「ああ、志藤。 悪いが頼まれてくれないか。」
社長室に呼ばれた志藤はいきなり北都社長からそう切り出された。
「なんでしょう、」
「急なんだが。 12月24日にノースキャピタルホテルであるイベントがあってな、」
引き出しから資料を取り出した。
それを黙って手にして驚いた。
『千睦流』
の文字が目に飛び込んできた。
「華道の『千睦流』という流派を知っているか?」
「え・・・ええ。まあ・・」
なんだかわけがわからず曖昧に頷いた。
「3年に一度大きな作品展をウチのホテルで開催している。 赤坂ノースキャピタルの一番大きな『翡翠の間』で盛大に行っている。 今年もそれがあって・・・。 余興に頼んでいた琴の演奏会が土壇場でできなくなってしまったそうだ。 その団体内で分裂があって人数が集まらなくなってしまったようで。 責任者も困ってしまっているらしく・・・『北都フィル』で何とか都合がつけられないか、と」
思いがけない依頼だった。
「北都フィルで・・・」
「規模的に3~4人のアンサンブルで大丈夫だと思う。 」
「それは・・・一度お話を伺ってみないと、」
「これから『NC』の営業まで行って話し合ってくれないか。 急で悪いが。」
『NC』とはノースキャピタルホテルの母体会社で
北都はエンターテイメントの方とこの『NC』の両方で代表取締役社長を務める。
「・・わかりました、」
志藤はその資料を手に小さく頷いた。
簡単に資料を読んだが、かなりの規模の『パーティー』のようなもので
招待客も200人くらいになるだろうとのことだった。
志藤は午後から車で10分ほどの所にある『NC』までやってきた。
「ああ、志藤さん。 ちょうどよかった。 今、『千睦流』さんの方がお見えになっていて、」
営業部長の平田はホッとしたような顔で言った。
通された応接室で
「・・・『千睦流』の友永と申します・・・。 この度はムリなお願いを申し上げて・・・」
志藤が部屋に入ると同時に立ち上がって深々とお辞儀をした詩織は顔を上げた瞬間
あっ、と小さな声を上げて驚いた。
「・・お久しぶりです。 まさかこんなところでお会いするとは思いませんでした、」
志藤はニッコリと笑いかけた。
「・・・・・」
詩織はたった一度会っただけだが、志藤のことはよく覚えていた。
同時に拓馬から妹の夫が北都フィルの関係者だ、と教えられたことを思い出した。
「お知り合い、ですか。」
平田は二人の様子に怪訝な顔をした。
「・・ちょっと。 時間もないので早速打ち合わせをしましょう、」
志藤はまだ戸惑っている詩織を促すように会釈をした。
志藤は偶然に仕事で詩織と再会します。 止まっていた運命がまた動き出すかのように・・・
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