「っ!!」
その瞬間に、奪われた唇。
震える彼の唇は、本当に弱々しくて冷たくて…。
その後に満面の笑顔を浮かべた彼の表情はとても美しくて。
「忘れないで…俺は…いつでも…君の、傍にいる。姿はなくても…守るよ、必ず…」
私の頬に触れてくる、彼の手。その手を包みこむ。
……勝手なことを言わないで。置いていくくせに。私のいけないところに、いってしまうくせに……
「君だけを…愛してる…ティア」
勝手に守って、勝手にいなくなるだなんて……なんて身勝手な男だろう。
「や…、いや、いやよ!」
もう、嫌なのだ。
想っているのに。全てを隠して、生きるのは。
「私は、光の勇者なんかじゃ、ないっ!!」
使命のために、心を消すのはもう嫌だ。
だって、彼を失ってしまったら、他の誰が微笑んでいたとしても。皆が幸せだったとしても。
『私』は、幸せなんかじゃない。
「かえして…」
『彼』が望んだ世界は、光溢れる幸福の世界。でも、私にとってその世界は、どんな闇よりも深い、絶望の世界だ。
「私の……を…お願い!」
―――ティア―――
―――最上さん―――
―――君だけを…愛してる…―――
そんな言葉はいらないから。
私の傍にいなくてもいいから。
でも、追いかけられる場所に、あなたはいて。
例え置いていかれても、私はあなたであれば絶対に追いかけるから。
そうでなければ、私の世界は壊れてしまう……。
私は『彼』の頭を抱きしめて、心の底から願った。