Trace(11)

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「なんか返ってすみません、」

 

葦切はテーブルについて申し訳なさそうに言った。

 

「いいえー。 せっかくわざわざ持ってきていただいたんですから。 ちょうど作りすぎたと思っていたところです、」

 

さくらの右足はだいぶ良くなったようで、ギブスからただの包帯になっていた。

 

少し足を引きずりながらキッチンからミネストローネが入った皿を運んできた。

 

「住まいとレッスン場が一緒になって自炊する余裕ができました。 今までは夜に家に帰っても何もする気にならなかったんですけど。 今は合間に料理ができるので、」

 

「いただきます、」

 

葦切はそう言ってスプーンで一口すくって食べた。

 

「どう、ですか。」

 

「・・美味しいです。 とても。 すごい。 ミネストローネなんか食べたのいつ以来だろう、」

 

「よかった、」

 

「ピクルスも酸味がちょうどよくて。 とても美味しかったです、」

 

葦切はさくらに笑顔を見せた。

 

「家が旅館をしてましたから、母が忙しいので。 賄をしてくれるお手伝いさんはいたんですけど、自分で勝手に食べたいときに食べたくて。 中学生くらいの時から料理はしてました。 家族も周りもみんな味にうるさくて。」

 

「なんでもできるんですねえ。 篠宮先生は。」

 

さくらはふと思い出し、

 

「・・奏から瑠依くんのサックスの話、聞きました。 まだ直らないんですか、」

 

気になっていたことを聞いてみた。

 

「あ・・はい。 方々に問い合わせてみたようですが・・なかなか。 部品が特注になるようで、たったひとつの部品でそこまでやってくれるところが、なくて。」

 

「そう・・ですか。 あのサックスのメーカーはどこですか。」

 

「アメリカのモリ・シェード社のものです。」

 

「・・モリ・シェード・・。 確かにサックスメーカーにしては、マイナーですね。 主に管楽器でもトランペットやトロンボーンなどを製造してるところですよね、」

 

「ええ。 調べてみたらもうモリ・シェード自体がサックスの製造をやめてしまっているんです。」

 

「そう、なんですか、」

 

「サックスのメーカーとしてはマイナーですが、とてもいいものを作っていてあれも本当にいいものだったんですけど。 潮時なのかもしれません。 瑠依はもうプロになるのですから、自分に合った自分だけのサックスを見つけて・・頑張ってもらいたい気持ちもあります、」

 

葦切の言葉に何となく『余韻』を感じた。

 

「でも。 彼はすごくあのサックスに思い入れがあるみたいだって、奏が。」

 

「・・ええ。 瑠依が初めてあれを手にして。 サックスを始めたんですから。」

 

 

すごい! ねえ、お父さん。 これ、楽器なの?

 

どんな音がするの?

 

 

偶然押入れから見つけたそれを手に目を輝かせていた瑠依の顔を思い出す。

 

会話に少し間があいた後、

 

「・・私がアメリカに留学していた頃、サックスを専攻していた人と仲良くなって。 その人、今他のメーカーですがサックス製造の会社で仕事をしているんです。 その人にあたってみます、」

 

さくらはおもむろにスプーンを置いてそう言った。

 

「え、」

 

「やっぱり。 演奏家にとって楽器は特別です。 たとえ、仕事でつかえなくても、やっぱり壊れたままになんかしたくないはずです。 瑠依くんがそこまで思い入れがあるのなら。 なんとしてでも直してあげた方がいいんじゃないでしょうか、」

 

さくらはきっぱりとそう言った。

 

さくらは瑠依のサックスを何とか直してあげたい、と思います・・

 

 

ひなたと奏の出会いはこのへんから→

 

奏が北都家に下宿するいきさつからさくらとの出会いはこのへんから→

 

お話が長くなっております。よろしかったら読んでやってください・・

 

 
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