Excisable Lentiviral Stem Cell Cassette.
Somers A, Jean JC, Sommer CA, Omari A, Ford CC, Mills JA, Ying L, Sommer AG, Jean JM, Smith BW, Lafyatis RA, Demierre MF, Weiss DJ, French DL, Gadue P, Murphy GJ, Mostoslavsky G, Kotton DN.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20715179?dopt=Abstract

単一の除去可能なレンチウイルス幹細胞カセットを用いた導入因子なしの肺疾患特異的ヒトiPS細胞樹立」をご参照下さい。




(10年10月5日追加)
ケンブリッジ大学のLudovic Vallier、S. Tamir Rashidらのグループにより、様々な遺伝性肝臓代謝疾患を持つ患者さんからヒトiPS細胞を樹立し、肝細胞へと分化誘導し、病態を再現したという論文が発表されました。

J Clin Invest. 2010 Sep 1;120(9):3127-36. doi: 10.1172/JCI43122. Epub 2010 Aug 25.
Modeling inherited metabolic disorders of the liver using human induced pluripotent stem cells.
Rashid ST, Corbineau S, Hannan N, Marciniak SJ, Miranda E, Alexander G, Huang-Doran I, Griffin J, Ahrlund-Richter L, Skepper J, Semple R, Weber A, Lomas DA, Vallier L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20739751?dopt=Abstract

ヒトiPS細胞を用いた遺伝性肝臓代謝疾患のモデリング」をご参照下さい。




また、ハーバード大学のOle Isacsona、マサチューセッツ工科大学(MIT)のRudolf Jaenischらのグループにより、パーキンソン病患者由来iPS細胞から分化させたドーパミン産生ニューロンがパーキンソン病モデルラットの脳で成長し、運動非対称性を軽減することを示した論文が発表されました。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 7;107(36):15921-6. Epub 2010 Aug 23.
Differentiated Parkinson patient-derived induced pluripotent stem cells grow in the adult rodent brain and reduce motor asymmetry in Parkinsonian rats.
Hargus G, Cooper O, Deleidi M, Levy A, Lee K, Marlow E, Yow A, Soldner F, Hockemeyer D, Hallett PJ, Osborn T, Jaenisch R, Isacson O.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20798034?dopt=Abstract

分化したパーキンソン病患者由来iPS細胞がパーキンソン病ラットの脳で成長し運動非対称性を軽減する」をご参照下さい。




(10年11月1日追加)
Royan institute for Stem Cell Biology and TechnologyのHossein Baharvandらのグループにより、チロシン血症、糖原病、進行性家族性遺伝性胆汁うっ滞、クリグラー・ナジャー症候群の患者さんから肝臓疾患特異的なヒトiPS細胞を血清・フィーダーフリーで樹立し、機能的な肝細胞様細胞へ効率的に分化させたという論文が発表されました。

Stem Cell Rev. 2010 Dec;6(4):622-32.
Generation of liver disease-specific induced pluripotent stem cells along with efficient differentiation to functional hepatocyte-like cells.
Ghodsizadeh A, Taei A, Totonchi M, Seifinejad A, Gourabi H, Pournasr B, Aghdami N, Malekzadeh R, Almadani N, Salekdeh GH, Baharvand H.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20821352?dopt=Abstract

肝臓疾患特異的iPS細胞の作製および機能的な肝細胞様細胞への効率的分化」をご参照下さい。




(10年11月8日追加)
コネチカット大学のStormy J. Chamberlain、Marc Lalandeらのグループにより、ゲノムインプリンティング疾患であるアンジェルマン症候群(AS)、プラダーウィリー症候群(PWS)の患者さんからiPS細胞モデルを作製し、それらではcis-acting PSW imprinting centerにおけるDNAメチル化インプリントの消去が見られないこと、AS iPS細胞の神経分化間において、正常脳と同様、UBE3Aのインプリンティングが確立し、UBE3Aアンチセンス転写産物の発現上昇と同時に父方のUBE3Aアレルが抑制されることを示したという論文が発表されました。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Oct 12;107(41):17668-73. Epub 2010 Sep 27.
Induced pluripotent stem cell models of the genomic imprinting disorders Angelman and Prader-Willi syndromes.
Chamberlain SJ, Chen PF, Ng KY, Bourgois-Rocha F, Lemtiri-Chlieh F, Levine ES, Lalande M.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20876107?dopt=Abstract

ゲノムインプリンティング疾患であるアンジェルマン症候群、プラダーウィリー症候群のiPS細胞モデル」をご参照下さい。




(10年12月22日追加)
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のAlysson R. Muotriらのグループにより、自閉症スペクトラム障害(ASD)の遺伝的モデルとして、レット症候群の患者さん由来の線維芽細胞からヒトiPS細胞を作製、神経に分化させ、少ないシナプスしか持たないこと、脊椎密度が減少を示すこと、小さい細胞体サイズを示すこと、カルシウムシグナリングが変化すること、電気生理学的異常を示すことを確認し、さらに、シナプス欠損をレスキューする薬剤の効果を調べた論文が発表されました。

Cell. 2010 Nov 12;143(4):527-39.
A model for neural development and treatment of rett syndrome using human induced pluripotent stem cells.
Marchetto MC, Carromeu C, Acab A, Yu D, Yeo GW, Mu Y, Chen G, Gage FH, Muotri AR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21074045?dopt=Abstract

ヒトiPS細胞を用いた神経発生のモデルとレット症候群の治療」をご参照下さい。




(11年1月17日追加)
ミネソタ大学のJakub Tolarらのグループにより、劣性栄養障害性表皮水泡症の患者さんからiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

J Invest Dermatol. 2010 Dec 2. [Epub ahead of print]
Induced Pluripotent Stem Cells from Individuals with Recessive Dystrophic Epidermolysis Bullosa.
Tolar J, Xia L, Riddle MJ, Lees CJ, Eide CR, McElmurry RT, Titeux M, Osborn MJ, Lund TC, Hovnanian A, Wagner JE, Blazar BR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21124339?dopt=Abstract

劣性栄養障害性表皮水泡症の個人からのiPS細胞樹立」をご参照下さい。




(11年5月9日追加)
QT延長症候群のための患者特異的iPS細胞モデル」に続き、テクニオン-イスラエル工科大学のLior Gepsteinらのグループによっても、QT延長症候群の患者さん特異的なヒトiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。

Nature. 2011 Mar 10;471(7337):225-9. Epub 2011 Jan 16.
Modelling the long QT syndrome with induced pluripotent stem cells.
Itzhaki I, Maizels L, Huber I, Zwi-Dantsis L, Caspi O, Winterstern A, Feldman O, Gepstein A, Arbel G, Hammerman H, Boulos M, Gepstein L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21240260

iPS細胞を用いたQT延長症候群のモデリング」をご参照下さい。