「じゃあ。 創玄先生のところのお仕事はあなたと千崎さんでお願いしますね。」
母の外出の前にそう言い付かった。
「はい・・・」
詩織はそう返事をした後、母に気づかれないように小さなため息をついた。
以前から気づいていた。
自分はこの人と一緒になるように周囲がお膳立てをしているんじゃないかと。
最近は二人で出かけるように言われることが多くなった。
車の後部座席から運転をする彼をぼうっと見やった。
彼の父親がもともと『千睦流』の弟子で、
彼自身も二十歳のころに母に弟子入りをして
12年経った今、母が一番信頼を置く人となっていた。
華道の腕はもちろん、母の秘書的な仕事もしていて
頭の回転も早く、経理の仕事も任されている。
一人娘の自分は
いずれ婿を取って『千睦流』を継がねばならない。
それはわかっているけれど
「創玄先生のお茶会の花は先生のご要望で枝物を、とのことです。 あまり華やかになり過ぎないように。 明日のカルチャーセンターの方は・・まあ、こういう仕事は受けたくなかったんですけどお世話になった方からの紹介だったので。 まあ、適当に・・・・」
こういう
仕事を『差別』するようなところがあって
あまり好きになれなかった。
あの人は
絶対にこんなことは言わない。
気がつけば
彼のことを思ってしまう。
おばあちゃまといつも楽しそうに話をしてくれていて
優しくて
あったかくて
あのかわいいブーケを思い出した。
もっともっと
あの人のことが知りたい。
あの人に
近づきたい・・・・・
「あ~~~、なんとか片付いた~~~、」
拓馬は狭い部屋に置かれたベッドに寝転がった。
「ほんと。 せまいね。 ベッド以外に座るとこないじゃない。」
引越しを手伝いに来た母は居場所がないように言った。
「いいよ、別にひとりなんだから。 なんでも手に届く所にあって便利便利、」
拓馬は笑った。
「んじゃあ。 帰るね、」
母が立ち上がる。
「ああ。 ありがと。 お母ちゃんがやるとさすがにすぐ片付くね、」
エプロンを外した母は少し迷った後
「ねえ、あんた。 誰か好きな人でもいるの?」
と、息子にいきなり聞いてきた。
「は・・・?」
拓馬は思わずベッドから起き上がった。
「な・・なんで?」
動揺してる・・・
さすがに母は鋭かった。
「・・なんとなく。 そうなのかなあって、」
確信でないことをバラしてしまったが。
詩織は拓馬への思いを募らせます・・そして拓馬はいよいよ一人暮らしを始めて・・
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