かけがえのない日々~欠けたモノ(4‐2)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「…申し訳ありません。彼女にも、あなた方にも何一つ落ち度はないのに……。」

「お詫びと言ってはなんだが、その旅行費はこちらで…」

「それには及ばねぇ。」



 椹が頭を下げ、ローリィが提案をしようとすると、大将はすぐさまその言葉を一蹴する。大将はキョーコに向けていた穏やかな瞳を、今度は鋭く細めてローリィと椹に向けた。



「今してほしいことは、私らのことじゃない。私らもしばらく東京を離れるんだ。…キョーコちゃんを、よろしくお願いします。」



 女将は、そんな大将を苦笑して見つめていたが、その視線を、大将を見たまま固まるローリィや椹、松島に向け、頭を下げた。



「そ、そんな…。それは、頼まれることもないことです。」

「キョーコちゃんは頑張り屋さんだけれど…頑張りすぎて周りが見えないところもあるからねぇ。…お願いしますね?皆さん。」

「は、はい…!!必ず!!」

「退院後の最上君の住まいはうちの一室を準備します。…幸い、うちの孫娘は最上君を慕っているので…逆に喜ぶでしょう。」

「ふふふっ、あのパーティーの日にいた可愛らしいお嬢さんだね?聡明そうなお嬢さんだったから、私も安心です。」



 穏やかに笑う女将。だが、松島と椹は姿勢を正して頭を深々と下げ、ローリィも心持ち背筋を伸ばして対してしまう。それだけの迫力が、穏やかな女将から感じられたのだ。



「…おい。そろそろ行くぞ。こいつも休ませてやらねぇといけねぇだろうし…。」

「そうだね。…じゃあキョーコちゃん。今度会うのは2ヶ月先になるだろうけれど…部屋はそのままにしておくし、いつでも戻っておいで?東京に帰ってきたらすぐに電話するからね?」

「女将さん…大将……。」

「…土産も買ってくるからな。」

「あんたはセンスがないんだから、私に任せておくれよ?若い女の子にクマの木彫りの置物とか、必要ないんだから。」

「……。…分かっている……。」

「本当に分かっているのかい?全く、怪しいもんだねぇ…。」



 大将は、未だに女将のハンカチを握りしめながら涙を流すキョーコの肩を叩くと立ち上がる。その大将に続き、女将も立ち上がった。



「それじゃあね?キョーコちゃん。…元気でいるんだよ?」

「はい。ありがとうございます…。大将も女将さんも、お気をつけて。」

「…俺らのことは心配するな。お前は自分のことだけを心配したらいい。」

「ふふふ。何言っているんだい、嬉しいくせに。…それじゃあ、私達は失礼させていただきますよ?」



 ふい、と顔を背けてキョーコに顔をあわすことなく大股に扉へと歩む大将に、女将は苦笑を浮かべながら言い、それからローリィと須永、椹と松島に頭を下げ、最後にキョーコに微笑みかけると大将の後に続く。



 大将は一度も振り返ることなく、女将は最後に全員に会釈をして、部屋を出て行った。そんな二人を、初老コンビ、壮年コンビは深々と頭を下げて送った。…キョーコは、手に握ったハンカチを再度ぎゅっと固く握ると、瞳を閉じ、頭を下げた。






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