第2外国語への手引き(第7回:複数形-sの偶然!) | Prof_Hiroyukiの語学・検定・歴史談義

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<本記事を引用された場合、その旨を御連絡頂けると有り難いです。>

昨日の「本日の楽器」 では、カスタネットのスペイン語表記がCastan~uelasと複数形になっており、スペイン語でも複数形は-sで示される事についても触れました。

一方、同じロマンス語なのに、イタリア語では複数形は-sで示されません。

(男性単数)libro→(男性複数)libri 本

(女性単数)carota→(女性複数)carote にんじん


どうやら「複数形に-sを用いるグループ」と「そうでないグループ」という分け方も出来そうですね。

実はこれ、ロマンス諸語における大分類の基準なのです:


(1)東ロマンス語(ルーマニア語、イタリア語など)・・・複数形に-sを使わず、「母音交替」をする。

(2)西ロマンス語(フランス語、スペイン語など)・・・複数形に-sを使う。

母音交替については上を見れば見当がつくと思います。


一方、ロマンス語と同様に語派を作っているゲルマン諸語においては、

(1)英語・・・複数形に-(e)sを使う。

(2)その他のゲルマン諸語・・・複数形にsを使わず、「母音交替」や-enなどの他の語尾を用いる。

という事になります。


英語の複数形の作り方が他のゲルマン諸語と異なるのはどうしてか?と考えた際、「英語がフランス語の影響を大きく受けている」事実にどうしても注目してしまいます。


「近縁言語のドイツ語とかに見られない訳だから、英語においてsを付けて複数形とするのはきっとフランス語からの借入に違いない!」

そう思い込んで、今まで放置していたわけです。


ところが、参考文献(1)(2)に目を通した際に「(a)sによる複数形は古英語の時代から」という事実が判明。ノルマン征服に始まるフランス語の影響は中期英語の時代に当たるので、これではフランス語介入とは言えなくなくなるのです。(4/6の「あすか・よしの談義(第7話:英語の大母音推移)」にも関連記事が有ります。ここをクリック)


長くなるので結論を要約して申しますと、現在の英語の複数語尾sは、古英語の主格複数語尾-asが変化したもの。どうやら英語独自で獲得した語尾らしく、フランス語やスペイン語などの西ロマンス語が複数語尾にsを持つのとは直接の関係はない(但し、フランス語が英語における-(e)s以外の複数語尾を駆逐する原動力になった可能性は有る)。


すなわち、

「少なくとも英語の複数形はフランス語からの借入とはいえない


という事になる様です。英語では-(e)sフランス語では-sと、確かに良く見れば少し違いますが、この一致は何という偶然でしょうか!

間違いなく、これが第2外国としてフランス語やスペイン語を取りやすくしている要因の一つでしょうから。

(「補足編」http://ameblo.jp/prof-hiroyuki/entry-10543159746.html も御参照ください。)


参考文献:

(1)「英語の歴史」,渡部昇一,大修館書店,1983.

(2)「図説 英語入門」,中尾俊夫・寺島迪子,大修館書店,1988.