思えばこれまで多くの一箱古本市で箱主と会ってきた。老若男女、職業も色々、出店理由も箱主の数だけある。おそらく今日も全国各地で一箱古本市と銘打たれたイベントが開催されているのだろう。
と、感慨にふけっている場合ではなかった。僕は荷物をかき集め開催会場へと向かっている。電車内で会場までの道すじは確認しておいたので、降りる改札は間違えない。
ただその前にコンビニに入る。やはり食べるものが何もない状態のまま参加するのはめぐりめぐって売り上げに関わる問題になる。
一箱古本市の箱主に優しいコンビニとは、まず入口に段差がない事、店内の通路が広めにとってある事、そしてキャリーカートを引いた客であっても快く対応してくれる店員がいる事だ。
基本的に箱主にとって参加中食事をどうするかという事については切実な問題だけど、僕の場合はそれがやる気の減退につながってしまう。するとイライラしているようにお客さんには見られてしまうらしく、結局のところ売り上げに響きかねない。
くるみのパン、小さいパッケージのスナックをいくつか、そしてペットボトルのカフェオレを取るとレジへ行き、会計を済ませる。
会場へ急がねば。
ただ電車内で確認したところ駅から会場へそこそこ歩くらしい。
15分から20分といったところだろう。
箱の中にはこれまで自分で買った本、お客さんとして一箱古本市などのイベントに行った時に買った本などが詰まっている。それらの行動の一つでもなかったなら、このラインナップでの一箱はできなかったという風に考えると、一箱は自分そのものを鏡で映したようなものと言える。
お茶好きが高じて飲料関係の本ばかり並べる『飲む本屋』。ただし酒の本は一切置かずただただ孤高を貫いていたおっちゃんは元気にやっているだろうか。
夫婦で正反対の趣味を持つ『VSブックス』はいつも一箱に異なる2ジャンルがひしめきあっていた。中でも「インドア本VSアウトドア本」の箱は秀逸だった。
本だけじゃない。毎回フリーペーパーを作り買ったお客さんに渡す箱主、オリジナルのブックカバーを用意する箱主、年齢不詳、職業不詳の謎の箱主等……
それら多くの箱主から買う事もあったし、買う事はなくてもこんな種類の本があるのか、とインスピレーションを受ける事が多かった。それだけ人の関心と言うのは多岐に渡っていて、幅広い。たとえばテニスを普段やっている人が自分のテニスという趣味からテニス関連の本を集めだしたらきっと面白い事になる。教本は新刊の書店にもあるかもしれないが、テニス選手の自伝やテニスの歴史の本など枝葉が広がるとそれだけ世界が広がっていく。これに近い事が一箱古本市ではそれぞれの箱に起こっていると考えるととても面白いものに見えてくる。
ふと時計を見るともう開始時間になっている。
これまで何度も一箱古本市に参加してきた人間がこれでは情けない。
キャリーカートをガラガラと引いて行く。もうじき会場に到着するはずだ。
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