「お義父さんは拓馬を婿養子にしたくなくて、あんなに反対をしているんでしょうか。」
志藤は気になることを義母に聞いた。
「うーん・・・。 ホントのところはあたしにもわかんないけど。 いろんなこと考えちゃってるんだと思う。 そのことも含めて。」
母は組んだ腕を卓袱台の上に乗せた。
「ついこの間。 ・・・何だか近所の人のところに興信所みたいな人が来て。 ウチのことや拓馬のことをいろいろ聞いてきたんだって。」
そしてポツリとそう言った。
「え、」
「・・・拓馬のことを信じて、詩織さんの相手にと認めてくれたあちらのご家族がしたこととは思えないけど。 何しろ格式の高いおうちだからね。 いろいろあるのかなあって。」
初めてこの人の『グチ』のような言葉を聞いた。
「ああ、そういうことなんだって思った。 本人たちや家族が認めたって・・・一筋縄でいかないことばっかりなんだろうって。」
母として息子を心配する顔になっていた。
「腹が立つとかそんなんじゃなく。 これが現実だって。 お父ちゃんが心配していることも・・・結局そうなんじゃないかって。 ほんとどうしようもなかった拓馬がね、大工の仕事やるって言った時。 なんかもう嬉しさを隠し切れないでさあ。 『おう、そうか。』ってそっけない顔してたけど、その晩近所に呑みに行って、すっごい喜んで話してたって聞いたから。 あの人、中卒でこの仕事についたから・・・本当は子供たちには学歴を持って欲しいと思ってて。 その通り和馬とゆうこは大学までやれたけど、拓馬はなにしろ勉強もできないし、素行も悪いしで。 実際お父ちゃんは一番心配していたと思う。」
ふっと微笑んだ。
「拓馬は・・・お父ちゃんにとって特別だから。」
志藤はその言葉がしみじみと胸にしみた。
「・・いちいち聞きに来るんじゃねえ。 そんなもん自分で考えろ、」
拓馬は父の所にちょくちょくと出かけた。
仕事に関してのことで聞きたいことがたくさんあった。
最近はまともに口もきいてないので
気まずいのだが
今父からたくさんのことを教えてもらわないと
いつどうなってしまうのかと心配だった。
抗がん剤の点滴を始めた父は
顔色が悪くなり
具合も悪そうだった。
食事もほとんど採れていないようだった。
拓馬が病室に行った時は夕食が手つかずで残っていた。
「食えないの?」
心配そうに聞くと
「・・・病院のメシがまずすぎて食えないだけだ、」
いつものように強がったが
声に全く張りがない。
腰が痛い以外は特に自覚症状もなかったので
こんな治療をして返って苦しめているんじゃないか、と見ていられない気持ちもあった。
しかし
このまま放っておいたら間違いなく『半年の命』なのだ。
こんな父を見ているのはつらいが
自分も母と同じように
一日でも長く父には生きてほしい。
それだけを願った。
『拓馬は特別』 その言葉が全てをあらわしているようですが・・・
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