「志季。」
「何?」
この国の帝である志季。どうあがいたって手の届かない至高の存在なのに、志季は平民の私のことを大切な友人だと言ってくれる。
「ありがとう。」
だから私は勘違いをするんだ。手を伸ばせば、届くんじゃないかって。
今手に持っている欠けたお菓子のように、いつか本当に届くんじゃないかって。
「?何のお礼?」
でも志季は帝で。完璧な彼には、一生手を伸ばすことさえ許されない。
「えへへっ、いつも一緒にいてくれるお礼。いつもありがとう、志季。」
だからこの想いは胸に秘めなきゃダメだ。志季に絶対に気付かれてはいけない。
「こちらこそ、ありがとう。香蘭。」
友人として。志季が治める国の民として。
私は彼の傍にいる。
いずれ志季がお妃さまを娶って、その人との時間を大切にする時までは。
「香蘭。」
「何?」
「私と一生一緒にいようね。」
切ない想いに胸が苦しくなった私。そんな私の耳に飛び込んできたのは。
……平然とした顔をした、志季からの信じられない発言だった……。
「~~~~っ!!何言ってるの!?」
「え?何が?」
「そういうことはただの友達に言っちゃダメなの!!」
真っ赤になって私は怒ったけれど、志季は何が悪いのか分かっていないみたい。
でもこれ、勘違いしたらプ…プロポーズだと思うよね!?
も~~~!!これだからズルイんだ!!私が勝手に盛り上がっちゃうのは、私だけの責任じゃないよね!?
「?どうして?君との友情を一生のものにしたいと思うのは、私だけなのかな……?」
「!?いっ、いや…。そりゃあ、私もだけど……。」
寂しそうに言うものだから、肯定してみたけれど。
「じゃあ約束。毎日私に会いに来てね?」
「え!?い、いや…あの、それはさすがに無理…。学校があるし、じっちゃんの手伝いとか薬草摘みとか、色々仕事もあるし…。」
「そうか…。じゃあ、公務を巻きで頑張るから、私が君に会いに行くね?」
「!?そ、それもどうなの!?っていうか、志季、自由すぎない!?志季、帝だよ!?」
志季ってマイペースだし適当すぎるところがあると思う!!っていうか、雨帖様も笑ってないでなんとか言ってよ~!!護衛も兼ねているんでしょう!?
「それじゃあ、毎日は無理かもしれないけれど。できるだけ一緒にいよう。私は香蘭といる時間が一番楽しいんだ。」
「~~~~っ!!」
優しい口調で話すから、全然強引じゃない感じがするけれど、志季は結構色んな事を押し通すところがある。
「…分かった。でも、私が会いに来るからね?志季はあんまり無茶しちゃダメだよ!?すぐ護衛の人をまいちゃったりするんだから!!」
「ははは……。」
「笑い事じゃない!!」
しっかり釘をさして、叱りつけたけれど。
私の口元はきっと緩んでいたに違いない。
……まだ、傍にいられる。志季の傍で、一緒に笑っていられるんだ……
それがとても嬉しくて。
*****
いつか『その日』が来ると分かっているけれど。
今だけでいい。傍にいさせて。
あなたがいつか、私ではない大切な人を傍に置く。
いつかその日まで。