かけがえのない日々~魔法(2)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「お待たせしました。」



 目を瞑り、キョーコに伝える言葉を考えていた蓮の耳に、少女の柔らかな声が聞こえてくる。蓮は、ゆっくりと瞳を開き、キョーコの姿をその目に映した。



「すみません、敦賀さんには子どもっぽいメニューになっちゃいますけれど…。あの、昨日余ったご飯があったから……。」



 少し焦ったような声を出しながら、キョーコが蓮の元へ歩み寄る。

その愛しい少女が運んで来たものは……。



「はい、どうぞ。」



 ガラスのテーブルに、スプーンと共に置かれたもの。それは、とても綺麗な黄色い木葉型をした食べ物で……



「…え~~と…。今日はこれでも特別なんですよ?美味しそうなエビがあったんで、チキンライスの中にエビが入っているんです。あ、そうだ。ちょっと待っていてくださいね?」



 その食べ物が目に入った瞬間、彼女に伝えるはずの言葉は、全て吹っ飛んでしまった。

ドクリ、ドクリとこれまでになく早く、強く刻まれる自分の鼓動の音だけが、やけに耳についた。キョーコが懸命に語る声もどこか遠くで響く音のように感じてしまう。



「ちょっとケチャップが足りなかったんですよね。ケチャップ、お嫌いじゃないですか?」

「……うん……。」



 反射的に答えはしたものの、ほぼ無意識な状態だった。



「それじゃあ、失礼しますね?」



 瞬きも忘れて、ただキョーコを見つめる。蓮は、キョーコの動きの全てをしっかりとその双眸に焼きつけていた。



 ケチャップの蓋を開き、蓮の目の前に置かれた黄色い卵で包まれた食べ物の上に描かれる、綺麗な形。

 

 ……それは、広大無辺を意味する形であり…そして、永遠に続くものを意味する……



「敦賀さんっ!?」



 ―――何、簡単なことだ―――



「敦賀さん、大丈夫ですか!?」



―――惚れた女に魔法をかけてもらうだけ―――



 目に映っていたものがぼやけて見えなくなる。代わりに、脳裏に鮮やかに蘇るのは、『久遠』であった頃、唯一彼を気にかけてくれていた…兄のように慕っていた男の笑顔。



「……っ」

「敦賀さん……?」



 頬を伝う温かなもの。瞬きも忘れた瞳から、次から次へと溢れ出て、流れゆく雫。



 蓮は左手で右手首を握りしめる。…そこにあるのは、今も変わらずある『戒め』。右手首の腕時計に込めたものは……



 ―――忘れないよ、絶対に…―――



 忘れては生きていけないものをはめ込んだ、重い重い…手枷。目を瞑れば、今も思い出す。進むことも戻ることもできず、身動きができなかった『あの日』の闇が見える。そして、それに陥るまでの…自身が犯した愚かしい『罪』までもが。



―――忘れる、わけがない…。―――



 全てを破壊するために荒れすさんだ事も、いっそ砕けて消えてしまおうかと、生きる事さえ放棄した事も。



―――全ては、『俺自身』なのだから…―――



 別人になりすまそうが、違う国で一からやり直そうが。…過去は何一つ持ち込まないと心に決めようが。 

 『クオン』として生きてきた全ての出来事は、全て『彼』に返り…そして、『彼』を育む糧となる。



「もがみさん……。」

「はっ、はいっ!!」



 そして、『敦賀蓮』として生きてきた全ての出来事は…想いは、全て『彼』に返り…そして、『彼』を育む糧となるのだ。



 面白おかしい社長との日々。孫娘のちょっと変わった少女との日々。…優秀なマネージャーと仕事をこなしてきた日々。

 そして、今。…目の前にいる少女と出会い、過ごした日々……。



 彼の瞳から零れ落ちる雫は、クオンが流したものであり…蓮が、流したものでもあった。そして、二つの『こころ』は、彼女のかけた魔法で溶け合い、初めて一つになる。



「俺は……」








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