「いいんじゃないか?」
「……え……?」
「君みたいな男ってぇのは、オンナの経験だけは豊富なのに、中身はからっきしって奴も多いだろうからな。それに比べりゃ、役者としては死にもの狂いな愛し方ってのも肥やしになるだろう。」
「……役者として、ですか……。」
「あぁ。何でも伸び代にしてこその職業だろうが。人として間違っていようが関係ない。怖い存在であってもいいじゃねぇか。卑怯で卑屈で最低で結構。少なくとも、業界でそのことを恥じる必要はない。」
「…………。」
誰よりも、何よりも大切な子。
愛されることを切望している、一途で一生懸命に生きている、愛しい少女。
―――もし倒れそうになったら、その時は。また私によっかかって下さい。―――
―――大人になったコーンならやりますよ!!絶対やれます、コーンなら!!―――
―――…聞こえて、ますか…?…私の声…―――
―――どんなに弱気になっても、不可能に思える事も、可能にしてくれるんです。―――
――― 一緒に、居てみませんか…? ―――
何度も。何度も、何度も。
ダメだと堕ちていく蓮を、救いあげてくれる小さなあたたかい手。
その手を。その大切な女の子を。
唯一無二のその子を、縛りつけようとする汚いケダモノ。
そんな存在が、彼女の傍にいることは、許されることなのだろうか?
「敦賀君。」
「はい……。」
「君のその想い、しっかりこのCMで出し切ってくれ。」
「…………?」
「心配すんな。このCM撮影は絶対成功する。最上君……『京子』と、俺達を信じろ。」
黒崎は、ニヤリと笑った後、蓮の肩をバシリ、と叩いてみせる。
「……はい。」
「だから、休憩後も、しっかり『独』の男を演じてくれよ~~。もっと本気出してもらったって構わないからな。」
「はははっ……。…分かりました。それじゃあ、最上さんの様子、見てきますね。」
「おぉ。頼むよ。しっかりなぁ~~。」
ヒラヒラと手を振る黒崎に頭を下げると、蓮は社とセバスが待つ場所へと颯爽と歩いて行く。
「ふふんっ。……若いねぇ……。」
その後ろ姿を、黒崎は眩しそうに見つめていた。