(それがごほうび②)
「………あの~~~………。」
「ん?」
キョーコが口にしたギモ―ブは、絶対に安価な代物ではない。それはあの天使が舞い降りてくるのではないかというほどの味わいで理解している。
「さきほどの……。」
「あぁ。これ?」
ガサリ、と取り出されたのは、オレンジ色と青色をした愛らしい四角形のお菓子が入った包み紙。それを色鮮やかな包装紙でラッピングしたもので、どれほど安く見積もっても、駄菓子屋に売っているマシュマロと同等にするわけにはいかなかった。
「あ、もう一個食べる?」
「そうじゃなくて!!」
あまりにもじっくりとその包装紙に包まれた可愛らしいお菓子を見つめていたキョーコ。その様子を勘違いしたらしい蓮は、もう一つキョーコに与えようとする。
それを断って、キョーコはキッと強い視線を蓮に向けた。
「敦賀さん!!」
「ん?何?」
「これっ!!どうされたんですか!?」
キョーコは蓮が持っている包みをビシッと指差して追求をする。
…返ってくる答えによっては、この挑戦はこれで終了だ。決して苦しいだけの日々ではなかったけれど、様々な努力をしてきただけにこんなことで失敗してしまうのはとても悲しい。
「え?買ってきたんだけど。」
涙が出そうな気持で訴えたものに対するは、罪悪感のかけらもない敦賀蓮からのきっぱりはっきりとした答え。
「……敦賀さん……。私達にこんな高級なお菓子を買う余裕なんて全っ然ないんですよ!?」
「あるよ。ほら。」
蓮は上着のポケットに手を突っ込むと、その中のものをキョーコの前に突き出した。
「京子ちゃんにはないけれど、俺にはお小遣いがあるから。君が頑張って、俺の分のお小遣い、作ってくれただろう?」
「あ……。」
蓮の掌の中には、銀色に光る硬貨が2枚。
「で、でも…あれは、敦賀さんがお仕事をされる際の飲み物代に……。」
「君に美味しい栄養ドリンクやお茶を淹れてもらっているのに、追加で購入するものがないよ。だからとりあえず毎日もらうこの100円を溜めて、買えるものを探しに行ったんだ。京子ちゃん、家のことをほとんど全部してくれているのに、俺、何もお返しできていないし、せめて疲れのとれる、何か甘くておいしいものを食べてほしくて。」
「君にご褒美があげたかったんだ。」と、にっこりと笑う蓮は、屈託のない少年のような笑顔だった。
「でも、敦賀さんのためのお小遣いなのに……。」
「それをどう俺が有効活用してもいいだろう?俺にとっては、君に美味しいお菓子を食べてもらって、可愛く笑ってくれるのが一番嬉しいご褒美になるんだけど。」
「どうかな?」と首をかしげながらお伺いを立ててくる蓮。
その様子に、少し戸惑った後、キョーコは頬を染めながらにこりと笑った。
「…ありがとうございます、敦賀さん。」
「うん。これ、ちゃんと食べてね。」
「はいっ!!大切にいただきますね!!」
蓮の手から包みを受け取り、キョーコはそれを大事そうに抱えた。
そんなキョーコを見つめる蓮も、実に満足気に微笑んだのだった。