「……ほっほ~~~。なんというか…聞き逃せねェ面白そうな話が出てきたなぁ~~。」
「…………。」
「そうか、そうか~~。っつ~~ことは、あれか?お前は京子にず~~~っと、恋心を抱いてきたわけなんだな??」
「…………。」
「そんでもって。ず~~~~っと、その気持ちを理解されないままで今日に至っている、つぅわけだなぁ……。」
「……っ。」
「……。…哀れだな。蓮。」
「心底憐れんだ顔をしないでくださいっ!!っていうか、今は両想いだって言っているじゃないですかっ!!」
宝田社長の執拗な追及…から最終的には憐れみに変わった発言の数々に、敦賀蓮は結局だんまりを続けることができなくなった。そんなある意味若々しい青年に、宝田社長は隠すことなくニヤニヤとした厭らしい笑いを向ける。
「で?いつ、お前は京子に恋に落ちたんだ?」
そして、さらりとした口調で疑問を口にした。だが、宝田社長のその瞳が言葉以上に命令している。「吐けっ!!」と。
「別に俺達の出会いがどんなものかなんて、社長には関係がないでしょう?」
「ほ~~。そうか。お前がその気なら俺にも考えがあるぞ~~?」
再びそっぽを向いて、敦賀蓮がその視線の脅迫に抵抗を示した瞬間。宝田社長はまるでマフィアのボスのように目を細め…そして、敦賀蓮の頬に、濃厚キスシーンの写真をぺチぺチと叩きつけた。
「この存在を、京子に知らせて…噂になっちまっているって、言っちまうぞ~~??」
「っ!!??ちょっ、ちょっと、社長っ!!」
「あ~~あ、きっと京子はお前から距離を取るだろうなぁ…。せっかくキスさせてくれる間柄になったのになぁ?可愛そうに……。」
「は~~。残念だ。」と語る事務所社長を見る…事務所のトップ俳優。その瞳からは、確かな殺意を感じた。
「私も、興味があります。」
まさに一触即発。対峙する二人の男の間に入ることはかなりの勇気が必要だった。けれど、私もどうしても知りたい。…この、トップ俳優が気付いた、『京子』の魅力。私が取材の時に知った彼女のことだけではない、たくさんの素顔を彼は知っているのだろう。それを、どうしても知りたいと思った。
「記事には、しません。あなた方が許可をしてくださるまで、絶対に外部に情報は漏らしませんから。」
地獄の1丁目で無言の攻防をしていたLME社長と看板俳優の意識と視線が、私に向けられる。…私は単なる雑誌記者。しかも、お二人とは今日、初めて会った存在だ。信用に足る人物か、と言われたらそれは「否」だろう。
それでも、知りたいと思った。だから、私は真正面から敦賀蓮を見る。
「……このことは、キョーコちゃんも知らないことなんです。」
しばらくの沈黙の後、敦賀蓮が静かな口調で言った。
「それは、京子さんがあなたとの思い出を忘れている、ということですか?」
京子さんとは少ししか話をしていないが、そんな薄情者には見えなかった。だから純粋に驚いてしまったのだが。
「いえ。…よく覚えてくれていますよ?ただ俺と気付いていないだけで。…俺も大切にしている思い出なんですけれど、きっと彼女も同じくらい大切にしてくれていると思います。」
敦賀蓮は私の質問を否定して、それはそれは美しい笑みを浮かべてみせた。神々しいほどの光を放つ笑顔ではあるが…これって、ノロケているわけよね…?
「だから、本当はキョーコちゃんに最初に伝えるべきだと思うんです。…俺達二人の、大切な思い出だから。」
「でも……」と呟き、敦賀蓮は私と宝田社長にいたずらっ子のような笑みを向ける。
「俺とキョーコちゃんの交際発表まで、内緒にしてくださるのなら。お二人にだけ、お話しましょう。」
「約束ですよ?」と念を押す敦賀蓮に、私と宝田社長は深く頷いた。それを確認すると、敦賀蓮は満足そうに頷いた後。ゆっくりと口を開いた。