一方。
「なによ。 珍しく考え込んじゃって。」
『こまち』にやってきても拓馬はなんだかボーっとしてしまった。
楓は彼のグラスにビールを注いでやった。
「・・・恋するときって。 なんも理由なんかねーんだよな・・・」
少し酔っぱらって拓馬は頬杖をつきながらそうつぶやいてしまった。
「え、恋しちゃってんの???」
楓は敏感にその言葉に反応した。
「彼女には絶対おれじゃないってわかってる。 でも、・・・・おれなのかもしれない、とか・・・」
「意味わかんないし、」
楓は呆れた。
「ひょっとして。 不倫とか???」
彼女は本気で心配した。
拓馬はジロっと彼女を睨んで
「アホか! そういう人の道から外れたとかじゃなくて!」
そう言った後
ひょっとしてこれも
人の道を外れていることなのか
と思ったりもしてしまった。
「拓馬が恋に悩むなんてねー。 しかもこの年で!」
楓がアハハと笑うと
「だからよ。 年は関係ねーんだっつの! おまえにだけは言われたくない! 男を見る目がなさすぎる!」
若干据わった目で彼女に言い返した。
「ちょっと! 聞き捨てならないわね!」
「ヒモみてーな男と結婚してさー。 顔だけいい男だったけど、見事にひっかかったよなー。 結局1年ももたなかったし。」
いきなり自分に矛先が向いたので
「ふん。 結婚もしない男が! 実家でいつまでもくすぶってんじゃないよ。 自立できないんじゃないの?」
憎々しげにやり返した。
「自立できない~~?」
「そうだよ。 とりあえずさあ。 独立したらどーなのよ。 男として一人前にやってけなくて、愛だの恋だの言ってんじゃないよ。」
ほんっと
この辺の女は
どうしてこうもデリカシーがないんだ。
はらわたが煮えくり返る思いではあったが、しかし何となくそれも否定できない気がして
それ以上は言い返せなかった。
独立かあ・・・
確かにいつまでも実家に住み着いてたんじゃなァ・・・・
結局いつまでも自分は親に甘えて生きてきてる気がした。
いつものように居間で母がテレビを見て笑っていた。
その横で父は新聞を読みながら仏頂面だ。
「あら、おかえり。」
振り返りもせずに自分の気配を感じ取った母が
これまた振り返りもせずにそう言った。
「・・ただいま。」
拓馬は母の向かい側に座った。
そして
「あのさあ。 おれ。 一人暮らししようと思うんだけど、」
勢いって言ったら
まさしくそうなのかもしれない。
拓馬も悩んでおります・・・そして楓に言われるまま『独立』を両親に宣言してしまいますが・・
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