某テレビ局の会議室。
そこで私は……。
「何であんな子が……。」
「LMEの新人なんでしょ?あの子。」
「地味で色気のないコじゃないの!!なのになんで……。」
とっっってつもなく、居心地の悪い思いをしていた。
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「ほぇ~~~~っ!!??わ、わわわ、ワタクシがヒロインなんでございますか!?」
「あぁ~~?何だよ、聞いてねぇのか?」
「きっ、きききっ……聞いてませ~~~~ん!!てっきり闇の国の大魔女王様かと思っていたのにぃ~~~!!」
「……俺はオファーの時にちゃんと話したぜ?」
「ふぇ~~~!?」
「どうせそのテンションで聞き忘れたんじゃないのか?」
顔合わせに入る前に、あいさつに向かった先。そこには、想像通りのチンピラ…ではなく、とても監督とは思えない服装の、無精ひげを生やした黒崎監督がいらっしゃった。
あいさつをした後、テーブルを挟んだ向かいの席に座るように指示され、座った私の目の前につきだされたのは、今回のキャスティング表。
そのキャスティング表の一番上の名前。そこには。
…『京子』の2文字が並んでいたのだ…。
「しっ、ししし、しかも。あ、あの、あのあの…その、何故ワタクシの名前の下にこの、ツル…。ツル鶴煉瓦……。」
「『敦賀蓮』な。君、いくら彼のお気に入りの後輩でも、それは本気で怒られると思うぞ。」
「ヒッ!?こ、こここ、殺されるっ!?」
「何でだよ……。」
「相変わらず、君、どっかおかしくて変だよなぁ~~…。」などと、妙に呑気な声でけなしてくる監督の声を遠くに聞きながら、私は迫りくる危機に、震えおののいたのだった……。
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「………はぁ~~~~~……。」
数十分前に交わした監督との会話を思い出し、私は深い溜息を吐いた。
まさか、私がゲームの主人公役とは思わなかったわ。
しかも、その名前の下に恐れ多くも大先輩のお名前があるとは。
『はぁん!?なんで君ごときペーペータレントが、この俺を差し置いて主人公なんかやるんだ!?』
「……なんてことは言われないだろうけれど……。」
でも。私が主人公で、あの輝かしくも美しい、偉大なる先輩がその次に名前を上げられるような役になるだなんて…。
いえ、もちろん、役者の花形が主人公とは限らないわ。どんな物語でも脇役陣である、主人公の周囲を固める役というのは重要。むしろ主人公はイマイチでも、周りの役者が良いことで盛り上がったドラマがあるとか、聞いたことがあるし。
それでも……。
「なんであんな子が主人公なの!?」
「本当よねぇ。さっきの、見た?」
「えぇ。な~~んか、やる気だって感じられないし。」
「しかも!!何より許せないのが素うどんみたいな平平凡凡とした顔をしていることよ!!あの子に比べたら、私達のほうが顔だってスタイルだっていいじゃない!!」
チラチラとこちらを見てくる会議室内の方々の視線を受け止めきることができず、時間が来るまで逃げていようと向かった物陰で。
……会議室よりも直球すぎる私への非難の声を聞くことになってしまった。
それに。…そう、私は運の悪い女。なぜだかこういう時に限って……。
「!!あなたっ!!」
「ちょうどいいわ、ちょっとこっちに来なさいよ!!」
私への怒りに燃える女優さんや美人タレントさん達が3人、私のことを同時に発見してしまったのだ。
……あぁ。私って本当に何って運が悪い女なのかしら?いえ、ここは間が悪い…が正しいのかしら?……
促されるまま、スゴスゴと彼女達の側に行ったのは、この問題を先延ばししても同じだから。いえ、もしかしたら撮影中も陰で色々と嫌がらせをされるかもしれない。それよりは、ここでおっしゃることを受け止めるだけ受け止めてみよう。
そう思って、私に浴びせられる罵声をとりあえず聞くことにした。
だけど……。
「いいわよね、事務所が大きいと融通を聞いてもらえて。」
それまでの正論とも取れる私への罵声の数々から、突然一転して、話題が変化したことがすぐに分かった。
「……。どういうことですか?」
「!?」
これまで一切言い返すことなく、聞く一方だった私の急な反応が腹立たしかったのだろう。目の前の女優さんの美しい瞳に、それまで以上の怒りの色が加わる。