「あ、あの……。」
そしてこちらには。天使のように可愛らしい小悪魔が、俺を不安そうに見つめている。
「ふ~~~……。」
俺は努めて長い溜息を吐き出した。理性を保たなければ、なんともケモノの動きをしてしまいそうなシチュエーションではある。
未だ寝台の上で、涙目になりながら震えている可愛い小動物は、いつでも襲ってくれと言っているようにしか見えない。
「キョーコちゃん。話をしよう。」
「は…、はい……。」
だが、それが俺の妄想であることは充分に分かっている。天然記念物的乙女は、男の劣情をあおっているわけではない。
ただ単に、俺が怖い。もしくは状況が飲みこめていないだけなのだ。
…考えていて、非常に虚しいけれど。
「あの……。」
「何?」
「先ほどの、お話は……。その。全部、本当のことなんですよね……?」
2人っきりになると、キョーコちゃんは戸惑いを含んだ瞳で俺に尋ねてくる。
「うん。この手のことで嘘を吐くつもりはないよ。」
そう答えながらも、俺は彼女に話した『真実』を振り返る。
……普通に考えて、ありえないことだらけだよな……
改めて考えると、自分自身の生い立ちから今にいたるまでの人生は、苦労が多かったとはいえ、比較的『普通』の生活を送ってきた彼女には俄かに信じられるものではないだろう。
「……キョーコちゃん……。」
「はい……。」
1分か、2分か。長いようで短い沈黙の後。
俺は意を決して彼女を呼ぶ。
「もう、気付いているかもしれないけれど。」
「…………。」
「俺達は、もうずっと昔に出会っているんだよ……?」
これは最後の切り札。
俺は『敦賀蓮』であり、『クオン・ヒズリ』であり。そして……。
妖精の国の王子様、『コーン』なのだ。