「もっと乗せる感じで、」
真尋はうまく言葉で伝えることができずに、少しイラだって
「ごめん、ちょっと。」
と、いきなり絵梨沙の代わりにピアノの前に腰掛けた。
「・・・第2主題のアタマんとこから、」
ミナに指示をしていきなり弾き始めた。
え・・・・
真尋はたぶんこの『カルメン』を弾いたことはないはずなのに
楽譜なしで弾き始めた。
しかも。
自分が手探りで感覚を探りながら弾いてたものよりも、数段堂々と。
真尋は合わせる相手をまるで挑発するかのように乗せてくる。
相手の力をぐんぐん引き出す。
ミナは負けずに音を乗せる。
すごい・・・
絵梨沙は感動してしまった。
少し弾いただけで、自分が弾いたときとはまるで違っていることを思い知らされた。
「もっと盛り上げて。 彼女もいい音出してんだからさ。 絵梨沙も自分のピアノの技術を発揮してさ、」
思わず神妙にうなずいた。
うなずかされるほど、真尋のピアノが素晴らしかった。
「・・・この曲、弾いたことあったの?」
思わず訊いてしまった。
真尋は
「え~? ないけど。 絵梨沙、家で弾いてただろ? こんくらいならすぐに覚えるよ、」
笑い飛ばした。
改めて彼の『非凡』さを思い知ってしまった。
斯波はその間も黙ってジッと腕組みをしていた。
そのあと、弾いている本人たちにもわかるほど音が変わった。
本当に不思議なことに気持ちひとつで音のノリが違う。
だんだんと楽しい気持ちがあふれてきた。
そうか。
やっぱりあたしはピアノが好きで。
誰のためでもなくて自分のためにピアノを弾きたいって・・・
自分の本能が動いたんだ・・
絵梨沙はふっとほほ笑んだ。
いつの間にかに真尋は帰って行ったみたいだった。
それに気づかないほど練習に集中していたようだった。
「なんか、すっごく合ってきた感じがします、」
ミナも嬉しそうだった。
「手がかかるな、」
その時斯波がふっと微笑んだ。
あ・・・・
絵梨沙はハッとした。
この人の笑った顔。
初めて見たわ・・・
いつもは鋭い視線しか向けてこない彼の目が
すごく優しくて。
思わずジッと彼を見つめてしまった。
その視線に気づいた斯波はふと絵梨沙を見たが
慌てて少し動揺したように視線を外した。
それがなんだかおかしくて、またクスっと笑ってしまった。
真尋の協力もあり、絵梨沙は斯波の笑顔を初めて見ました・・・
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