思いつき小説「一箱の想い」3´ | 真崎大矢blog『デイリーマザキ』

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僕は目覚めた時に今がいつだったか思い出せない事がある。

それが直前まで見ていた夢のせいなのかわからないけど、一瞬「僕は何歳で今日は何曜日だろう。今は何時で休日なのかどうか……」と一つずつ思い出してやっと状況を理解する。

 

そう、今置かれている状況を理解する。

 

まずい。とてつもなくまずい。

 

今日は一箱古本市の当日だったはずだ。

僕は昨日の夜に値段付け等の作業を残したまま少し眠くなったので仮眠をした。そこまでは覚えている。つまり……そのまま当日の朝を迎えてしまったようだ。

 

時計を見ると10時だった。受け付け開始は10時半からで開始は11時から。ここから何も用意せずに会場まで向かったとしても一時間はかかる。つまりどうやったって間に合う事はない……人は到底無理な事がわかると諦めがつくのか少し冷静になる。

それなら次善の策を考えるだけだ。なんとかしてより早く準備を済ませ会場入りするにはどうするべきか。

 

どうしようか、と急速に頭が働き始め残っている作業と会場に到着するまでにかかる時間を計算する。

 

まず選書は済んでいるが値段付けが終わっていない。短冊形に切った紙に値段を書き込み本に挟む。荷物もまとめてはいない。必要なものは全て自室にあるが、それをかき集める必要がある。これらの作業をどれだけ早く終わらせるかで遅刻の度合は決まってくる。

 

必要な荷物をまとめて会場へ向かい、値段付けは現地でしてしまおう。最終的に売り上げがちゃんと把握できれば問題は無いはずだ。

 

それぞれの本についてのおおよその値段は頭の中で決まっている。僕の場合は長年古本屋をウロウロとしていたせいもあっておおよその価値基準はわかっているつもりだった。それを踏まえて一箱古本市に出すならこのくらい、と値段をつけていく。

安く値段をつける分には問題はないけど、なんだかそれだとただのいらない本の安売りみたいになるからダメだ。そうではなくて、あくまで内容とそれを読んだ自分の思いを乗せた値段でないと相手に伝わらない、僕はそう思っている。ただもちろんこれは時間がある時にやるべき事でこの切羽詰まった状況でそれを説いたところで遅刻をしてしまうのは言語道断としか言えない。

 

キャリーカートを引っ張り出し、箱は1ケース買いして毎日一本ずつ飲んでいるコーラの段ボール箱。何度かその箱を使った為さすがにボロボロで次回の出店では新しい箱にしないといけない。畳める小さな椅子、釣り銭のケースはどこだ? いつでも出店できるように常に釣り銭ケースには100円玉と500円玉が数十枚ずつストックしてある。ある種のタンス預金みたいなものだと思っている。あと筆記用具、財布、事前に決めていた本をつめて、白紙の紙を適当に何十枚か入れる。

 

なんとかなるだろう。そう判断すると着替えを済ませ、髪を整えた後に空腹な事に気づいたが仕方がない。今日の一箱古本市では何か食べ物を売っているお店があったかどうか……まぁ会場に行けばわかると取り急ぎ家を出る。

 

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