「え? 一人暮らし??」
ふらっと白川家に立ち寄った楓は出されたせんべいを食べながら驚いた。
「どうしたのかしら、急に。」
涼太郎を幼稚園に送って行ったあと実家に寄ったゆうこも驚いた。
「さあねえ。 なんかイキナリ言うんだもん、」
母は散らかしっぱなしの新聞や雑誌を片付けながら言った。
「やっぱりね・・・」
楓はひとり頷いた。
「やっぱりって?」
二人は彼女の言葉に食いついた。
「や・・なんか昨日ウチに来たとき。 なんかグダグダ言ってるからさあ。 あたしが『自活してみなさいよ!』って言っちゃったもんだから、」
「楓ちゃんが言ったの?」
ゆうこはこころを膝に抱っこした。
彼女はまるで重大な秘密を暴露するかのように
「なんかね。 ・・・どうも好きな人がいるみたいなのよ、」
二人にこそっと言った。
「えっ、」
ゆうこはこの前感じた『異変』の予感が当たってドキンとした。
「なんだか、『彼女にはおれじゃないけど、おれしかいないって気もする』とかイミシンなこと言っちゃって。 珍しく落ち込んでるってゆーか。 なんかハードルがある人なのかなって、」
彼女の言葉にゆうこも母も何となく目を合わせて考え込んでしまった。
本当に拓馬はこれまで女性にのめりこむこともなく
自分中心の生活をしてきたのに
いきなり一人暮らしをしてしまおうと思うほど
『本気』なのか、を二人は案じていた。
「え、一人暮らしを、ですか。」
この日は午後からお花の稽古にでかける詩織は着物に着替えて庭に出てきた。
「うん・・・。 なんかこのまんまでいいのかなーって考えちゃって。 いくら居心地がよくても、少しは生活の苦労もしなくちゃ・・とか。」
拓馬は道具の手入れをしながら、ホコリが彼女の方に行かないように背を向けながらそう言った。
「私も一人暮らしの経験はないですが、おうちの近くなら環境が変わることもないし、いいんじゃないですか。」
詩織は明るく言った。
「全部オフクロ任せだったからなー。 料理や洗濯も掃除もしたことないし。」
「あんなに器用なんですもの。 なにも不自由なんかしないんじゃないですか。 お料理も上手そうですね、」
そんな風に言われると
非常に照れる。
顔が赤くなっているんじゃないかと思って振りかえれなかった。
別に彼女のことは関係なく一人暮らしを決めてしまったけれど
自分の中で言い知れない何かが動いている気がして
自分でも怖かった。
「桜が、もう満開だね、」
拓馬は話をそらすように空を見上げた。
「そうですね・・・」
その時、彼の肩に花びらがはらりと落ちた。
詩織がそっとそれを取ってあげようとしたとき
拓馬は少し焦って身体を引いてしまった。
その彼の様子に詩織は少し驚いた。
「あ・・・いや。 着物が汚れる、」
拓馬は美しい彼女の着物姿を正視できずにそう言った。
また風が吹いて
花びらがはらりはらりと落ちた。
彼女と自分との差は、何かにつけて思い知る拓馬ですが・・・・
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