「・・・和馬は・・忙しいみてえだな、」
父はボソっと言った。
「・・出張が多いみたいだよ。 昨日から鹿児島に行ってるって言ったかな。 大手の建築会社だから。 しょうがねえけど。」
拓馬もそれに合わせるようにボソっと答えた。
「ヤツも・・いちおう一級建築士なんだから・・・・。 なんかわかんねえことあったら、相談しろ、」
「うん、」
兄に相談しろだなんて
今まで一度も言ったことがなかった。
こうした言葉の端々に
最近は敏感になってしまって
やりきれない。
「おめえの人生だ。 おめえの生きたいように生きればいい。」
目を閉じたままの父の言葉に
拓馬はハッとした。
詩織との結婚を考えていたとき
母が同じ言葉をかけてくれた。
「後悔だけは・・するな。 絶対に。」
何が変わったわけではないけれど
父の『異変』にぼんやりと気づいた。
ゆうこは涼太郎の幼稚園の園服を繕っていた。
子供が生まれるたびに実家の母に長い時間手伝いをしてもらっていたが
今回は退院して来てからは、母に手伝いに来てもらっていない。
ひなたやななみが大きくなってゆうこを助けてくれるようで、こころが赤ちゃん返りして困らせてもみんなで面倒見てくれる。
「もう寝たほうがええんちゃう? また凛太郎が夜中に何度も起きるし、」
志藤が促すと
「昼間に凛太郎とこころとお昼寝してますから。 」
「朝、おれに合わせて早起きもしなくていいし、」
「どっちみち学校に合わせて起きなくちゃならないし。 大丈夫。」
入院中の父のことで大変な母を気遣い
ゆうこもしんどそうな顔ひとつ見せない。
考えるのも
やりきれないが
たぶん
義父は自分の命の限りをわかっている。
志藤は直接そんな会話をしたわけではないが
義父の思いがダイレクトに心に伝わっていた。
その悲しい『予感』は
絶対にゆうこに知られたくなかった。
自分の胸の中だけに
義父との無言の『約束』をしまいこんでおきたかった。
義父に余命を知られないようにと過ごす家族、自分がそれに気づいていることを家族に知られないように思う義父。 志藤はその狭間でやりきれなさを噛み締めます…
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