第二世代マウスiPS細胞 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

第二世代マウスiPS細胞

今回は第二世代のマウスiPS細胞に関する説明です。


最初のiPS細胞の報告では、DNAメチル化やグローバルな遺伝子発現など、ES細胞とは異なる部分がありました。

第二世代のiPS細胞の一連の報告では、これらすべてが克服され、ほぼ完全にES細胞と同じと言っても過言ではないiPS細胞が作製されました。


方法を簡単に説明すると、以前は、Fbx15をレポーター遺伝子として用いていたのを、NanogもしくはOct3/4に変えただけです。


京都大学の山中伸弥教授らのグループは、Nanog-GFP-IRES-Puro r トランスジェニックマウスを作製し、このマウスの体細胞に、第1報と同様に、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4遺伝子をレトロウイルスによって導入して培養し、ピューロマイシン耐性を獲得した細胞を選抜するという手法を用いています。


Nature. 2007 Jul 19;448(7151):313-7
Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.
Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17554338?ordinalpos=23&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum


この手法によって作製されたiPS細胞は、ES細胞と同様の増殖能・遺伝子発現・DNAメチル化を示しました。また、第一世代iPS細胞に比べて、導入遺伝子のサイレンシングが進んでおり、テラトーマ形成の結果、三胚葉への分化が確認されたのみならず、キメラ形成実験において、生殖系列を含む全身にiPS細胞が寄与しているキメラが産まれることも分かりました。

しかし、このキメラマウスの子孫のうち20%は、成長すると甲状腺ガンが発生することが分かり、それらのガンでは、導入したc-Mycが再発現していることも示されました。


マサチューセッツ工科大学(MIT)のRudolf Jaenischらのグループでは、Oct3/4もしくはNanogの遺伝子領域に相同組換えによってGFPと薬剤耐性遺伝子を導入したノックインマウスを作製し、そのマウスの体細胞から、同様の手法でiPS細胞を樹立しています。


Nature. 2007 Jul 19;448(7151):318-24
In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state.
Wernig M, Meissner A, Foreman R, Brambrink T, Ku M, Hochedlinger K, Bernstein BE, Jaenisch R.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17554336?ordinalpos=13&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum


Jaenischらは、作製したiPS細胞が、増殖能・遺伝子発現・DNAメチル化に加え、インプリンティング遺伝子におけるメチル化パターン、ヒストンの修飾(H3K4とH3K27に同時にメチル化が入っている遺伝子が多数存在)、グローバルな低メチル化に対する耐性などといった点でもES細胞と類似した性質を持っていることも示しました。

また、導入遺伝子のサイレンシングは徐々に進むことも示し、作製されたiPS細胞は、生殖系列キメラを作製できるのみならず、テトラプロイドキメラの胎仔も形成できることを示しました。

※テトラプロイドキメラとは、簡単に言うとES細胞からクローンを作製する方法です。テトラプロイド、つまり、四倍体の胚は、胚体には寄与できないが、胎盤などの胚体外には寄与できるという性質があり、テトラプロイドの胚とES細胞で、キメラを作製することにより、100%ES細胞由来の胎仔が作製できるという手法です。ES細胞の分化能を評価するにあたって、最も厳しい評価基準だと言われています。(いずれ詳しく書くかもしれません)※


カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のKathrin Plathらとハーバード大学のKonrad Hochedlingerらのグループでも、Nanogの遺伝子領域に相同組換えによってGFPと薬剤耐性遺伝子を導入したノックインマウスを作製し、そのマウスの体細胞から、同様の手法でiPS細胞を樹立しています。


Cell Stem Cell. 2007 June 07;1(1):55-70
Directly Reprogrammed Fibroblasts Show Global Epigenetic Remodeling and Widespread Tissue Contribution.
Maherali N, Sridharan R, Xie W, Utikal J, Eminli S, Arnold K, Stadtfeld M, Yachechko R, Tchieu J, Jaenisch R, Plath K, Hochedlinger K.
http://www.cellstemcell.com/content/article/abstract?uid=PIIS1934590907000203


彼らは、上記の性質に加え、体細胞初期化能、X染色体の再活性化といった点でもES細胞と類似していることを示しました。

また、ドキシサイクリン特異的にOct3/4を発現する体細胞にSox2、Klf4、c-Mycの3遺伝子を導入し、iPS細胞を樹立する実験において、iPS細胞の維持には内因性のOct3/4の発現で十分であることも示しています。


これらの報告から第二世代iPS細胞はほぼES細胞と同じであるという結論が得られたのです。

また、iPS細胞の作製のニュースはあまりに衝撃的であったため、本当か疑う研究者もいましたが、世界中の複数のラボで追試に成功したことから、誰もが認めるようになりました。

なかでも、マサチューセッツ工科大学(MIT)のRudolf Jaenischは、ES細胞およびクローンの分野における大御所であり、彼が追試に成功したことが、太鼓判をおすことになりました。


しかし、ヒトのiPS細胞を樹立するにあたっては、まだ乗り越えなければならない壁がありました。

次回はそれについて!





(09年8月30日追加)

ケンブリッジ大学のJose Silva, Austin Smithらのグループにより、細胞が多能性を獲得する際におけるNanogの機能を解析したという論文が発表されました。

この仕事は、発想自体はみんなが思いつくことで、是非世界に先駆けて山中研にやってもらいたいと思っていたのですが、さすがAustin Smith。仕事が速いですね~


Cell. 2009 Aug 21;138(4):722-37.
Nanog is the gateway to the pluripotent ground state.
Silva J, Nichols J, Theunissen TW, Guo G, van Oosten AL, Barrandon O, Wray J, Yamanaka S, Chambers I, Smith A.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19703398?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum


Silva, Smithらは以前、マウスES細胞と体細胞の融合による体細胞リプログラミングにおいて、ES細胞でNanogを過剰発現させるとリプログラミングが促進されるということを示しており、内因性のNanogの発現上昇が同様の効果を持つかどうかを調べるために、まず、血清およびLIFの存在下で3μMのMEK阻害剤(PD184352, PD0325901、「ES細胞における自己複製の基底状態 」を参照)でES細胞を処理することで、Oct4のレベルを変えることなくNanogの発現を上昇させることができることを示しました。

なお、この際、未分化ES細胞の厳密なマーカーであるRex1の発現は変わらなかったことから、Nanogの発現上昇は分化が減ったことによる二次作用ではないことが示唆されています。

また、MEK阻害剤により、Nanogポジティブ細胞の割合が90%以上に増え、発現の平均および最大レベルも増加することが分かりました。

ES細胞を3日間MEK阻害剤で処理してから、脳由来の神経幹細胞と融合させて融合細胞のみを選抜し、さらに72時間MEK阻害剤で処理し、薬剤選抜をかけて、d12でアルカリフォスファターゼ染色してリプログラミング効率を評価したところ、MEK阻害剤処理により40倍効率改善することが分かりました。

逆に、Nanogのコンディショナルノックアウト(Δ)ES細胞を用いるとどうなるのかを調べたところ、元となったES細胞の場合は約70コロニー、loxP配列で挟まれたNanogを導入してNanog発現を回復させた(Δ+Ng)ES細胞を用いた場合は>400コロニーだったのに対し、NanogΔES細胞を用いた場合は2-3コロニーしか得られず、25倍リプログラミング効率が低下することが分かりました。

なお、NanogΔES細胞を用いた場合に出てくるコロニーでは、神経幹細胞ゲノムからのNanog発現が見られ、補完されていることが分かりました。

そこで、NanogΔES細胞とNanogΔ神経幹細胞を融合させてみたところ、ES細胞様の形態をしたコロニーは得られず、Nanogなしでは融合細胞は多能性を獲得できないことが分かりました。

ちなみに、MEK阻害剤とGSK3阻害剤(2i、「ES細胞における自己複製の基底状態 」を参照)/LIFコンディションでは、NanogΔES細胞でも増殖できることも示しています。


次に、iPS細胞樹立におけるNanogの必要性を調べるために、NanogΔ神経幹細胞およびNanogΔ+Ng神経幹細胞にOct4, Klf4, c-Mycの3遺伝子を導入し、3日後に血清とLIFを含む培地に移したところ、2日後にはES細胞様のコンパクトで増殖する細胞でコンフルエントに近くなり、これらの細胞では、神経幹細胞マーカーであるOlig2が抑制されており、Ecadherinが活性化されていることが分かり、SSEA-1、アルカリフォスファターゼポジティブであるものの、内因性のコア多能性因子はあまり発現していないことが分かり、NanogΔ細胞とNanogΔ+Ng細胞とで差は見られないことが分かりました。

これにより、部分的なリプログラミング状態への脱分化にはNanogが必要ないことが示唆されました。

シグナル阻害によるiPS細胞樹立法の改善 」で紹介した論文で示された通り、部分的なリプログラミングを受けた細胞は2i/LIF処理により多能性を獲得できることから、上記の部分的なリプログラミングを受けたNanogΔ細胞を2i/LIFで処理することで多能性を獲得できるか調べたところ、2i/LIF培地に換えてから7日以内に全ての細胞が死んでしまい、コロニーを得られないことが分かりました。

一方、NanogΔ+Ng細胞の場合、同様の手法で6×10の4乗個の細胞から約100個のコロニーが得られ、変換効率は0.16%±0.02%でした。

これらのコロニーは2i/LIFコンディションで増殖し、安定株を樹立でき、内因性のNanog遺伝子座(G418およびhygromycin耐性遺伝子が挿入されている)が活性化されており、部分的なリプログラミングを受けた細胞では発現していなかったFgf4とRex1が発現していることが示され、キメラに寄与できることも示されました。

ちなみに、この細胞において、導入したNanogをCre/loxPシステムで除去しても、未分化な形態を維持したまま増殖し続け、多能性マーカーの発現も維持されることも確認しています。

これにより、ES細胞で示された結果(「ES細胞中のサブポピュレーション」で紹介予定)と同様に、Nanogはリプログラミングが達成されたiPS細胞ではもはや必要ないが、部分的なリプログラミングを受けたpre-iPS細胞が多能性基底状態に達するのに必要なことが示されました。


次に、多能性基底状態への進行ができないように見えた、部分的なリプログラミングを受けたNanogΔ細胞が、実際にpre-iPS細胞であるのかどうか調べるために、piggyBacトランスポゾンを用いてloxP配列で挟まれたNanogを導入し、2i/LIF培地で培養したところ、1ウェルに1400個以上のコロニーが形成され、その転換効率は0.4%以上であることが分かりました。

この細胞では、内因性のNanog遺伝子座が活性化されており、レトロウイルス発現のサイレンシング、多能性基底状態マーカーであるRex1およびKlf2の発現が確認され、Cre/loxPシステムによるNanogの除去後でもキメラ形成能を維持していることが示されました。

また、2i/LIF培地に移してからのpre-iPS細胞における遺伝子活性化のタイミングを調べるために、「シグナル阻害によるiPS細胞樹立法の改善 」で紹介した論文で出てくるMEF由来のpre-iPS細胞のクローナルなラインを使用しました。

この細胞は、Nanog, Rex1を発現しておらず、血清存在下で培養しOct4発現で選抜をかけても自発的に多能性を獲得しないが、2i/LIF培地に移すことで効率的にジャームラインに寄与できるiPS細胞に変わるもので、10日間以上に渡って変換が起こるのですが、Nanogの有意な発現はd7から上昇することが分かり、これは内因性の多能性マーカーやOct4-GFPレポーターの発現と同時であることが分かりました。

これにより、Nanogはpre-iPS細胞において2iの初期のターゲットではないことが示唆され、pre-iPS細胞におけるNanogの外来発現が、2i/LIF処理なしでpre-iPS細胞状態から逃れるのに十分ではないことと一致し、Nanogは真の多能性へのリプログラミングの最終段階で働くことが示唆されました。


次に、「エピブラストステムセルとヒトES細胞 」で紹介した論文で示されたように、エピブラストステムセル(EpiSCs)はKlf4を導入し、2i/LIF培地で培養することで多能性基底状態にリプログラミングされますが(0.1%-1%)、EpiSCsはES細胞よりもNanogの発現が低レベルであることが知られており、Nanogの発現を上昇させることで、多能性基底状態にリプログラミングできるのか調べるために、Oct4-GiPレポーターを持つE5.5胚由来のEpiSCsを用い、piggyBacトランスポゾンでNanog, DsRed, hygromysin耐性遺伝子を導入したところ、hygromysin選抜下でbFGFおよびactivinを含むEpiSC培地で培養しても、増殖するが多能性基底状態マーカーの発現上昇は見られなかったのに対し、2i/LIF培地に移すと、Oct4-GFPを発現する未分化コロニーが複数形成されることが分かりました。

この際の効率は、2×10の4乗個の細胞から200-2000コロニーで、1%-10%でした。

これらの細胞は、安定的に増殖し、ES細胞マーカーの発現上昇が見られました。

また、Nanogは2iなしでEpiSCsをリプログラミングできるのかを調べるために、Nanogを導入したEpiSCsをbFGF/activin培地からLIFとBMP4を含む培地に移してみたところ、Oct4-GFPポジティブで、安定的に増殖でき、Klf4を含む多能性基底状態マーカーを発現する未分化コロニーが多数得られることが分かりました。

このNanogによって樹立されたEpi-iPS細胞は、DsRedを発現しており、外来遺伝子が挿入されていることが示唆され、転移酵素PBaseを用いない一時的なトランスフェクションでは、Epi-iPS細胞は得られないことも分かりました。

そこで、NanogとKlf4をともに一時的にトランスフェクションし、48時間後に2i/LIF培地に移してみたところ、7日間で、2×10の4乗個の細胞から2-6個の確率でコロニーが得られることが分かりました。コロニーをピックアップして株化したところ、これらの細胞はOct4-GFPを均一に発現しているがDsRedの発現は見られず、ゲノムPCRによってもPBベクターの挿入は見られないことが確認され、また、ES細胞マーカーであるNr0b1, Klf4, Klf2の発現上昇およびEpiSCマーカーであるFgf5, Brachyury, Leftyの発現低下、X染色体の再活性化、キメラへ寄与できることが示されました。


次に、E3.5, E4.5のマウス胚における、Nanog, Oct4タンパクおよび胚盤葉下層で発現するGata6, Gata4タンパクの局在について調べてみたところ、E3.5胚では、以前示されたのと同様、Nanogの発現はICMに限られ、その中の全てではないがほとんどの細胞で発現が見られたのに対し、Oct4はICM全体で強く発現しており、いくつかの栄養外胚葉細胞でも発現が検出されました。また、E4.5日までに、Nanogの発現は栄養外胚葉と胚盤葉下層で接するICM細胞の一部分に限られるようになるのに対し、Oct4はより広くで発現しており、ICMのほとんど全ての細胞で発現が見られました。一方、Gata6, Gata4の発現は、胚盤葉下層の位置と一致する、胚盤腔と接するか近くにあるICM細胞に限られており、それらの細胞の多くはOct4を共発現していたのに対し、E4.5においてNanogとの共発現は観察されませんでした。

また、ES細胞樹立に適しているとされるダイアポーズの状態にある胚では、全てのICM細胞がOct4を発現しているのに対し、Nanogは内側のICM細胞でしか発現しておらず、胚盤葉下層では見られませんでした。

これらより、Nanogは、成熟した胚盤胞においてエピブラストに特異的に見られ、Gata因子の発現と互いに排他的であるのに対し、Oct4はICM全体で偏在することが示されました。


次に、ICMにおけるNanog発現とX染色体再活性化の関係を調べるために、PRC2ポリコーム複合体の構成要素であるEedを不活化X染色体のマーカーとして用い、局在を調べたところ、XXのE3.5胚では、全てのICM細胞においてEed focusが見られ、初期胚盤胞では不活化X染色体が維持されているのが確認され、少なくともE3.5にあるレベルでのNanog, Oct4, Sox2の共発現ではX染色体の再活性化に十分ではないことが示唆されましたが、E4.5では、Oct4ポジティブなICM細胞の約半分がEed nuclear bodyを失うことが分かり、また、Eed focusの欠損はNanogの存在と正確に相関することが示されました。さらに、不活化X染色体を維持しているICM細胞ではNanogが見られず、Gata4が発現しており、胚盤葉下層へ分化したことが示唆されました。

同様に、ダイアポーズ胚盤胞では、Eed nuclear bodyは胚盤葉下層と栄養外胚葉の全ての細胞で見られ、Nanogポジティブなエピブラスト細胞では見られませんでした。


次に、Nanog-/-胚盤胞におけるICMの状態を解析しました。E3.5では、形態、サイズ、ICM細胞数において違いは見られませんでしたが、E4.5では、Oct4ポジティブなICM細胞数が減り、Gata4の強い発現が見られず、少しの細胞でかすかにしか検出されませんでした。また、栄養外胚葉の核においてEed fociを持つNanogネガティブ胚盤胞において、Eed nuclear bodyが全てのICM核においても見られました。また、null ICMがエピブラストに発生することがないことも確認しました。

さらに、Nanogネガティブなダイアポーズ胚盤胞では、明白なICMが見られず、5つ中4つが完全にOct4ネガティブで、1つが栄養外胚葉で散在的にOct4を発現していました。また、Oct4ポジティブな核を含む全ての核でEed fociが確認され、X染色体の再活性化が起こっていないことが示唆されました。

これらより、E4.5でのICMのサイズの減少と胚盤葉下層の欠損は、成長や分化の遅れに起因するのではなく、発生の失敗の結果であることが示唆され、Nanogは初期胚においても多能性基底状態の獲得に必要であることが示されました。


次に、Nanogの欠損下で多能性細胞を得られるのか調べるために、2iへの反応性を調べました。まず、初期胚盤胞を、2iもしくは2i/LIF存在下で48時間培養したところ、Nanog発現細胞の大きな分画とGata4ポジティブな胚盤葉下層からなる、拡張したOct4ポジティブICMを持つ胚に発生し、また、Nanog null ES細胞も、血清とLIFよりも、2iもしくは2i/LIFの方がより効率的に増殖することが分かりました。そこで、Nanog-/-胚盤胞を、2iもしくは2i/LIF存在下で48時間培養してみたところ、ICMは完全に変性してしまい、Oct4もGata4も検出できなくなったことから、NanogなしではICMは正常に分化できないことが示唆されました。


最後に、栄養外胚葉で発現するcytokeratin 8を検出できるレポーターを持つマウスとの交雑胚を用い、Nanog-/-胚盤胞ではICM細胞数の減少とcaspase 3ポジティブなアポトーシスを起こしている細胞の増加に相関があり、Oct4ポジティブな細胞の一部が栄養外胚葉に分化していることを示し、また、E3.5-E3.75のNanog-/-胚盤胞由来のICMは、血清とLIFの存在下で培養しても、未分化な細胞塊を維持できず、接着に失敗して変性するか、広がった形態と大きな核を持つ少数の栄養外胚葉に分化することを示しました。さらに、残存したICMもしくは胚盤葉下層が観察されたNanog-/-胚盤胞は一例もないことを示しています。

これらより、Nanogを欠損したICM細胞は多能性への進行ができず、栄養外胚葉に分化するか死ぬしかないことが示されました。





ほんと、さすがと言わざるを得ないデータ量。Cellに相応しい重厚な論文ですね。