思いつき小説「一箱の想い」5 | 真崎大矢blog『デイリーマザキ』

 
「主催の方ですか?」
 
私が声をかけるとその人は首を少し振りました。
 
「いえ、主催ではないですけど運営スタッフです。受付ですか?」
「はい、古書イルカと……」
「書肆葵です!」
 
運営スタッフの方は組み立て式の長机に置かれた出店希望者一覧表らしきを確認し始めました。
 
「古書イルカさんと、書肆葵さんですね。はい、OKです。出店料は500円になります」
 
出店料を支払うとそれぞれの屋号の書かれたネームプレートを渡されました。
 
「それでは出店についての説明をします。古書イルカさんと書肆葵さんは……確か初出店でしたよね?」
「はい!」
「応募の際返信メールにも書いておいた事ですが、確認として聞いてください。箱主として出店している時には必ずそのネームプレートを下げてください。場所はこの机から見える範囲であれば問題ないです。陳列は一箱におさまるようにお願いします。基本的にはこのあたりです。もしわからないことがあれば一箱古本市スタッフの誰かに聞いてみてください」
「わかりました。ありがとうございます」
 
ここで開催されている一箱古本市は十回以上と聞いています。説明もテキパキとしています。
 
「葵さん、準備を始めましょうか」
「そうですね」
 
キャリーカートから箱を降ろし、椅子を組み立ててブースになるように準備していきます。
 
「葵さんが一箱古本市に出ようと思ったきっかけは?」
「私本屋さんって好きなんだ。本のある空間が好きっていうのかな」
それは私もわかります。何も目的が無くても気がついたら足が本屋さんに向かっている事もあったりして……
「でも本屋さんの仕事って大変らしくて、夢は夢のまま一読者としているのがいいのかなって思ってた。でもどこかで、一箱古本市っていうものがあるって知ってこれに出るしかない! って」
「なるほど、それで出ようと」
 
そうやって話しながら準備をしていると何やら近づいてくる人がいます。
見たところ30代、メガネをかけた男性でした。
 
「おはようございます。ツンドク三昧と言います」
 
積読三昧という言葉に思わず吹き出しそうになりましたが、確かそんな屋号の人も参加していたと記憶しています。
 
「どうも、古書イルカといいます」
「書肆葵です」
「いや、先ほどの話をちらっと聞いていまして。確かに本屋さんは大変なんです」
「では……ツンドクさんは書店員さんなんですか?」
「そう、普段は本を売る仕事をして、休日も趣味で本を売る」
 
余程本が好きでなければできないのではないでしょうか。
 
「書肆葵さんのいうように確かに本屋は大変。一箱への出店とは全く違う世界かな? だからこそ一箱古本市への出店は良いんだなって思ったんだ。ごめん、準備の最中だったね、後でまた見に来ます」
 
そういってツンドクさんはお手洗いのあるほうへ歩いていきました。
 
「何あの人。全く違う世界だって。嫌な感じの人」
 
葵さんは少し怒っているようでした。
 
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