かけがえのない日々~欠けたモノ(4‐1)~ | ななちのブログ

ななちのブログ

このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「……どうした。青い顔をして。」

「えっ…。あ、たっ、大将…!女将さん……!!」



『だるまや』の大将が入室した時。キョーコを始め、室内にいた人間は全員扉の方向へ視線を向けていた。

 ローリィと須永は厳しい眼差しで、椹とキョーコは青ざめて、入室してきた松島と大将、女将の三人を迎え入れることになる。



「敦賀蓮さんと不破尚さん、かね?あの二人なら大丈夫だよ。どちらかが傷つくこともなければ…傷つけられることもなかった。…身体のほうは、ね。」

「そ、そう…ですか。」

「お前が気にすることはねぇ。」

「は、はい…。」



 何を言っているのかは分からないものの、尚の喧嘩腰の声と、尋常ではない物音は病室の中にも響いていた。…室内には、先ほどのような能天気な雰囲気はなかった。



「二人を、止めて下さったのか…?」

「……。商売道具を傷つけるのはプロ失格だ。身体にしろ、評判にしろ、な。その辺の教育をあんたのところはしてねぇのか?」

「…申し訳ない。普段はそんな血迷ったことをする男じゃないんだが……。」



 ローリィは、室内に入ってきた二人に「どうぞ」と椅子を進める。キョーコの両脇の席は、二人のために即座に空けられた。



「キョーコちゃん。大丈夫かい?」

「はい、すみませんでした。」

「謝る必要はねぇよ。無事ならそれでいい。」



 キョーコの右隣に座った女将は、キョーコの髪に触れ、心配そうに顔をゆがめた。大将は左隣に座り、ぶっきらぼうにキョーコの謝罪を受け入れる。



「その…。社長からの電話と、来る途中、松島からお話はあったかと思いますが…」

「あぁ。…分かっている。」



 椹は、大将と女将にキョーコの所属する部署の主任であることを名乗り、今回のことを謝罪するとすぐに話を切り出そうとした。だが、その言葉を大将が遮る。



「キョーコ。」

「!!はっ、はい!!」

「俺達はしばらく旅行に行く。」

「……ふぇ?」



 大将の突然の言葉に、キョーコは目を丸くする。…だが、目を丸くしているのは彼女だけではなかった。



「いやね。私達、新婚旅行もできなかったんだよ。私もこの人と結婚する前はよく色んなところに行ったんだけれど、お店があるとそういうわけにもいかないし。だから、思いきって2ヶ月、店を空けることにしたんだ。」

「急ですまねぇが、そういうことだ。…お前はしばらく、宝田さんのところで世話になれ。」



 照れくさそうに笑う女将と、腕を組み、眉間に皺を寄せたまま言う大将。そんな二人を見る宝田と椹…そして、松島はキョーコと同じく目を大きく見開いていた。



「…あの…。」

「なんだい?キョーコちゃん。」

「…私の、せいなんですよね?私が何か、お二人にご迷惑をおかけするような騒動を…!!」

「お前のせいじゃねぇ。」

「そんなはずありません!!大将と女将さんが、お店を2ヶ月もお休みするだなんて、そんなことありえるはずがないんです!!」



 定休日でも、大将はいつも調理場に立っていた。女将はいつも店を綺麗に磨いていた。…そんな二人を、キョーコは知っているのだ。なのに、突然理由もなく2ヶ月も店を空けるなどと言いだすわけがない。

ここで考えられる理由はただ一つ。…何が原因かは分からない。それでも、聡いキョーコには、その理由が分かってしまった。



「…日本料理にも色々あるからな。様々な地域の郷土料理に触れて、研究をするのも悪くはない。」

「大将……!!」

「キョーコちゃん。…ここは、私らの想いを汲んでおくれ?」

「…女将さん…?」



 思わず大将の腕を掴み、涙目になりながら訴えるキョーコ。そんなキョーコの肩にそっと触れ、女将はにこりと優しい笑顔を浮かべた。



「大丈夫。また社長さんや椹さんから説明があると思うけれど…。あんたは何も悪いことはしていないよ?ただ、少し賑やかな事態になっちまっているだけさ。」

「じゃあ、やっぱりご迷惑を…!!」

「キョーコちゃん。あんたは覚えていないけれど、私らはこの1年、一緒の家に住んでまるで家族のように生活してきたと思っているんだ。…あんたがどう思っていたかは、分からないけれどねェ…。」

「感謝しています…!!だって、こんな私を厭うことなく温かい寝床を与えてくださったんですもの……!!」

「うん。感謝はしてくれていたと思う。…でもね?そうじゃなくて。…私らはあんたに迷惑もかけてもらいたいのさ。それが今回だっただけ。勝手かもしれないけれど、私らは嬉しいんだよ?」



 ぽろぽろと、キョーコの瞳から涙が零れ落ちる。そんなキョーコの肩を優しく叩きながら、女将はキョーコに自分のハンカチを差し出した。





web拍手 by FC2