光と闇のフォークロア~sideキョーコ(4-1)~ | ななちのブログ

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「カット!よし、いい感じだ。この先のシーンもこの調子でいくぞ」



 黒崎監督の機嫌のいい声が響き、私は心に宿らせていた『ティア魂』を抜いた。

 私の目の前では黒い鎧を着た戦士が「お疲れ様」とでも言うように穏やかな笑みを浮かべてくれている。

 真っ暗な何も見えない、闇夜のような鎧を着た姿のくせに、その陽の光のような眩しい笑顔に、私は思わず目を細めかけて…。



「はぁぁ~、殺陣って難しいですねぇ…」



 ごまかすように溜息をついた。



「うん、そうだね。俺も練習してるけど、なかなか難しいと思うよ。」



 すると、「よく頑張ったね、最上さん」と本当に労いの言葉をかけられた。そんな先輩に笑顔を向けて、私は持っていた剣を机の上に置く。

 その手はちょっぴり震えていたけれど、それをごまかしたくてすぐに両手を握りしめた。

 …でも、敦賀さんには気付かれたみたいで、私のマメだらけの手を痛ましそうに見つめてくる。



「…えへへっ、うまくできてよかったです。」

「…うん。そうだね。」



今回の撮影のためにはどうしても剣の立ち回りの技術が必要になる。黒崎監督はスタントマンを使うことも考えてくれたけれど、それは私から断った。

その経緯を知ってくれているからだろう。「女優がこんな傷を作ってどういうつもりだ」と怒られるかと思ったけれど、緊張と痛みに震える私を見ても、敦賀さんは何も言わなかった。ただ静かに、隣で微笑んでくれている。



……どんなに危険なシーンでも、絶対にスタントマンを使わない。

例え思わぬ事故に遭い、一度は放心状態になったとしても、それでも代役を立てることをしなかった人を、私は知っている。

そんな偉大な人が、私の尊敬する役者だから……。



しかも、その人との共演なんだからなおのこと、私ではない誰かに、私の『ティア』役を任せる気にはなれなかった。



…もっとも、それもちゃんと演じられるということが条件なんだけれど。



いくら私が「やりたい」と主張したところで、黒崎監督が納得するような演技ができなければ、私の『ティア』はプロのスタントマンがやることになっていた。いくら私が主張したところで、期間内に殺陣をマスターできなければ、代わりが立てられるのは当然のこと。だから、今回は短い期間だったけれど、それはもう死にものぐるいで師匠についていったわ。



「そう言えば…敦賀さんも練習してると仰ってましたけど、アーネストさんに教えてもらってるんですか?」



アーネストさんは、社長さんがつけてくれた殺陣の先生だ。稽古中は「ノロマ!」「こんなこともできねぇのか、このドジが!!」などとステキな日本語で罵声を浴びせてくるような人だったけれど…。



「うん。今回のは西洋風…っていうか、世界観が違うよね。殺陣って言っても時代劇の殺陣とは間合いとかいろいろ違うし、同じ剣でも刀と太刀は扱い方も違うから、きちんと扱い方まで教えてくれる人に教えてもらった方がいいかと思って。」



 平然と答えてみせる敦賀さんの様子を見ると、同じようなステキ日本語で怒鳴られていたとは思えない。…まぁ、敦賀さんだものねぇ…。一緒にしちゃダメよね。



「それに、社長の友達、というより剣の師匠らしいからね。事情も色々知ってるからやりやすいんだ」

「はぁ~、」



ちょっと困ったような不思議な笑顔を浮かべる敦賀さん。でも、仰っていることには納得がいったから素直に肯いた。



「そうだったんですか。稽古中は厳しいですけど、とてもよく教えてくださるいい先生ですよね」



 稽古が終わった後は別人のように優しくなる先生を思い出して、私は思わずにやけてしまった。「よくがんばったな。」って頭を撫でてくれる先生はジェントルマンで、ちょっとだけ私の敬愛する『先生』と被るところがあった。

 

…『父』と呼ばせてくれた、厳しくて優しい『先生』。先生と、今となりにいる尊敬する先輩に恥じない女優に、早くなりたい。









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